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マシンビジョン

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マシンビジョン(Machine Vision、MV)とは、産業(特に製造業)でのコンピュータビジョンの応用を意味する。コンピュータビジョンがコンピュータによる画像処理を主に研究対象としているのに対して、マシンビジョンはそれ以外にロボットアームなどの他の製造機器を接続するコンピュータネットワークやデジタル入出力機器も含めたシステムが必要となる。従って、マシンビジョンは、計算機科学機械工学光学ファクトリーオートメーションなどを統合した工学の一分野となっている。マシンビジョンの典型的な応用としては、各種製品(ICチップ、自動車、食品、医薬品など)の検査がある。工場のラインで人間の検査者が眼で見て製品を検査する代わりに、デジタルカメラスマートカメラ画像処理ソフトウェアなどで構成されるマシンビジョンシステムが同様の検査を行う。

概要

マシンビジョンシステムは、ベルトコンベア上の物体を数えるとか、シリアル番号を読み取るとか、表面の傷がないか調べるなどの極めて限定されたタスクを実行する。製造業者がマシンビジョンを導入するのは、それが高速で細部にわたる目視検査を休み無く実行できるからである。人間の検査者は体調の変動や長時間にわたる注意力の維持に問題があるが、短時間であれば機械以上の認識能力と問題発生時の柔軟な対応力がある。

コンピュータは必ずしも人間と同じように「見ている」わけではない。カメラは人間の眼と同じではないし、人間が推論したり想定したりすることに依存しているのに対して、コンピュータは画像の個々のピクセルを調べることで「見ている」のであり、知識ベースパターン認識エンジンを使って結論を出すのである。人間の知覚を真似たマシンビジョンのアルゴリズムも開発されてきたが、効率を重視した特定用途向けの様々な画像処理手法も開発されてきた。マシンビジョンやコンピュータビジョンシステムは画像を一貫して処理できるが、そのようなシステムは一般に単一で繰り返されるタスクを実行するよう設計されることが多い。この分野の進展にも関わらず、マシンビジョンやコンピュータビジョンシステムは未だに人間の画像理解能力に到達していない。具体的には、光の当たり方の変化や画質の劣化、部分的な変動に対応できない。

マシンビジョンの構成要素

典型的なマシンビジョンシステムは以下のような部品から構成される:

  1. 1台以上のモノクロまたはカラーのデジタルカメラ(あるいはアナログカメラ)とそれに対応した光学機器
  2. 光源
  3. 画像をデジタイズするインターフェイス(Frame Grabber などと呼ばれる)
  4. プロセッサ(パーソナルコンピュータデジタルシグナルプロセッサなどの組み込み用プロセッサ)
  5. 画像処理用ソフトウェア
  6. 画像を撮る際の物体の位置あわせを行う機構とセンサー
  7. 入出力機器、通信リンクによる結果報告システム
  8. 問題のある製品を検出したとき、それをラインから排除する機構

同期センサーは製品(あるいは部品)がコンベア上の所定の検査位置に来たことを知らせる。センサーがトリガーを発生するとカメラがその画像をとる。このとき光源のON/OFFも同期して行われる。光源はその物体の特徴が分かり易くなるように考慮して配置され、検査に関係ない特徴は無視される(影になってもよい)。

カメラのとった画像は Frame Grabber に渡される。Frame Grabber はデジタイズ機器であり(スマートカメラなら内蔵しているし、そうでなければコンピュータ用のボードである)、カメラの出力をデジタル形式に変換し(一般に数値の二次元配列で画像を表す)、その画像データがコンピュータの記憶装置に蓄えられる。画像データはマシンビジョン・ソフトウェアによって処理される。

ソフトウェアはいくつかの段階で画像を処理する。一般に画像はまずノイズを低減させた後で、グレイの階調だったものが白と黒の二値画像に変換される。そのような単純化の後でソフトウェアは画像から物体を数えたり、大きさを測ったり、傷がないか調べたりする。最後にプログラムされた規則に従って、撮影された物体(製品や部品)に問題があるかどうかを決定する。問題がある場合、ソフトウェアは部品をラインから排除する機構に信号を送る。あるいは、ラインを止め、人間に通知して問題への対処を任せる。

