ゴプセック

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ゴプセック
Gobseck
エドゥアール・トゥードゥーズによる挿絵(1897年版)
著者 オノレ・ド・バルザック
発行日 1830年
フランスの旗 フランス
言語 フランス語
ウィキポータル 文学
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ゴプセック』(フランス語: Gobseck)は、フランスの作家オノレ・ド・バルザック1830年に発表した中編小説

概要[編集]

この中編は1830年刊行の「私生活場景」初版本にはじめて発表された。これを献呈されたバルシュー・ド・プノーアンは献辞にもあるとおりバルザックのヴァンドーム学院時代、すなわち八歳から一四歳にいたる中学時代の同窓生で、ドイツ哲学の研究者、フィヒテの翻訳者であり、政治家でもあった。バルザックの死んだ1850年に碑銘・芸文の翰林院会員にえらばれ、1855年に死んだ。

バルザックが創造した人物のなかでもゴプセックはかなり異色ある人物といえよう。作者自身べつの小説で、彼が生みおとしたこの人物のことをこういっている。「ひたすらに金の力を賞美し、不幸の涙の味をきく、すなわち不幸の原因を味わい分ける黄金の偽善者、手形割引人のゴプセック」(『農民』第一篇第十三章)と。そして彼はもう一つべつの小説「平役人」(1835年)で、この男の署名をわざわざ図入りで紹介している。筆蹟があまりにもみごとにこの男の性格と職業をあらわしているからというのだろう。そのじぶんフォノシートがあったらバルザックはさっそく飛びついて、ゴプセックのお例の「いかにも」「そうかもしれん」「まさにね」を録音して得々と披露したにちがいない。

ゴプセックは高利貸でもあるが、同時に哲学者でもある。その点がたとえば『農民』の田舎高利貸のリグーなどと大いにちがうところで、作者の筆もリグーを写すときはあくまで写実的であるが、ゴプセックの描写にはどこか象徴的な味わいが感じられる。リグーの徹底したずぶとい生き方には舌をまくほかないが、ゴプセックの、代訟人デルヴィルや青年伯爵エルネスト・ド・レストーにたいする態度には大いに人間的なものが感じられる。マルクスはこの作品の最後ののべられた子供らしい資本退蔵を『資本論』で指摘しているが、『資本論』でそれを語ることは場違いとはいえ、この高利貸の意外にふかい人間性に言及していないことは惜しい。ゴプセックがレストー伯爵夫人の宝石を鑑定する幻想的な場面は有名である。

映画作品[編集]

脚注[編集]

参考文献[編集]

  • Adrian Cherry, « Balzac’s Gobseck: A Character Study of a Usurer », USF Language Quarterly, 1967, no 5 (1-2), p. 5-14.
  • R.J. B. Clark, « Gobseck : structure, images et signification d’une nouvelle de Balzac », Symposium, 1977, no 31, p. 290-301.
  • Owen Heathcote, « From Cannibal to Carnival: Orality and Violence in Balzac’s Gobseck », The Modern Language Review, P, no 91 (1), p. 53-64.
  • Diana Knight, « From Gobseck’s Chamber to Derville’s Chambers: Retention in Balzac’s Gobseck », Nineteenth-Century French Studies, printemps-été 2005, no 33 (3-4), p. 243-257.
  • Éric Le Calvez, « Gobseck and Grandet: Semes, Themes, Intertext », Romance Studies, printemps 1994, no 23, p. 43-60.
  • Allan H. Pasco, « Descriptive Narration in Balzac’s Gobseck », Virginia Quarterly Review, 1980, no 56, p. 99-108.
  • Allan H. Pasco, « Nouveau ou ancien roman: Open Structures and Balzac’s Gobseck », Texas Studies in Literature and Language, 1978, no 20, p. 15-35.
  • Jean-Luc Seylaz, « Réflexions sur Gobseck », Études de Lettres, 1968, no 1, p. 295-310.
  • Achim Schröder, « Geld und Gesellschaft in Balzacs Erzählung Gobseck », Germanisch-Romanische Monatsschrift, 1999, no 49 (2), p. 161-90.