PSR B1620-26 b

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PSR B1620-26 b
太陽系外惑星 太陽系外惑星の一覧
Artist's impression of pulsar planet B1620-26c.jpg
PSR B1620-26 bの想像図
主星
恒星 PSR B1620-26 AB
星座 さそり座
赤経 (α) 16h 23m 38.2218s
赤緯 (δ) -26° 31′ 53.769″
視等級 (mV) 24
距離 12,400 ly
(3,800 pc)
スペクトル分類 中性子星 / DB
質量 (m) 1.35 / 0.34 M
年齢 ? / 12.7 Gyr
軌道要素
軌道長半径 (a) 23 AU
離心率 (e) 低い
周期 (P) 36,525 d
(~100 y)
軌道傾斜角 (i) 55°
物理的性質
質量 (m) 2.5 ± 1 MJ
発見
発見日 1993年5月30日
(2003年7月10日確認)
発見者 バッカーら
発見方法 パルサータイミング法
観測場所 アメリカ合衆国の旗 アメリカ
現況 確認
他の名称
Methuselah(メトシェラ), PSR B1620-26 b, PSR J1623-2631 c
参照データベース
Extrasolar Planets
Encyclopaedia
data
SIMBAD data

PSR B1620-26 bは、さそり座の方向に約12,400光年の位置にある太陽系外惑星である。メトシェラ(Methuselah)という非公式な名前があり、PSR B1620-26 cと書かれることもある。パルサーPSR B1620-26と伴星の白色矮星WD B1620-26からなる連星系の惑星である。現在知られている太陽系外惑星の中では最も古い部類で、約127億歳だと考えられている[1]

名前[編集]

PSR B1620-26 bという名前は科学論文では用いられないが、SIMBADのデータベースにはこの名前で登録されている[2]。論文誌等では、恐らく連星系を構成する恒星A及びBとの混同を避けるために、PSR B1620-26 cと記述しているものもある[3]。しかしこの記法は科学的に認められたものではなく、SIMBADにも収録されていない。2008年11月時点で、他に見つかっている唯一の連星系の惑星であるおとめ座HW星の発見の論文では命名が行われず、この問題については未解決のままである[4]

公式に認められてはいないが、メトシェラという名前もよく用いられている。この名前は、旧約聖書に登場する「最も長命の人物」であるメトシェラに由来する[5]。この名前は非公式の名前として、太陽系の惑星との類似性を表す時にしばしば用いられる。太陽系外惑星で聖書を起源とする名前を持つのはメトシェラだけであるが、ペガスス座51番星bにはベレロフォンHD 209458 bにはオシリスという神話由来の名前がついている。

検出と発見[編集]

惑星系はM4球状星団の中に位置している。

他のほぼ全ての太陽系外惑星と同様に、PSR B1620-26 bはドップラーシフトの変化から発見された(この場合はパルサーのパルス周期の見かけの変化)。1990年代初めにドナルド・ベイカーの率いる天文学者のチームは、パルサー連星と考えられる天体を研究しており、観測されるドップラーシフトを説明するためには3つめの天体が必要であることを確認した。数年以内に惑星がパルサーと白色矮星に及ぼす重力効果が測定され、その質量が恒星にしては小さすぎると推定された。3番目の天体が惑星であると結論づけられたことは、1993年にステファン・トーセットら公表された。

惑星の軌道を研究することで、白色矮星の質量をより精度良く推定することができ、惑星の形成理論から白色矮星は年齢が若く、熱いことが推定された。2003年7月10日、ハッブル宇宙望遠鏡の観測により白色矮星の検出と予測されていた特徴が確認されたことがステイン・シガードソンらのチームによって公表された。メトシェラの名前が発表されたのはアメリカ航空宇宙局の記者会見であり、世界中の記者の注目を集めた[6][7]

物理的な特徴[編集]

惑星系の位置(緑の円)

PSR B1620-26 は2つの星からなる連星系である。1つは1秒間に100回転する中性子星のパルサーで、もう1つは0.34太陽質量の白色矮星である。これらは1天文単位の距離を取って,約6ヶ月の周期でお互いの周りを回っている。この連星系に惑星が発見され、PSR B1620-26 bと名付けられた。惑星の質量は2.5木星質量で、天王星の軌道より若干遠い23天文単位の距離をおよそ100年の周期で公転している[8]

