セント・デイヴィッズ救命艇基地

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セント・デイヴィッズ救命艇基地
St Davids Lifeboat Station
2016年の新艇庫(右)配置後の景観
セント・デイヴィッズ救命艇基地の位置(ペンブルックシャー内)
セント・デイヴィッズ救命艇基地
ウェールズ、ペンブルックシャー内の位置
概要
用途 RNLI 救命艇基地
所在地 セント・ジャスティニアン
自治体 ペンブルックシャーセント・デイヴィッズ
イギリスの旗 イギリスウェールズの旗 ウェールズ
座標 北緯51度52分43秒 西経5度18分31秒 / 北緯51.87861度 西経5.30861度 / 51.87861; -5.30861座標: 北緯51度52分43秒 西経5度18分31秒 / 北緯51.87861度 西経5.30861度 / 51.87861; -5.30861
所有者 王立救命艇協会
ウェブサイト
St Davids RNLI Lifeboat station
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セント・デイヴィッズ救命艇基地(セント・デイヴィッズきゅうめいていきち、: St Davids Lifeboat Station)は、ウェールズペンブルックシャーシティセント・デイヴィッズの沿岸に位置するセント・ジャスティニアンに設営された王立救命艇協会 (Royal National Lifeboat Institution; RNLI) の救命艇の基地(ステーション)である。1869年に開設され、2010年までに420回以上発進し、海で360人余りの命を救い[1]2014-2016年には、新たな艇庫や艇台が隣接して建設された。この基地は、全天候救命艇 (all-weather lifeboats; ALB) および沿岸救命艇(inshore life boat; ILB) の両方を運航している。

歴史[編集]

この救命艇基地は、近辺でいくつかの難破事故が発生した後、現地住人からの呼びかけに応じて、1869年に王立救命艇協会 (RNLI) により設立された。協会としては、1867年には事故で自らの命を危険にさらして救助にあたった地元の男性に銀のメダル (medal) を授与していた[2]。1869年のうちに、Porthstinan(セント・ジャスティニアン)に初めて艇庫と艇台が置かれると、ダートマス伯爵英語版より寄贈された救命艇オーガスタ (Augusta) が配置された[3]。9.8メートル (32 ft) のオーガスタ号は1885年まで配備され、23人の命を救った[4]

1885-1910年には、基地の新救命艇ジェム (Gem) の乗組員により16人の命が救われた[4]。救命艇は1910年10月13日、救助中にザ・ビッチェズ英語版 (The Bitches) の岩礁で難破し、3人の乗組員が溺死した[2]。その後、臨時の救命艇シャーロット (Charlotte) がセント・デイヴィッズの Porthclais に2年間駐留している間に、新たな艇庫と艇台が、基地初のモーター式救命艇ゼネラル・ファレル (General Farrell) を収容するために建設された[4]。ゼネラル・ファレル号は1912年から1936年まで配備され、乗組員はその間17人の命を救った。

救命艇がスン・ア・モル (Swn-y-Mor) に代わると、基地の歴史のなかで最も多忙な時代を迎え、救命艇の乗組員は1963年までの任務の間に108人の命を救ったが[4]1956年11月に救命艇員の1人を失った[2]。この2年前の1954年11月27日[2]、当時世界最大のタンカーとして新造されたワールド・コンコルド (World Concord) が[5]、160キロメートル毎時 (99 mph) を超える颶風(ぐふう、hurricane-force winds)に見舞われて真二つに折れた事故では[3]、それぞれセント・デイヴィッズとロスレア・ハーバー英語版の救命艇により42人がタンカーの前・後部から救助された[6]

スン・ア・モル号は、1936年に公務員救命艇基金 (Civil Service Lifeboat Fund) より寄贈されていたが[4]、同機関はまた1963年に、次の救命艇ジョセフ・ソア (Joseph Soar) を寄贈した[2][4]。すでに一部に革新的な機器が装備された救命艇は、1974年にはセルフライティング(self-righting、自己復原性[7])が施され、任期の間に乗組員は45人の命を救った[4]。ジョセフ・ソア号は、1985年ダンバー英語版に配置転換され、1988年ショアハム・ハーバー救命艇基地英語版に移った後、1990年に一線を退き、1992年に市民らにより見送られた[8]

