正常価格

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正常価格(せいじょうかかく)とは、不動産価格の種類の一つである。本項目においては、基本的に不動産鑑定評価基準による。ここでは、次のとおり定義される。

市場性を有する不動産について現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で成立するであろう市場価値を表示する適正な価格。

市場が満たす条件[編集]

「現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場」とは、「現実」を与件としたうえで以下の条件を満たす市場をいい、完全競争市場ではない[1]。なお、現実の不動産の取引価格等は個別的な事情に左右されがちのものであり、その市場も以下の条件を満たすとは限らないものである[2]

  1. 市場参加者[3]が自由意思に基づいて市場に参加し、参入、退出が自由であること。
  2. 取引形態が、市場参加者が制約されたり、売り急ぎ、買い進み等を誘引したりするような特別なものではないこと。
  3. 対象不動産が、価格時点において既に相当の期間市場に公開されていること。

不動産鑑定評価等における位置づけ[編集]

日本の公示地価(地価公示)、標準地基準価格(都道府県地価調査)においては、土地の正常価格に相当する価格を公表するものである。

不動産鑑定評価に当たっては、基本的事項として、対象不動産、価格時点とともに価格又は賃料の種類を明らかにしなければならないものとされている。さらに、鑑定評価は、不動産の適正な価格を求め、その適正な価格の形成に資するものでなければならず、鑑定評価によって求める価格は基本的に正常価格である、とされる[4]

正常価格を求めることができる不動産について、依頼目的又は条件により正常価格以外の種類の価格を求めた場合は、不動産鑑定評価報告書には、括弧書きで正常価格である旨を付記してそれらの額を付記しなければならないものとされている[5]

出典、脚注[編集]

  1. ^ 「現実の社会経済情勢の下で…」という文言は2002年の不動産鑑定評価基準改正で加わったものであるが[1]、これは改正前の文言が完全競争市場に近い環境を前提としていたと誤解を生じかねないという事情があった(新藤『不動産鑑定評価の知識』p.45~46)。
  2. ^ 不動産鑑定評価基準総論第1章
  3. ^ ここでいう市場参加者は、自己の利益を最大化するため次のような要件を満たすとともに、慎重かつ賢明に予測し、行動するものとされる。 1) 売り急ぎ、買い進み等をもたらす特別な動機のないこと。 2) 対象不動産及び対象不動産が属する市場について取引を成立させるために必要となる通常の知識や情報を得ていること。 3) 取引を成立させるために通常必要と認められる労力、費用を費やしていること。 4) 対象不動産の最有効使用を前提とした価値判断を行うこと。 5) 買主が通常の資金調達能力を有していること。
  4. ^ 不動産鑑定評価基準総論第5章 - 依頼目的及び条件により#価格の他の種類のとおりの価格を求める場合がある。
  5. ^ 不動産鑑定評価基準総論第9章

参考文献[編集]

  • 監修日本不動産鑑定協会 編著 調査研究委員会鑑定評価理論研究会『新・要説不動産鑑定評価基準』 住宅新報社 2010年 ISBN 9784789232296 p.92 - 94
  • 新藤延昭『不動産鑑定評価の知識』住宅新報社、2007年、44 - 47頁。ISBN 9784789227544 

関係項目[編集]

価格の他の種類[編集]

不動産鑑定評価基準総論第5章で定められている。

賃料の種類[編集]

不動産鑑定評価基準総論第5章で定められている。