「ハーン–バナッハの定理」の版間の差分
Super-real dance (会話 | 投稿記録) m編集の要約なし |
Kazehikibird (会話 | 投稿記録) en:Hahn-Banach theorem (12:53, 21 August 2012 UTC) の 2~5 節の翻訳 |
||
52行目: | 52行目: | ||
[[Mizar|Mizarプロジェクト]]は、ハーン-バナッハの定理の完全な定式化と自動検証された証明を[http://mizar.uwb.edu.pl/JFM/Vol5/hahnban.html HAHNBAN file]に有している。 |
[[Mizar|Mizarプロジェクト]]は、ハーン-バナッハの定理の完全な定式化と自動検証された証明を[http://mizar.uwb.edu.pl/JFM/Vol5/hahnban.html HAHNBAN file]に有している。 |
||
==重要な帰結== |
|||
この定理にはいくつかの重要な帰結が存在し、しばしばそれらも「ハーン-バナッハの定理」と呼ばれることがある。 |
|||
* ''V'' をノルム線型空間、''U'' をその線形部分空間(必ずしも閉ではない)とし、作用素 {{nowrap|φ : ''U'' → '''K'''}} は連続かつ線型であるとする。このとき、φ には連続かつ線型な拡張 {{nowrap|ψ : ''V'' → '''K'''}} が存在し、そのノルムは φ と等しいものとなる(線型写像のノルムについては「[[バナッハ空間]]」を参照されたい)。これはすなわち、ノルム線型空間の範疇において、空間 '''K''' は{{仮リンク|単射的対象|en|injective object}}であることを意味する。 |
|||
* ''V'' をノルム線型空間、''U'' をその線型部分空間(必ずしも閉ではない)とし、''z'' を、''U'' の[[閉包 (位相空間論)|閉包]]に含まれないような ''V'' の元とする。このとき、すべての ''U'' の元 ''x'' に対しては ψ(''x'') = 0 であり、ψ(''z'') = 1 および {{nowrap begin}}||ψ|| = 1 / dist(''z'', ''U''){{nowrap end}} を満たすような連続線型作用素 {{nowrap|ψ : ''V'' → '''K'''}} が存在する。 |
|||
* 特に、ノルム線型空間 ''V'' の任意の元 ''z'' に対して、{{nowrap begin}}ψ(''z'') = ||z||{{nowrap end}} かつ {{nowrap begin}}||ψ|| ≤ 1{{nowrap end}} を満たすような連続線型作用素 {{nowrap|ψ : ''V'' → '''K'''}} が必ず存在する。このことは、ノルム線型空間 ''V'' からその二重双対 {{nowrap|''V'' ′′}} への[[回帰的空間|自然な単射]]は同型であるということを意味する。 |
|||
==ハーン-バナッハの分離定理== |
|||
ハーン-バナッハの定理の別形態のものとして、'''ハーン-バナッハの分離定理'''というものが知られている<ref>Gabriel Nagy, [http://www.math.ksu.edu/~nagy/real-an/ap-e-h-b.pdf Real Analysis] [http://www.math.ksu.edu/~nagy/real-an/ lecture notes]</ref> 。この定理は{{仮リンク|凸幾何学|en|convex geometry}}<ref>{{cite journal |first=R. |last=Harvey |first2=H. B. |last2=Lawson |title=An intrinsic characterisation of Kahler manifolds |journal=[[Inventiones Mathematicae|Invent. Math]] |volume=74 |year=1983 |issue=2 |pages=169–198 |doi=10.1007/BF01394312 |ref=harv }}</ref>、[[最適化問題|最適化理論]]、[[経済学]]の分野で幅広く用いられている。 |
|||
'''定理:''' ''V'' を、<math>\scriptstyle \mathbb K</math> = ℝ or ℂ に対する[[位相ベクトル空間]]とし、''A'' および ''B'' を、''V'' の空でない凸な部分集合とし、''A'' ∩ ''B'' = ∅ とする。このとき、次が成立する: |
|||
(i) もし ''A'' が開であるなら、ある連続線型作用素 <math>\scriptstyle\lambda\colon V \to \mathbb K</math> および実数 <math>\scriptstyle t \in \mathbb R</math> が存在して、<math>\scriptstyle\operatorname{Re}\,\lambda(a) < t \leq \operatorname{Re}\,\lambda(b)</math> がすべての <math>\scriptstyle a \in A</math>, <math>\scriptstyle b \in B</math> に対して成立する。 |