2009年のセント・デイヴィッズ救命艇基地

1985年から1988年までセント・デイヴィッズの基地の全天候救命艇 (ALB) はルビー・アンド・アーサー・リード (Ruby&Arthur Reed) であり、かつてはクローマー英語版に配備され、それまでに58人の命を救い、セント・デイヴィッズでさらに9人の命を救った[4]。1988年に交代したガーサイド (Garside) は、新たなタイン級救命艇英語版であり、2013年タマル級救命艇英語版ノラ・ウォートリー (Norah Wortley) が配置されるまでに、329回発進し[9]、新しい基地の完成が最後となる2016年までの28年間に348回発進している[10]

1997年に近郊のブラウディ英語版の基地 (RAF Brawdy) のイギリス空軍 (RAF) レスキューサービス・ヘリコプターが撤退すると、セント・デイヴィッズはD級救命艇英語版を試験的に配置し[4]、翌1998年12月にD級英語版沿岸救命艇 (ILB) デウィ・サント (Dewi Sant、セント・デイヴィッド〈Saint David〉)が常置的に追加された。この沿岸艇は、2008年11月にマートル・アンド・トレバー・ガー (Myrtle & Trevor Gurr) に置き換えられた[2]

2013年6月の基地と救命艇ガーサイド (Garside)

救命艇基地および艇台は1990年代に大幅に近代化された。その後、2012年にタイン級から新たなタマル級救命艇の1隻が遺贈によりセント・デイヴィッドの基地に配置されることが発表された[11]2013年4月にはノラ・ウォートリー号がペンブルックシャーに到着し、新しい艇庫や艇台の建設を待つ間、一時的に係留された[9]

2014年6月より、タマル級救命艇を収容可能な新しい大型艇庫と艇台などの建設が開始された[12][13]。費用は約900万ポンドであった[14]。新たな大規模施設は[15]、既存の基地を維持しながら隣接した独立する場所に建造された[16]。新しい基地の完成により、2016年10月21日、タマル級救命艇ノラ・ウォートリー号が発進するとともに、旧艇庫と艇台よりガーサイド号の最後の発進が行なわれた[10]。そして王立救命艇協会 (RNLI) は、2017年3月14日、正式に新セント・デイヴィッズ救命艇基地の開設式を催し、式典のなか2013年4月に到着して以来、4年間に60回以上出動していたノラ・ウォートリー号の正式な命名式が行なわれた[17]

2019年には新しいD級救命艇 (ILB) マリアン・アンド・アラン・クレイトン (Marian and Alan Clayton) が配置され[18]、同年9月29日、基地の150周年記念とともに、命名式が聖デイヴィッド大聖堂で執り行なわれた[19]

船艇[編集]

全天候(外洋)艇[編集]

期間 クラス ON Op. No. 艇名
1869–1885年 32ft Self-Righter(P&S 10 オーガスタ (Augusta)
1885–1910年 Self-Righter(12櫂) ON 59 ジェム (Gem)
1912–1936年 40 ft Self-Righter(モーター) ON 614 ゼネラル・ファレル (General Farrell)
1936–1963年 46ft ワトソン級英語版 (46 ft Watson)[20] ON 784 スン・ア・モル (Swn-y-Mor) (Civil Service No. 6)
1963–1985年 47ft ワトソン級英語版 (47 ft Watson) ON 971 ジョセフ・ソア (Joseph Soar) (Civil Service No. 34)
1985–1988年 48ft 6in オークリー級英語版 (Oakley) ON 990 48-03 ルビー・アンド・アーサー・リード英語版 (Ruby and Arthur Reed)
1988–2016年 タイン級英語版 (Tyne-class)[21] ON 1139 47-026 ガーサイド (Garside)
2013年–現在 タマル級英語版 (Tamar-class)[22] ON 1306 16-26 ノラ・ウォートリー (Norah Wortley)

沿岸救命艇[編集]