この3つの天体からなる連星系は球状星団M4の核のすぐ外側にある。球状星団の年齢は127億歳と推定されており、星団内の全ての恒星はほぼその時期に形成されたと考えられている。惑星も恒星と同時に形成されるため、PSR B1620-26 bも約127億歳ということになる。これは現在知られている中で2番目に古く、地球の3倍近くも古い。

進化の歴史[編集]

パルサー惑星の起源はまだ分かっていないが、恐らく今日見られるような形成過程は経ていないと考えられている。恒星の核が中性子星に崩壊する際に重力が減少し、超新星爆発としてほとんどの質量を吹き飛ばすため、その後に惑星が残ることは考えにくい。現在白色矮星になっている恒星の惑星として形成され、この恒星と惑星が後に中性子星に捕獲された可能性の方が高い[6][9]

PSR B1620-26の系の進化

恒星同士の衝突は太陽の存在する銀河系の円盤では非常に稀であるが、球状星団の密度の高い核ではしばしば起こる。過去100億年のある時点で、中性子星は惑星を伴った恒星を捕獲して連星を形成し、この過程で恐らく元の伴星を失ったと考えられている。約5億年前、新しく捕獲した恒星は膨張を始め、赤色巨星になった。

若いパルサーの典型的なパルス周期は1秒の桁で、徐々に速くなっている。最終的にはいわゆるミリ秒パルサーになって、伴星から物質を奪うようになる。PSR B1620-26のパルス周期は数ミリ秒で、物質の転移が起こっている強い証拠がある。パルサーの伴星の赤色巨星が膨張し、ロシュ・ローブを越え、表層から中性子星に変わり始めていると考えられている。

落下しつつある物質は、複雑で壮大な現象を引き起こす。落下しつつある物質は、角モーメントの移転のために中性子星を回転させる。数億年のうちに、落下しつつある物質はX線を放射するほど高温になり、恒星は低質量X線連星となる。

質量の移転は、質量を供給する方の恒星の表層が枯渇し、核がゆっくりと収縮して白色矮星となることで終了する。そして2つの星は完全にお互いの周囲を公転するようになる。とはいえ、PSR B1620-26 bの長期的な見通しは明るくない。3つの天体から成る系は、M4の典型的な恒星よりずっと質量が大きく、恒星の密度が非常に高い星団の核の方にゆっくりと引き寄せられる。数十億年で、連星系は近接した他の恒星と出会うと考えられる。その場合は、一番軽い天体が系から弾き出される可能性が最も高いと考えられる。もしそうなると、PSR B1620-26 bはM4から完全に弾き出され、残りの時間を宇宙空間を独りで漂いながら過ごすことになると考えられる。

関連項目[編集]

出典[編集]

  1. ^ Britt, Robert Roy. “Primeval Planet: Oldest Known World Conjures Prospect of Ancient Life”. Space.com. 2007年6月12日閲覧。
  2. ^ NAME PSR B1620-26 b -- Extra-solar Planet Candidate”. SIMBAD. CDS. 2008年9月1日閲覧。
  3. ^ John Whatmough (2003年). “"Methuselah" - PSR B1620-26 c”. Extrasolar Visions. 2008年9月1日閲覧。
  4. ^ Lee, J.W. et al. (2008年). “The sdB+M Eclipsing System HW Virginis and its Circumbinary Planets”. arXiv:0811.3807v1 [astro-ph]. 
  5. ^ Gary Denke (2003年). “Planet 'Methuselah' Discovered!”. 2008年9月1日閲覧。
  6. ^ a b Sigurdsson, S.; Richer, H.B.; Hansen, B.M.; Stairs I.H.; Thorsett, S.E. (2003). “A Young White Dwarf Companion to Pulsar B1620-26: Evidence for Early Planet Formation”. Science 301 (5630): 193 – 196. doi:10.1126/science.1086326. PMID 12855802. 
  7. ^ Oldest Known Planet Identified”. HubbleSite. 2006年5月7日閲覧。
  8. ^ Notes for star PSR B1620-26”. The Extrasolar Planets Encyclopaedia. 2006年5月7日閲覧。
  9. ^ Ford et al. (2000). “Theoretical Implications of the PSR B1620-26 Triple System and its Planet”. The Astrophysical Journal 528 (1): 336?350. doi:10.1086/308167. http://www.iop.org/EJ/article/0004-637X/528/1/336/40658.html.  (preprint)

外部リンク[編集]