ストレピ=ティウ船舶昇降機

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画像右にある橋は運河であり、画像左の水面との標高差を解消するためにこのストレピ=ティウ船舶昇降機が使われる。

ストレピ=ティウ船舶昇降機(-せんぱくしょうこうき、フランス語:L'ascenseur funiculaire de Strépy-Thieu)は、ベルギーエノー州ル・ルーにあるサントル運河Canal du Centre中央運河の意)の支流に存在する船舶昇降機である。垂直昇降高さは73.15メートルで世界一。中華人民共和国三峡ダム船舶昇降機が完成すると、そちらが世界一の高さとなる。

歴史[編集]

上写真の逆方向の写真。ケーソンが釣り下げられているのがわかる。

この船舶昇降機は、サントル運河に設置してあった同様の目的を持つシステム(以下、旧システムと便宜的に記述する)を更新するために建設された。旧システムは1879年に供用開始し300トンの船舶を移動することができたが、1960年代頃までに、ヨーロッパの標準の国際貨物船は1,350トン級となっており、能力不足となっていた。[1]

新たな船舶昇降機は1982年に建設が開始され、2002年に完成した。建設費は1億6,000万ユーロ(64億ベルギー・フラン)である。稼働後は、その1,350トン対応という能力のためにマース川スヘルデ川(エスコー川)間の交通量は増大し、両河川の河川取扱量は2001年の256キロトンから2006年には2,295キロトンとなった。名称は、本昇降機の谷側(東側)のストレピと、山側(西側)のティウというふたつの地名から取られた。

本昇降機は旧システムの四つの船舶昇降機をショートカットするように建造されている。旧システムは1888年から1919年に建設された、二つの閘門と四つの16メートル級船舶昇降機を備えたものである。これらはラ・ルヴィエールとル・ルーにあるサントル運河の4つのリフトとその周辺 (エノー州)としてユネスコ世界遺産に登録されており、観光船は現在もそちらを航行している。

比較検討[編集]

本機が選定されるにあたり、五つのプランが検討された。

  • 36.5メートル級の船舶昇降機を2基設置する
  • 73メートル級の船舶昇降機を1基設置する(採用)
  • 斜度5パーセントのインクラインを設置する
  • 斜度10パーセントのインクラインを設置する
  • 斜度3.5パーセントの傾斜水路を設置する

これらの中で、建設時の投資額と完成後の運用費ともにもっとも経済的な案、すなわち本機が採用された。また、強固な地盤が連続していないことが判明したため、大きな荷重が長い距離を移動するインクラインは見送られた。

設計[編集]

巨大なプーリーが見える機械室。

ストレピ=ティウ船舶昇降機は、7,760トンのカウンターウエイトつきのケーソン[2](ケージ)を2組み備えている。水が入った状態のケーソンひとつあたりの重量は、7,200トンから8,400トンである。

ケーソンの寸法は、全長112メートル×全幅12メートル×全高5.7メートルであり、水深は3.35〜4.15メートルである。各ケーソンは112本のケーブルで釣り下げられており、上昇・下降用としてさらに32本の制御ケーブルが備えられている。ケーブルの直径は1本85mmである 。カウンターウェイトの重量は、制御ケーブルそれぞれに100キロニュートンのテンションがかかるように計算されている。釣り下げ用ケーブルは直径4.8メートルのプーリーに巻かれている。

上昇・下降の動力源は電動機である。ケーソン1つあたり4つの電動機があり、減速のためのトランスミッションを介して8つのウインチを動かしている。ケーソンを73.15メートル上昇・下降させるのにかかる時間は7分ほどである。

構造物は非常に堅固であり、稼働中のねじれにも十分な強度を持つ。重量はおよそ20万トンである。ケーソンを仕切るゲートは垂直方向に動作し、2,000トン級の船舶が時速5キロで衝突してもそれに耐えられるだけの強度がある。また、巨大さからくる威圧感を軽減するような外観となっている。

この船舶昇降機の稼働に必要な電力は1200キロワットである。一般電力が使用されているが、自家発電装置も設けられている。

施設見学[編集]

この船舶昇降機は観光施設のひとつとしてエノー州政府により宣伝されている。片方向の昇降に帯同できる歩行者用チケットは5.50ユーロである。[3]

脚注[編集]

  1. ^ The Strépy-Thieu boat lift”. Walloon Ministry of Civil Engineering and Transport. 2011年1月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年5月7日閲覧。
  2. ^ この場合のケーソンは、船舶を浮かべた水ごと運搬するバケットという程度の意味であり、日本国内の土木工事で使用する意味合いでのケーソン(潜函)とは全く異なる。
  3. ^ The Strépy-Thieu funicular lift”. Voies d'Eau du Hainaut. Province de Hainaut. 2008年10月22日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]