スピーヌム

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スピーヌムラテン語: supinum)は、準動詞の一種。主にラテン語の文法で使われる用語だが、他の言語の同様の機能をさすこともある。運動をあらわす動詞を修飾して「……するために」という副詞的な意味を表し、目的分詞と呼ばれることもある[1]

ラテン語[編集]

「スピーヌム」とは「寄りかかるもの」という意味で、他の語を修飾するのに用いられるためにこの名がある。

ラテン語のスピーヌムは、一見すると受動完了分詞と同形のようであるが、受動完了分詞が歴史的に接尾辞 -to のついた形である(したがって第一・第二変化の形容詞として変化する)のに対し、スピーヌムは抽象名詞を作る接尾辞 -tu がついた形であり[2]、第四変化に従う。ただし、実際に使われる形は対格の -tum と与格または奪格の -tū の2形だけである。前者を第一スピーヌム、後者を第二スピーヌムと呼ぶことがある。

-tum で終わる形は、運動をあらわす動詞を修飾して、その運動の目的を示す。

  • venatum ire (狩りに行く)
  • salutatum venit (彼はあいさつに来た)

-tū で終わる形は、評価をあらわす形容詞を修飾して、「……するについて」という意味を表す。

  • incredibile dictu (言うのも信じられない)

古典ラテン語では以上のように限定的な表現でのみ用いられるが、それ以前の古ラテン語プラウトゥスなど)には、これ以外の形も用いられた[3][2]

-tum で終わる形に eo(行く)の受動態不定法である iri を組み合わせたものを受動態未来の不定法(「……されようとすること」)の代わりに用いることもあったが、あまり多く用いられる形式ではなかった[2]

ラテン語のほとんどの動詞は、現在形・不定法のほかに、完了と受動完了分詞の形を知れば、あとは規則的にすべての活用形を導きだすことができるが、一部の辞書では受動完了分詞のかわりにスピーヌムを示すことがある。例えば venio (来る)の見出しは、věnio, vēni, ventum のように示される[4]。これは自動詞に受動完了分詞がないためである。

他の言語[編集]

ラテン語とおなじように接尾辞 -tu をつけた形の対格によって運動の動詞の目的を表すことは、サンスクリットバルト語派スラブ語派の言語にも見られる[3]

脚注[編集]

  1. ^ たとえば木村 (1985) p.135
  2. ^ a b c Palmer (1954) pp.324-325
  3. ^ a b 高津 (1954) p.179
  4. ^ Lewis, Charlton T; Short, Charles (1879). A Latin Dictionary. Oxford: Clarendon Press 

参考文献[編集]