チャットボット
人工無脳(じんこうむのう)は、人間的な会話の成立を目指した人工知能に類するコンピュータプログラムである。
概要
人工無脳は、ユーザーがキーボード等を通じて語りかけることで、何らかの返答を口語でアウトプットする。 コンピュータに対する人格や知性といった人間らしさの付与を最終到達点と考える研究分野には、人間の脳(ニューロン)の働きをコンピュータプログラムに置き換えて成長させ、コンピュータにコミュニケーション能力を獲得せしむる道が存在するが、ボトムアップ型とも通称される、自我や知性を持つ人工知能の構築には課題が多く、完成が容易でない。 そこで、コンピュータに言葉の意味を理解させるのではなく、インプットされた内容に対する自然な応答を事前に学習、蓄積させておく手法が考案された。 このような逆算的アプローチによって構成された人工知能をトップダウン型と称し、ここで解説する人工無脳や、コンピュータゲームにおいて自律行動するNPC、オートメイテッドのオブジェクト等が、その代表格として知られる。 したがって、予め用意された文章を選択的にアウトプットする手法により会話の成立を目指した、ある種の人工無脳であるGoogleアシスタントやSiri等は、人工知能ともうたわれている。 先述の通り、人工無脳はトップダウン的なアプローチによって人間らしさが構築されており、事前に準備されたユーザーが期待するであろうレスポンスをアウトプットするため、その応答からは、しばしば知性の存在を錯覚させる。 しかしながら大半の人工無脳は、収集した文章からキーワードを抽出(構文解析)し、内部のデータベースとマッチング(探索)して応答する手法を用いているため、人間の思考とは解に至るまでのプロセスが大きく異なる。
名称
人工無脳は、「人工知能」ないし「人工頭脳」をひねったネットスラングであり、脳に比肩するほどの高度な処理は行われていないという皮肉が込められている。 また、「無能」のネガティブなイメージもあり、「人工無脳」とする表記が古くからあり、好まれている[1]。 チャットボットなど(英語圏ではchatterbotもしくはchatbot)とも呼ばれる。
歴史
1966年にジョセフ・ワイゼンバウムがELIZAを発表し、これを参考に様々なchatterbotシステムが生まれ、進化を遂げた。この過程で日本にも輸入され、日本語を土壌として日本独自の進化を遂げてきた。しかし、当時のソフトウェアやハードウェアで現存するものは少なく、具体的にどのような進化を辿ってきたのかは定かではない。
日本独自の進化をせざるを得なかった原因として最も大きなものに、日本語は通常分かち書きされていない(単語同士がスペースで区切られていない)ため、どこまでが単語であるかを判断するのが困難であるという点が挙げられる。現在では、自然言語処理の研究の進展や、飛躍的に向上したコンピュータの記憶容量と処理速度により、形態素解析などの日本語解析の手法を用いることで、英語などの分かち書きを行う言語に近い土俵に立てるようになったと言える。
日本ではパソコン通信のサービスのひとつ「チャット」において一般化した。当時は漢字入力ができないことが普通で、カタカナだけの会話であったため、読みやすくするためにわかち書きにすることが一般的であった。そのため構文解析の手間が少なく、エンジンの洗練化が進んだ。出来の良い人工無脳は人間と区別がつきにくいため、人工無能の発言にはマークがつく仕組みになっていることもあった。
応用
有名な人工無脳として、「おんJBot」や「ゆいぼっと」、「Chararina(旧:ペルソナウェア)」「伺か」、「よみうさ」、「人工無能うずら」、「ししゃも」、「Lainan(読み: ライナン)」「Apricot」がある。コンピュータによる合成音声の出力ができるものもあり、K仲川の「人工無脳ちかちゃん」(IBM ViaVoiceのエンジンを利用)や、佐野榮太郎のA.R.M.S(株式会社リコーの規則音声合成エンジンを利用)がある。 インターネットが普及して以降は、GoogleアシスタントやAmazonアレクサなどのバーチャルアシスタント、FacebookメッセンジャーやDiscord、微信などのメッセージアプリ等、個々のアプリやウェブページを介して利用される例も増加した。 コンピュータゲームに応用したものとして、古い作品にはEmmyがある。SCEの開発したゲームソフトであるどこでもいっしょのキャラクター「トロ」をはじめとするポケットピープル(略称:ポケピ)やWindows Live メッセンジャー のアドバイザー「まいこ」なども人工無脳に類するキャラクターである。
手法
会話ボットは、人間の発した特定の単語やフレーズを認識することで、会話の内容を理解していなくとも、相手にとって意味がある応答を返すことができる。ただし、応答の内容は事前に準備しておく必要がある。
例えば、人間が "I am feeling very worried lately,"(私は最近とても心配だ)と入力したとき、会話ボットは "I am" というフレーズを認識し、そこを "Why are you" に置き換えて最後に疑問符をつけ "Why are you feeling very worried lately?"(なぜあなたは最近とても心配だと感じているのか)と応答する。同様の手法として、例えば著名人の名前を人間が出してきたとき、それが内部のデータベースにあれば "I think they're great, don't you?"(彼らはすごいよね)などと応答する。特に会話ボットの仕組みを知らない人間はこのような手法によって会話が成り立っていると感じさせられる。会話ボットに批判的な者はこのような錯覚をELIZA効果と呼ぶ。