|||
(ii) もし ''V'' が局所凸で、''A'' がコンパクトで、''B'' が閉であるなら、ある連続線型作用素 <math>\scriptstyle\lambda\colon V \to \mathbb K</math> および実数 <math>\scriptstyle s, t\in \mathbb R</math> が存在して、<math>\scriptstyle\operatorname{Re}\,\lambda(a) < t < s < \operatorname{Re}\,\lambda(b)</math> がすべての <math>\scriptstyle a \in A</math>, <math>\scriptstyle b \in B</math> に対して成立する。 |
|||
==選択公理との関係== |
|||
上述のように、[[選択公理]]はハーン-バナッハの定理を意味するものであるが、その逆は真ではない。このことは、定理の証明において選択公理よりも弱い{{仮リンク|ウルトラフィルターの補題|en|ultrafilter lemma}}を用いることが出来るが、その逆は不可能であるという点に注意することで分かる。ハーン-バナッハの定理は、実際には、ウルトラフィルターの補題よりもさらに弱い仮定を用いて証明することも出来る<ref>{{cite book |first=D. |last=Pincus |chapter=The strength of Hahn–Banach's Theorem |title=Victoria Symposium on Non-standard Analysis |series=Lecture notes in Math. |volume=369 |location=New York |publisher=Springer |year=1974 |pages=203–248 |isbn=0-387-06656-X }} Citation from {{cite journal |first=M. |last=Foreman |first2=F. |last2=Wehrung |url=http://matwbn.icm.edu.pl/ksiazki/fm/fm138/fm13812.pdf |title=The Hahn–Banach theorem implies the existence of a non-Lebesgue measurable set |journal=Fundamenta Mathematicae |volume=138 |issue= |year=1991 |pages=13–19 |doi= |ref=harv }}</ref> |
|||
[[可分空間|可分]]な[[バナッハ空間]]に対して、ブラウンとシンプソンは、 |
|||
[[ケーニヒの補題]]を公理とする{{仮リンク|二階算術|en|second-order arithmetic}}の弱部分システム WKL<sub>0</sub> によってハーン-バナッハの定理がしたがう、ということを証明した<ref>{{cite journal |first=D. K. |last=Brown |first2=S. G. |last2=Simpson |title=Which set existence axioms are needed to prove the separable Hahn–Banach theorem? |journal=Annals of Pure and Applied Logic |volume=31 |issue= |year=1986 |pages=123–144 |doi=10.1016/0168-0072(86)90066-7 |ref=harv }} [http://www.math.psu.edu/simpson/papers/hilbert/node7.html#3 Source of citation].</ref>。 |
|||
==双対空間 <math>C[a,b]^*</math>== |
|||
ハーン-バナッハの定理の帰結として、次のようなものも存在する。 |
|||
'''命題'''. <math> -\infty<a<b<\infty</math> とする。このとき <math>F\in C[a,b]^*</math> であるための必要十分条件は、ある有界な変動の関数 <math>\rho:[a,b]\to\mathbb{R}</math> が存在して |
|||
<math>F(u)=\int^b_a u(x)d\rho(x)</math> |
|||
がすべての <math>u\in C[a,b]</math> に対して成立することである。 |
|||
さらに、<math>\rho</math> の総変動を <math>V(\rho)</math> としたとき、<math>\|F\|=V(\rho)</math> が成立する。 |