期間 クラス Op. No. 艇名
1998–2008年 D級 (D-class) (EA16)英語版 D-543 デウィ・サント (Dewi Sant)
2008–2019年 D級 (D-class) (IB1)英語版 D-704 マートル・アンド・トレバー・ガー (Myrtle & Trevor Gurr)
2019年–現在 D級 (D-class) (IB1) D-840 マリアン・アンド・アラン・クレイトン (Marian and Alan Clayton)

周辺の基地[編集]

脚注[編集]

  1. ^ “St Davids RNLI seeks 1910 lifeboat tragedy descendants”. BBC News (BBC). (2010年10月9日). https://www.bbc.co.uk/news/uk-wales-11505713 2021年4月16日閲覧。 
  2. ^ a b c d e f Station History”. RNLI Lifeboats. RNLI. 2021年4月16日閲覧。
  3. ^ a b St Davids lifeboat station, Porthstinan”. historypoints.org. History Points. 2021年4月16日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i St Davids Lifeboat RNLI: History”. Lifeboats. 2021年4月16日閲覧。
  5. ^ 小倉信和「破壊事故例とその対策 - その1」(PDF)『圧力技術』第21巻第4号、日本高圧力技術協会、1983年7月25日、198-205頁、doi:10.11181/hpi1972.21.1982021年4月17日閲覧 
  6. ^ History”. Rosslare Harbour Lifegoat. 2021年4月17日閲覧。
  7. ^ 第181研究部会 救命艇の耐波性能に関する研究 報告書』(PDF)(レポート)日本造船研究協会、1980年3月、1-39頁https://www.jstra.jp/html/PDF/SR181.pdf2021年4月17日閲覧 
  8. ^ Joseph Soar”. National Historic Ships UK. 2021年4月17日閲覧。
  9. ^ a b “RNLI lifeboat: New £2.7m Norah Wortley for St Davids”. BBC News (BBC). (2013年4月15日). https://www.bbc.com/news/uk-wales-south-west-wales-22149705 2021年4月18日閲覧。 
  10. ^ a b “New £10m St Davids lifeboat station's first launch”. BBC News (BBC). (2016年10月21日). https://www.bbc.com/news/uk-wales-south-west-wales-37717735 2021年4月18日閲覧。 
  11. ^ “RNLI: Moelfre, St Davids and Mumbles lifeboats upgraded in £42m investment”. BBC News (BBC). (2012年11月20日). https://www.bbc.com/news/uk-wales-20412985 2021年4月18日閲覧。 
  12. ^ “Work starts on city's new lifeboat station”. Western Telegraph. (2014年6月14日). https://www.westerntelegraph.co.uk/news/11278745.work-starts-on-citys-new-lifeboat-station/ 2021年4月18日閲覧。 
  13. ^ RNLI St Davids – Construction of new Lifeboat Station and Slipway”. nec. 2021年4月18日閲覧。
  14. ^ St Davids Lifeboat Station, UK”. nec. 2021年4月18日閲覧。
  15. ^ “RNLI launches £150k St David's boathouse appeal”. BBC News (BBC). (2014年7月22日). https://www.bbc.com/news/uk-wales-south-west-wales-28413308 2021年4月18日閲覧。 
  16. ^ Considerately constructing and modernising RNLI St David’s Lifeboat Station – BAM Nuttall Ltd”. Best Practice Hub. 2021年4月18日閲覧。
  17. ^ “St Davids RNLI celebrates new lifeboat and station”. BBC News (BBC). (2017年3月14日). https://www.bbc.com/news/uk-wales-south-west-wales-39267343 2021年4月18日閲覧。 
  18. ^ Station History”. St Davids RNLI Lifeboat station. 2021年4月18日閲覧。
  19. ^ St Davids RNLI invites supporters to mark 150 years of saving lives at sea”. Lifeboats (2019年9月23日). 2021年4月18日閲覧。
  20. ^ GL Watson 46 ft Gaff Ketch Motor Sailer 1936 - SOLD”. Sandeman Yacht Company. 2021年4月17日閲覧。
  21. ^ RNLB Garside (47-026)”. Lifeboats. 2021年4月18日閲覧。
  22. ^ “Norah Wortley” 16-26 - Tamar Class All-weather Lifeboat.”. St Davids RNLI Lifeboat station. 2021年4月18日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]