多くのマシンビジョンシステムは白黒カメラを使用するが、最近ではカラーのカメラを使用することが多くなってきた。マシンビジョンシステムがデジタルカメラを装備することも多くなり、Frame Grabber が不要となって画質の劣化が低減されてきている。

スマートカメラはプロセッサが組み込まれているカメラであり、マシンビジョン市場でシェアを伸ばしている。画像処理に最適化されたプロセッサを内蔵するため、Frame Grraber も外部のコンピュータも不要となる。そのためコストが低減され、システムが単純化し、個々のカメラが専用のプロセッサを持つことになる。

処理手法

マシンビジョン・ソフトウェアは一般に以下のような画像処理技法を備えている:

  • ピクセルカウント: 明るい(あるいは暗い)ピクセル数を数える。
  • しきい値設定: グレイ階調画像を白黒画像に変換する。
  • セグメンテーション: 物体の位置と個数を決定する。
    • ブロブ検出と操作: 画像をブロブ(例えば黒い部分の中の灰色の部分など)と呼ばれる部分に分ける。ブロブは光学的ターゲットとして何らかのロボット操作の対象を表したり、検査においては傷を表す。
    • 部品毎の認識:入力画像からゲオン(Geon = Geometric Icon)を抜き出す。
    • 堅牢なパターン認識: 物体の向きの違い、サイズの違いなどを認識する。
  • バーコード読み取り: マシンビジョンシステム向けの一次元や二次元のバーコードを読み取る。
  • 光学文字認識: シリアル番号などを自動的に読み取る。
  • 計測: 物体の大きさをミリメートルなどの単位で測定する。
  • エッジ検出: 物体の輪郭を検出する。
  • テンプレートマッチング: 特定のパターンを探し、マッチングさせ、数を数える。

多くのマシンビジョンシステムはこれらを逐次的に組み合わせ必要な処理を実行する。例えば、バーコードを読み取るシステムが表面の傷を調べたり、物体のサイズを測定したりする。

マシンビジョンの応用

マシンビジョン(MV)の応用例を以下に列挙するが、非常に多岐に渡る応用があり、以下に限定されるわけではない:

  • 大規模工業生産
  • 多品種少量生産
  • 産業環境での安全システム
  • 生産物の途中での検査
  • 視覚的な在庫管理システム(個数を数え、バーコードを読み取り、店舗とのネットワークを形成する)
  • 自動制御車の制御
  • 建物などの自動化されたセキュリティシステム
  • 農業生産でのモニタリング
  • 食品製造での品質管理
  • 小売の自動化
  • 医用画像処理
  • 遠隔医療

マシンビジョンシステムは半導体部品工場で広く利用されている。マシンビジョン無しではCPUの生産量は激減するだろう。マシンビジョンシステムはシリコンウェハやチップ、抵抗やコンデンサなどの検査に使われている。

自動車産業では、マシンビジョンシステムが産業用ロボットのガイドとして使われている。溶接すべき箇所の位置あわせや表面の傷の検出などに使われている。

マシンビジョンは可視光向けに開発されてきたが、同じ手法を赤外線X線にも適用できる。

関連項目

参考文献

  • Alexander Khvilivitzky. FIFO Frame Grabbers. Sensoray  FIFO Frame Grabbers
  • Batchelor B.G. and Whelan P.F. (1997). Intelligent Vision Systems for Industry. Springer-Verlag. ISBN 3-540-19969-1 
  • Demant C., Streicher-Abel B. and Waszkewitz P. (1999). Industrial Image Processing: Visual Quality Control in Manufacturing. Springer-Verlag. ISBN 3-540-66410-6 
  • Pham D.T. and Alcock R.J. (2003). Smart Inspection Systems: Techniques and Applications of Intelligent Vision. Academic Press. ISBN 0-12-554157-0 
  • Berthold K.P. Horn (1986). Robot Vision. MIT Press. ISBN 0-262-08159-8 

外部リンク