アセトンシアノヒドリン

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アセトンシアノヒドリン
識別情報
CAS登録番号 75-86-5 チェック
PubChem 6406
ChemSpider 6166 チェック
UNII CO1YOV1KFI チェック
EC番号 200-909-4
国連/北米番号 1541
DrugBank DB02203
KEGG C02659 チェック
MeSH acetone+cyanohydrin
ChEBI
RTECS番号 OD9275000
バイルシュタイン 605391
3DMet B00479
特性
化学式 C4H7NO
モル質量 85.1 g mol−1
外観 無色液体
密度 932 mg·mL−1
融点

-21 °C, 251.9 K, -6 °F

沸点

95 °C, 368 K, 203 °F

蒸気圧 2 kPa (at 20 °C)
屈折率 (nD) 1.399
危険性
安全データシート(外部リンク) fishersci.com
GHSピクトグラム 急性毒性(高毒性) 水生環境への有害性
GHSシグナルワード DANGER
Hフレーズ H300, H310, H330, H410
Pフレーズ P260, P273, P280, P284, P301+310
NFPA 704
1
4
2
引火点 75 °C (167 °F; 348 K)
爆発限界 2.25–11%
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

アセトンシアノヒドリン (Acetone cyanohydrin = ACH) は「アクリル」としても知られている透明なプラスチック、ポリメチルメタクリレート英語: Poly(methyl methacrylate)(PMMA)のモノマーであるメタクリル酸メチルの製造に使用される有機化合物である。シアン化水素を容易に遊離するので、その源として使用される。 このため、非常に強い毒性がある。

製造[編集]

実験室では、シアン化ナトリウムアセトンで処理した後、酸性にすることによって調製できる[2]

アセトンシアノヒドリンの高い毒性を考慮して、大量の試薬の製造、保管を避けるため、フローケミストリー技術を使用して実験室規模の生産法が開発された[3]。あるいは、簡略化された手順として「その場で (in situ)」調製されたアセトンの亜硫酸水素ナトリウム付加物に対してシアン化ナトリウムまたはシアン化カリウムを作用させる方法がある。この方法で、純度の低い製品が得られるが、それでもほとんどの合成に使える[4]

反応[編集]

このシアン化リチウムの合成で示すように、アセトンシアノヒドリンは HCN の代わりに使用される[5]

(CH3)2C(OH)CN + LiH → (CH3)2CO + LiCN + H2

トランスヒドロシアン化 (Transhydrocyanation) では、HCN の等価体 がアセトンシアノヒドリンから別のアクセプターに移動し、副生成物はアセトンになる。 移動は、 塩基によって開始される平衡プロセスである。 反応はトラップ反応によって、またはアルデヒドのような優れた HCN アクセプターを使用することによって進めることができる[6]ブタジエンヒドロシアン化英語: Hydrocyanation反応では、移動は不可逆的である[7]

アセトンシアノヒドリンはメタクリル酸メチルへの途中の中間体である。硫酸で処理するとメタクリルアミド英語: Methacrylamideの硫酸エステルが得られ、メタノリシスにより硫酸水素アンモニウムとメタクリル酸メチルが得られる[8]

天然物中の存在[編集]

キャッサバ塊茎中に、アセトンシアノヒドリンのグリコシドであるリナマリンと、加水分解酵素のリナマリナーゼが存在している。塊茎を砕くと、それらの成分が放出されて、アセトンシアノヒドリンが生成する。

安全性[編集]

アセトンシアノヒドリンは、アメリカ合衆国では、緊急計画及び地域の知る権利に関する法律 (Emergency Planning and Community Right-to-Know Act) の中の極めて危険有害な物質の一覧 (List of extremely hazardous substances) に分類され、資源保護回復法英語: Resource Conservation and Recovery Act で P069 waste code が規定されている。アセトンシアノヒドリンの主な危険性は、水と接触するとすぐに分解し、毒性の高いシアン化水素を放出することである。

日本では毒物及び劇物取締法劇物に指定されている。

脚注[編集]

  1. ^ acetone cyanohydrin - Compound Summary”. PubChem Compound. USA: National Center for Biotechnology Information (2004年9月16日). 2012年6月8日閲覧。
  2. ^ Cox, R. F. B.; Stormont, R. T. "Acetone Cyanohydrin". Organic Syntheses (英語).; Collective Volume, vol. 2, p. 7
  3. ^ Heugebaert, Thomas S. A.; Roman, Bart I.; De Blieck, Ann; Stevens, Christian V. (2010-08-11). “A safe production method for acetone cyanohydrin”. Tetrahedron Letters 51 (32): 4189–4191. doi:10.1016/j.tetlet.2010.06.004. 
  4. ^ Wagner, E. C.; Baizer, Manuel. "5,5-Dimethylhydantoin". Organic Syntheses (英語).; Collective Volume, vol. 3, p. 323
  5. ^ Tom Livinghouse (1981). “Trimethylsilyl Cyanide: Cyanosilylation of p-Benzoquinone”. Org. Synth. 60: 126. doi:10.15227/orgsyn.060.0126. 
  6. ^ Haroutounian, Serkos A. (2001). "Acetone Cyanohydrin". Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis. eEROS. doi:10.1002/047084289X.ra014. ISBN 0471936235
  7. ^ Bini, L.; Müller, C.; Wilting, J.; von Chrzanowski, L.; Spek, A. L.; Vogt, D. (October 2007). “Highly selective hydrocyanation of butadiene toward 3-pentenenitrile”. J. Am. Chem. Soc. 129 (42): 12622–12623. doi:10.1021/ja074922e. hdl:1874/26892. PMID 17902667. 
  8. ^ Bauer, William, Jr (2005), "Methacrylic Acid and Derivatives", Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, Weinheim: Wiley-VCH, doi:10.1002/14356007.a16_441.