会話ボットに分類されるプログラムの中には異なる原理で動作するものもある。例えば Jabberwacky では、人間が新たな事実や言語を学ぶ方法をモデル化しようとしている。ELLA は自然言語処理の技法を利用してもっと意味のある応答をしようとしている。ユーザインタフェースとして自然言語を利用する SHRDLU のようなプログラムは、会話の領域がそのプログラムの知っているシミュレートされた世界に限定されるため、会話ボットとは呼ばれないのが一般的である。逆に SHRDLU などは内部のシミュレートされた世界に関する知識に基づいて会話しているため、会話ボットよりも人工知能としてのレベルが高い。
初期の会話ボット
初期の会話ボットとしては、ELIZA と PARRY がある。その後、Racter、Verbot、A.L.I.C.E.、ELLA などが登場した。
会話ボットの研究分野としての成長により、様々な目的の会話ボットが作成されてきた。ELIZA や PARRY はある型にはまった会話だけに使われたが、Racter は The Policeman's Beard is Half Constructed という物語を「書く」のに使われた。ELLA は会話ボットの可能性を広げるため、ゲームや役に立つ機能を各種搭載している。
会話ボット(ChatterBot)という用語は1994年、Verbot や Julia といった会話ボットを開発した Michael Mauldin が Twelfth National Conference on Artificial Intelligence[2]で発表した論文で、この種の会話プログラムを指す言葉として使ったのが最初である。
導入事例
社内の情報システム部門のヘルプデスク担当者の負担軽減のためにチャットボットを導入するという事例がある[3]。「学習データの作成が大変」[4]だが、人件費の節約や属人化の問題を解消できるとされ、24時間365日体制での対応も可能とされる[5][6]。
悪意ある会話ボット
悪意ある会話ボットを使って、インターネット上のチャットルームをスパムであふれさせたり、他者の個人情報を明かすようそそのかしたりする状況がしばしば見られる。このような会話ボットは Yahoo! Messenger、Microsoft Messengerサービス といったインスタントメッセンジャーサービスや特定のコミュニティのチャットルームなどに出現する。
人工知能における位置づけ
最近の人工知能(AI)研究は実用性のある技術的課題に重きを置いている。これを弱いAIと呼び、知性と推論能力を必要とする強いAIと区別している。
AI研究の一分野として自然言語理解の研究がある。弱いAIにおいては、自然言語理解のための特殊なソフトウェアやプログラミング言語を利用する。例えば、最も人間に近い自然言語を話す会話ボット A.L.I.C.E. は AIML という特殊な言語を使っている。A.L.I.C.E. も推論などとは無縁な単なるパターンマッチングに基づいて動作し、これは1966年の最初の会話ボット ELIZA と基本的に変わっていない。
Jabberwacky や Kyle はそれよりも若干強いAIに近く、ユーザーとのやり取りから学習し、新たなユニークな応答を生成することができる。これらはある程度の効果を発揮するものの、様々な自然言語にまつわる問題への対処はまだ十分ではなく、汎用的な自然言語による対話が可能な人工知能は未だ存在しないと言わざるを得ない。このため、ソフトウェア開発者はこういった技術をより実用的な目的(情報検索など)に応用する方向に向かっている。
チューリング・テストの議論では、人工知能が真の知性を持っているかを判断することの難しさが指摘されている。例えば、ジョン・サールの中国語の部屋やネド・ブロックのブロックヘッドなどがよく知られている。
脚注
- ^ コンピュータのことを「電子頭脳」「人工頭脳」と呼ぶ例の影響も考えられる。また、成書のタイトルを見ると、『人工無脳』(1987年5月ビー・エヌ・エヌ刊)『恋するプログラム - Rubyでつくる人工無脳』(2005年4月毎日コミュニケーションズ刊)『はじめてのAIプログラミング - C言語で作る人工知能と人工無能』(2006年10月オーム社刊)となっている
- ^ AAAI-94: Twelfth National Conference on Artificial Intelligence
- ^ “仕事時間の半分が社員のITサポート――そんな大京情シスの働き方を変えたAIチャットbot (1/3)”. ITmedia エンタープライズ (2018年4月2日). 2018年4月5日閲覧。
- ^ “仕事時間の半分が社員のITサポート――そんな大京情シスの働き方を変えたAIチャットbot (2/3)”. ITmedia エンタープライズ (2018年4月2日). 2018年4月5日閲覧。
- ^ “「あるある質問」を減らせ!社内FAQをチャットボットに置き換えるmofmofの挑戦”. Ledge.ai (2018年2月19日). 2018年4月5日閲覧。
- ^ “社内問い合わせ対応専用人工知能チャットボットサービス”. My-ope office. 2018年4月5日閲覧。
関連項目
外部リンク