ヨコエビ

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ヨコエビ亜目
Atylus swammerdami
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 甲殻亜門 Crustacea
: 軟甲綱 Malacostraca
亜綱 : 真軟甲亜綱 Eumalacostraca
上目 : フクロエビ上目 Peracarida
: 端脚目(ヨコエビ目)
Amphipoda
亜目 : ヨコエビ亜目 Gammaridea
本文参照

ヨコエビ(横蝦、-海老)は、甲殻亜門軟甲綱端脚目(ヨコエビ目)・ヨコエビ亜目(Gammaridea)に属する甲殻類の総称。

名称に「エビ」とあるが十脚目(エビ目)ではない。体長は数mmから10数cmまで種類によって差があるが、多くは数mm程度しかなく、1cmを超える種類は少ない。体は左右に平たく、横から見ると半円形をしている。脚や触角は短い。

端脚類の中でも特に種分化が進んだグループで、幅広い環境にたくさんの種類が分布している。多くの(4000種以上)は海洋に生息し、個体数が多いために食物連鎖において非常に重要な分類群である。淡水にも、温帯冷帯を中心に800種以上が見つかっている。陸生のものはそれらに比べれば少ないが、それでも200種以上が海岸の草むらや落ち葉の下に生活している[1]

自然界では分解者として、また他の動物の餌として重要である。たとえば河口域において、ヨコエビ類が堆積した落ち葉を食べ分解すると同時に、魚類の餌となっている事例が知られている[2]。人間にとっての利用価値はほとんど無いが、カメカルシウム補給用の餌として販売される。

生態の多様性

同じヨコエビ亜目でも、分布する環境がちがうと行動もちがう。多くの種は水生の底生生物だが、なかには遊泳するもの、さらには陸生のものもいる[3]

陸上生活をする種類はジャンプ力にすぐれているので、和名が「ハマトビムシ」とつけられた種類が多い(トビムシ目の動物も「トビムシ」と呼ばれるが、ヨコエビ亜目とは同じ節足動物門ではあるものの亜門レベルで異なる別物である)。ハマトビムシのジャンプは脚ではなく、腹部を下に曲げてバネにするのが特徴である。これらは体の数十倍から100倍の高さをジャンプでき、目で追うのもむずかしいほど跳びまわる。

新江ノ島水族館で展示されているカイコウオオソコエビ(マリアナ海溝の水深10900mで採集)

水辺の石の下にすむものは体を横に倒して生活するので、和名が「ヨコエビ」とつけられている。石をひっくり返すと腹部を激しく振って泳ぎだすが、深い水中ではふつうに体を立てて泳ぎ、再び石などの下にもぐりこむ。

海底にすむものの多くは和名が「ソコエビ」とつけられている。海藻や岩などにつかまるか、砂泥にもぐって生活し、泳ぎもうまい。深海産は複眼が退化しているが、大型化する種も多く、中には20数cmにも達する大型種もいる。世界でもっとも深い場所から見つかった動物の1つであるカイコウオオソコエビも、このグループに含まれる[4]

おもな種類

ヒメハマトビムシ Platorchestia platensis
体長は1 cmほどで、体色は青灰色や赤灰色をしている。海岸の満潮線付近に多数生息し、ふだんは砂の中や石の下にもぐっている。流れ着いた海藻や動物の死骸などを食べるので、それらを持ち上げるとたくさんの個体がピョンピョンと飛び跳ねる。跳ぶだけでなく、泳ぐのも砂にもぐるのもうまい。
オカトビムシ Platorchestia humicola
体長7-8mm。陸生のヨコエビ。
ニッポンヨコエビ Gammarus nipponensis
体長は1 cmほどで、体色は黄褐色をしている。水のきれいな川の、落ち葉や石の下に生息する。
メクラヨコエビ Pseudocrangonyx spp.
この呼び名は特定の種類を指さず、地下水中に生息するヨコエビ類の総称として用いられる。体長は数mmほどで、体は半透明の白色をしていて、名のとおり目が退化している。各地の洞窟井戸などで発見されている。
エウリセネス・グリルス Eurythenes gryllus
深海産の大型種で体長15cmほどにもなる。体色は赤で目は退化したが触角は発達している。カイコウオオソコエビと同様に体内に深海の水圧に対するように脂肪分を体内に多く貯え、この脂肪を海水よりも軽くして数千メートルの深海底よりもやや上方を泳いで、エサとなる生物の死体を捜す。
アリケラ・ギガンテア Alicella gigantea
前種よりも更に大型となるヨコエビの中でも最大級の種類で、体長30cm以上にもなる巨大種であり、同じく数千メートルの深海底を体内脂肪分を利用して浮力調節し、深海に落ちてきた生物の遺体を食べる。体色は褐色。

引用文献

  1. ^ 朝倉彰 著「甲殻類とは」、朝倉彰編著 編『甲殻類学』東海大学出版会、2003年、27-28頁。ISBN 4486016114 
  2. ^ 櫻井泉「森林が河口域の水産資源に及ぼす影響」(PDF)『北水試だより』第65巻、2004年、19-26頁。 
  3. ^ 大塚攻、駒井智幸 著「端脚目(Order Amphipoda)」、石川良輔編集 編『節足動物の多様性と系統』岩槻邦男・馬渡峻輔監修、裳華房〈バイオディバーシティ・シリーズ6〉、2008年、257-258頁。ISBN 9784785358297 
  4. ^ 土田真二 著「カイコウオオソコエビ」、藤倉克則・奥谷喬司・丸山正編著 編『潜水調査船が観た深海生物』東海大学出版会、2008年、253頁。ISBN 9784486017875