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オクラトキシン

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Chemical structure of Ochratoxin A

オクラトキシン(ochratoxin)は、Penicillium 属や Aspergillus属のカビが産生するマイコトキシンの一種で、A、B、C、TAなど数種類の関連物質の総称。南アフリカの研究者らにより1965年に発見され、名前は、生産菌の A. ochraceus に由来している。

特長

イソクマリン骨格にフェニルアラニンが結合した構造。腎毒性、催奇形性生殖毒性、神経毒性発ガン性遺伝毒性などが報告されているが、作用機序は未解明である。マイコトキシンのシトリニンと同時に検出されることも多い。

  • 主なオクラトキシンには、オクラトキシンA、B、C、TA 四つの型が知られている。
    • オクラトキシン A (C20H18ClNO6) CAS number 303-47-9 [1]
    • オクラトキシン B (C20H19NO6) CAS number 4825-86-9
    • オクラトキシン C (C22H22ClNO6) CAS number 4865-85-4
    • オクラトキシン TA (C20H18ClNO7) CAS number C53011-67-9

主な生産菌

主な生産菌のA. ochraceus の分布域は広く、熱帯から温帯の寒冷地まで広い。オクラトキシン生産菌は低温でも増殖し毒素を生産する為、ヨーローッパカナダの様な寒冷地でも問題になる。

Penicillium[2]

生育可能な条件は広く、気温30℃以下および水分活性0.8まで。カナダやヨーロッパ等の比較的低温地域でのコムギ、オオムギ、ライムギなどの穀類の汚染原因菌。

  • P. verrucosum - 一部の菌はオクラトキシンとシトリニンを生産する。
Aspergillus

熱帯・亜熱帯等の高温多湿地域での農産物の汚染原因菌。

  • A. ochraceus 日本国内の土壌、穀類から分離したA. ochraceus 菌群10株の内 8株にオクラトキシンの産生性を確認。
  • A. carbonarius - 高温で生育可能で、黒色胞子は日光に対して高抵抗性を示す。従って、ブドウの成熟時や乾燥時に生育し、ブドウ果汁やワイン、乾燥果実(レーズン)およびコーヒー豆の汚染原因菌。
  • A. niger (一部の黒麹カビ)。但し、焼酎、酢などの醸造に使用されている株からは未検出[3]

毒性

腎毒性、催奇形性、生殖毒性、神経毒性、発ガン性、遺伝毒性などが報告され、消化管経由で生体に吸収されたオクラトキシンは高い濃度で腎臓に分布し、血清タンパクのアルブミンに強く結合する。また体内では、細胞でのDNAおよびRNAの合成を阻害する。ヒトにおける半減期は35日で、代謝によりオクラトキシンαに変化する。

  • オクラトキシンAはCに比べて,毒性が強い。
  • オクラトキシンBは障害は主として肝臓と腎臓に現れる。
  • イヌブタは感受性が高く、ラットマウスは低い。

反芻動物

反芻家畜の場合、第一胃でオクラトキシンAを分解し、フェニルアラニンと毒性の低いオクラトキシンαに変換する能力があり、成熟個体ほどその能力は高い[4]

中毒症状

多尿、尿糖、蛋白尿などの腎機能障害、血清尿素窒素濃度(BUN)の上昇。病理組織学的には、近位尿細管の変性、間質の線維化、糸球体の変性など

汚染事例

1969年にトウモロコシでの自然汚染が報告されて以来多くの汚染事例が報告されている。多くの穀類(米,大麦、小麦、ライ麦、トウモロコシ、小豆、大豆)、グリーンコーヒー、煮干、チョコレートなどから検出される。汚染穀類を人の食料とするほか家畜の飼料ともする為、家畜由来の食肉加工品、乳製品からも検出される。

バルカン半島付近の風土病バルカン腎症の原因物質である可能性が指摘されていた[5]が、オクラトキシンAが原因ではなくアリストロキア酸を含むハーブによるものと結論づけられた[6]

規制値

  • 日本では規制値は規定されていない。厚生労働省は2004年から2006年に23種、計970試料の調査を行った結果、EUの基準を超えた試料は2検体で「すぐに健康被害が懸念される状況ではない」としている。
  • ヨーロッパ(EU)の規制値は、世界の中でも厳しい。(下記は規制値の例)
    • ベビーフードおよび幼児のための食品では 0.5 ppb
    • 乾燥ブドウでは 10 ppb
    • 加工穀類および穀類製品 3 ppb
    • 生(加工前)の穀類の穀粒 5 ppb
    • コーヒーを除く焙煎コーヒー豆 5 ppb
    • インスタントコーヒー 10 ppb
    • ワイン,グレープジュース,ブドウ果汁 2 ppb

汚染防止

カビが発生しオクラトキシンに汚染された場合、除去は非常に困難である。従って、オクラトキシンが産生されない様、農産物が収穫されると速やかに乾燥し、カビが生育しないよう適切に管理する。

出典

脚注

  1. ^ * Sicherheitsdatenblatt der Firma Sigma-Aldrich Ochratoxin A from Aspergillus ochraceus
  2. ^ Production and contamination of ochratoxin by Penicillium speciesペニシリウム属カビによるオクラトキシン塵生
  3. ^ 黒麹菌のオクラトキシンA産生能について 日本農藝化學會誌 69(臨時増刊) pp.116 19950705 社団法人日本農芸化学会
  4. ^ Degradation of Ochratoxin A by a Ruminant Appl Environ Microbiol. 1976 September; 32(3): 443-444
  5. ^ 食品危害真菌とマイコトキシン規制の現状と今後 (PDF) 国立医薬品食品衛生研究所報告第124号
  6. ^ バルカン腎症の原因物質としてのアリストロキア酸およびオクラトキシンA日本環境変異原学会大会プログラム・要旨集 (38), 140, 2009-11-06

外部リンク