|||
==関連項目== |
==関連項目== |
2012年8月22日 (水) 13:08時点における版
数学におけるハーン-バナッハの定理(ハーン-バナッハのていり、英: Hahn-Banach theorem)は、関数解析学の分野における中心的な定理である。いくつかのベクトル空間の部分空間上で定義される有界線形汎関数の、全空間への拡張について述べた定理で、双対空間の研究を「面白いもの」にするような、すべてのノルム線形空間上定義される連続線形汎関数が「十分に」ある、ということを示すものである。ハーン-バナッハの定理の別形態のものとして、ハーン-バナッハの分離定理あるいは分離超平面定理と呼ばれるものがあり、凸幾何学の分野で多く用いられている。
定理の名前の由来は、1920年代後半にそれぞれ独立にこの定理を証明したハンズ・ハーンとステファン・バナッハである。定理の特別な場合[1]については、より早い段階(1912年)でエードゥアルト・ヘリーによって証明されており[2]、またこの定理が導出されるようなある一般的な拡張定理は1923年にマルツェル・リースによって証明されていた[3]。
定式化
定理の最も一般な定式化においては、いくつかの準備が必要とされる。実数体 R について与えられたベクトル空間 V に対し、関数 ƒ : V → R が劣線形であるとは、
- 任意の および x ∈ V に対して が成立する(正同次性)
- 任意の x, y ∈ V に対して が成立する(劣加法性)
が成立することを言う。
V 上のすべての半ノルム(特に、V 上のすべてのノルム)は劣線形である。他の劣線形関数、特に凸集合のミンコフスキー汎関数なども同様に有用なものとなりうる。
ハーン-バナッハの定理は次のようなものである: が劣線形関数で、 が線形部分空間 U ⊆ V 上の線形汎関数であり、U 上では は によって支配されるようなもの、すなわち
が成立するようなものとする。このとき、 には全空間 V へのある線形拡張 が存在する。すなわち、次を満たすような線形汎関数 ψ が存在する:
および
(Rudin 1991, Th. 3.2)
ハーン-バナッハの定理の別形態は次のようなものである: V をスカラー場 K (実数 R あるいは複素数 C)についてのベクトル空間とし、 を半ノルムとし、 を V の K-線形部分空間 U 上の K-線形汎関数とし、U 上ではその絶対値が によって支配されるもの、すなわち
が成立するものとする。このとき、φ には全空間 V への線形拡張 が存在する。すなわち、次を満たすような K-線形汎関数 ψ が存在する:
および
この定理の複素数の場合においては、実数の場合での仮定に加えて C-線形性の仮定、すなわちすべてのベクトル x ∈ U に対して、ベクトル i x も U に属し、φ(i x) = i φ(x) が成立する、という仮定が必要となる。
一般的に、拡張 ψ は φ によって一意に定まるものではなく、定理の証明を見ても ψ を見つける明示的な方法は分からない。無限次元空間 V の場合には、選択公理の一形態であるツォルンの補題が、証明に必要とされる。
(Reed & Simon 1980)によれば、 に対する劣線形性の条件は、条件
に、少し弱めることが出来る。この条件は、ハーン-バナッハの定理と凸性の間の深い関係を明らかにするものである。
Mizarプロジェクトは、ハーン-バナッハの定理の完全な定式化と自動検証された証明をHAHNBAN fileに有している。
重要な帰結
この定理にはいくつかの重要な帰結が存在し、しばしばそれらも「ハーン-バナッハの定理」と呼ばれることがある。
- V をノルム線型空間、U をその線形部分空間(必ずしも閉ではない)とし、作用素 φ : U → K は連続かつ線型であるとする。このとき、φ には連続かつ線型な拡張 ψ : V → K が存在し、そのノルムは φ と等しいものとなる(線型写像のノルムについては「バナッハ空間」を参照されたい)。これはすなわち、ノルム線型空間の範疇において、空間 K は単射的対象であることを意味する。
- V をノルム線型空間、U をその線型部分空間(必ずしも閉ではない)とし、z を、U の閉包に含まれないような V の元とする。このとき、すべての U の元 x に対しては ψ(x) = 0 であり、ψ(z) = 1 および
||ψ|| = 1 / dist(z, U) を満たすような連続線型作用素 ψ : V → K が存在する。
- 特に、ノルム線型空間 V の任意の元 z に対して、
ψ(z) = ||z|| かつ ||ψ|| ≤ 1 を満たすような連続線型作用素 ψ : V → K が必ず存在する。このことは、ノルム線型空間 V からその二重双対 V ′′ への自然な単射は同型であるということを意味する。
ハーン-バナッハの分離定理
ハーン-バナッハの定理の別形態のものとして、ハーン-バナッハの分離定理というものが知られている[4] 。この定理は凸幾何学[5]、最適化理論、経済学の分野で幅広く用いられている。
定理: V を、 = ℝ or ℂ に対する位相ベクトル空間とし、A および B を、V の空でない凸な部分集合とし、A ∩ B = ∅ とする。このとき、次が成立する:
(i) もし A が開であるなら、ある連続線型作用素 および実数 が存在して、 がすべての , に対して成立する。
(ii) もし V が局所凸で、A がコンパクトで、B が閉であるなら、ある連続線型作用素 および実数 が存在して、 がすべての , に対して成立する。
選択公理との関係
上述のように、選択公理はハーン-バナッハの定理を意味するものであるが、その逆は真ではない。このことは、定理の証明において選択公理よりも弱いウルトラフィルターの補題を用いることが出来るが、その逆は不可能であるという点に注意することで分かる。ハーン-バナッハの定理は、実際には、ウルトラフィルターの補題よりもさらに弱い仮定を用いて証明することも出来る[6] 可分なバナッハ空間に対して、ブラウンとシンプソンは、 ケーニヒの補題を公理とする二階算術の弱部分システム WKL0 によってハーン-バナッハの定理がしたがう、ということを証明した[7]。
双対空間
ハーン-バナッハの定理の帰結として、次のようなものも存在する。
命題. とする。このとき であるための必要十分条件は、ある有界な変動の関数 が存在して
がすべての に対して成立することである。
さらに、 の総変動を としたとき、 が成立する。
関連項目
注釈
- ^ ある区間 [a, b] 上の連続空関数からなる空間C[a, b] の場合。
- ^ O'Connor, John J.; Robertson, Edmund F., “ハーン–バナッハの定理”, MacTutor History of Mathematics archive, University of St Andrews.
- ^ リースの拡張定理を参照されたい。Gȧrding, L. (1970). “Marcel Riesz in memoriam”. Acta Math. 124 (1): I–XI. MR0256837.によれば、1918年にはすでにリースはこの定理の内容について知っていたとされる。
- ^ Gabriel Nagy, Real Analysis lecture notes
- ^ Harvey, R.; Lawson, H. B. (1983). “An intrinsic characterisation of Kahler manifolds”. Invent. Math 74 (2): 169–198. doi:10.1007/BF01394312.
- ^ Pincus, D. (1974). “The strength of Hahn–Banach's Theorem”. Victoria Symposium on Non-standard Analysis. Lecture notes in Math.. 369. New York: Springer. pp. 203–248. ISBN 0-387-06656-X Citation from Foreman, M.; Wehrung, F. (1991). “The Hahn–Banach theorem implies the existence of a non-Lebesgue measurable set”. Fundamenta Mathematicae 138: 13–19 .
- ^ Brown, D. K.; Simpson, S. G. (1986). “Which set existence axioms are needed to prove the separable Hahn–Banach theorem?”. Annals of Pure and Applied Logic 31: 123–144. doi:10.1016/0168-0072(86)90066-7. Source of citation.
参考文献
- Lawrence Narici and Edward Beckenstein, "The Hahn–Banach Theorem: The Life and Times", Topology and its Applications, Volume 77, Issue 2 (1997) pages 193–211.
- Michael Reed and Barry Simon, Methods of Modern Mathematical Physics, Vol. 1, Functional Analysis, Section III.3. Academic Press, San Diego, 1980. ISBN 0-12-585050-6.
- Rudin, Walter (1991). Functional Analysis (2nd ed.). McGraw-Hill Science/Engineering/Math. ISBN 978-0-07-054236-5
- Terence Tao, The Hahn–Banach theorem, Menger’s theorem, and Helly’s theorem
- Eberhard Zeidler, Applied Functional Analysis: main principles and their applications, Springer, 1995.