コンテンツにスキップ

ラクトースオペロン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。Luckas-bot (会話 | 投稿記録) による 2011年12月31日 (土) 12:51個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (r2.7.1) (ロボットによる 追加: th:Lac operon)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

ラクトースオペロン(lactose operon)とは、ラクトース(乳糖)分解に関与する一連の遺伝子の集合で、リプレッサーオペレーターによりRNAへの転写が支配されている転写単位となっている。

1961年のフランソワ・ジャコブジャック・モノーによる大腸菌のラクトースオペロンに関する研究と、その際に提唱されたオペロン説は、遺伝子発現の調節に関する研究の大きな転換点となった。

概要

オペロンとは、構造遺伝子および調節領域(→調節遺伝子)が形成している、一つの制御単位であるが、このページではその例の一つであるクラスター、lacZYAについて解説する。lacZYAはラクトース代謝系の3つの構造遺伝子lacZ、lacY、lacAで構成されている。

  • lacZ:β-ガラクトシダーゼ(EC 3.2.1.23)をコードする。この分子の活性型は約500kDa四量体である。この酵素はβ-ガラクトシドを単糖に分解する。たとえば、ラクトースはグルコースとガラクトースに分解される[1]
  • lacY:β-ガラクトシドパーミアーゼをコードしている。これは30kDaの膜結合型蛋白質で、膜輸送系を構成していてβ-ガラクトシドを細胞内に取り込む。
  • lacA:ガラクトシドアセチルトランスフェラーゼ(トランスアセチラーゼとも)(EC 2.3.1.18)をコードしている。これはアセチルCoAからβ-ガラクトシドにアセチル基を転移させる酵素である。

大腸菌のラクトースオペロン

大腸菌においては、lacI(リプレッサーの構造遺伝子)に続いて、調節領域であるlacP(プロモーター配列)、lacO(オペレーター配列)の二つと、構造遺伝子領域であるlacZ。、lacYlacAの三つが並んでいる。

===(P,O)=''lacI''==(T)==========''lac''(P),''lac''(O)==''lacZ''==''lacY''==''lacA''==(T)==

lacIは常時発現しており、一定の速度でリプレッサー蛋白質を生産している。このリプレッサー蛋白質は、DNA上のlacオペレーターとの親和性が高く、通常この領域を認識し、結合している。リプレッサーがオペレーターに結合した状態にあるときは、RNAポリメラーゼのプロモーター領域への結合が阻害され、以降に続くlacZlacYlacAの構造遺伝子のmRNAへの転写が抑制されている。

    リプレッサー --------------------------
      ↑                  ↓
===(P,O)=''lacI''==(T)==========''lac''(P),''lac''(O)==''lacZ''==''lacY''==''lacA''==(T)==
                     ×
                     ↑
                   (RNA pol) 転写が抑制される。

    リプレッサー -------ラクトース----------
      ↑                   ↓
      ↑                   ×
===(P,O)=''lacI''==(T)==========''lac''(P),''lac''(O)==''lacZ''==''lacY''==''lacA''==(T)==
                     ↑
                   (RNA pol) -----------------------------------→転写促進される。

リプレッサー蛋白質は、アロラクトース細胞内でラクトースが異性化したもの)などの誘導物質と結合すると高次構造が変化し、不活性型となってオペレーターから解離する(あるいは結合できなくなる)。リプレッサー蛋白質がオペレーターから解離すると、RNAポリメラーゼによるlacZlacYlacAの構造遺伝子のmRNAへの転写が可能になる。こうした調節因子(今回はlacI)の働きを変える因子(今回はラクトース)の事をインデューサーという。

カタボライト抑制

ラクトースのみがラクトースオペロンのインデューサーとして機能するだけではなく、ラクトースの代謝産物であるグルコースもインデューサーとして機能する。ラクトースおよびグルコースが大量に存在する場合、ラクトースを分解する反応は大腸菌にとっては不必要である。そのため、ラクトースリプレッサーとは別の発現調節がなされる。

グルコースの存在下ではカタボライト抑制と言われる発現調節機能が働く。lacPプロモーターは前半部分がCAP結合部位(またはCRP結合部位)、後半がRNAポリメラーゼ結合部位となっている。CAP(あるいはCRP)とは、カタボライト遺伝子活性化蛋白質のことで、CAPはcAMP(環状AMP)と結合することにより活性化する。lacオペロンの構造遺伝子の転写を促進するためには、CAP-cAMP複合体がCAP結合部位に結合している必要がある。

   CAP-cAMP       ---------------→転写促進
====CAP結合部位===''lac''(P),(O)==''lacZ,Y,A''==(T)==


    カラ         転写効率の低下→
====CAP結合部位===''lac''(P),(O)==''lacZ,Y,A''==(T)==

グルコースの存在下においてEIIA酵素は非リン酸化状態で存在し、これによってアデニル酸シクラーゼ(EC 4.6.1.1)やラクトースパーミアーゼは不活性化する。それゆえ、アデニル酸シクラーゼによりATPから合成されるcAMPは低濃度となり、同時にラクトースは外部から細胞内に取り込まれることはなくなる。通常のグルコースが十分にある条件下では、cAMPの細胞内の濃度は、CAP-cAMP複合体が形成できるほどにはならず、グルコースは優先して消費される。 グルコースが減少してくると、リン酸化されたEIIA酵素が蓄積し、アデニル酸シクラーゼが活性化してcAMPが盛んに生産される。それゆえCAP-cAMP複合体が形成されるようになる。

結果として、ラクトースオペロンは、ラクトースが存在し、グルコースが不足した条件下にあるとき、初めて発現することとなる。ラクトースとグルコースが豊富に存在する場合では、カタボライト抑制によりまずグルコースが消費され、その後にラクトースが消費される。こうした培地で育てた大腸菌は、二段階増殖(2度の対数増殖期を迎える)の増殖曲線を描く。

注釈

  1. ^ そしてこれは更に代謝される

関連項目