ハッキング (ラグビー)

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ハッキング: Hacking)は、初期のラグビーフットボールにおける戦術の名前である。現在のラグビーの試合では禁止されている。この戦術は相手選手のを蹴ることによって相手を転ばせる行為を含んだ。ハッキングをめぐる論争によって結局ラグビーフットボールとアソシエーションフットボール(サッカー)が分裂した。

英語のhackは「たたき切る」などの意味。

歴史[編集]

イングランドのフットボール競技におけるハッキングの慣習は長年存在し、いくつかのフットボールコードがハッキングを廃止した1800年代までは、ラグビーだけに限られていなかった。ハッキングは、ボールキャリアをグラウンドに設置させるために方法としてラグビーで使われ、そこでは、ラックへの1人目のの選手をハックすることも合法だった[1]。審判が導入される前のラグビーではしばしば、ハッキングはオフサイド英語版の選手を懲らしめる方法としても使われた[1]

フットボールの数多くの規則の違いのため、フットボールの統一規則を作成するために1863年に会合が開かれた。主な不一致は、新聞におけるハッキングの暴力性に関する苦情を受けてこれらの統一規則でハッキングを禁止しようと試みた時に起こった[2]ブラックヒースFCフランシス・モール・キャンベル英語版はハッキングが競技の一部であり[3]、ハッキングを除外することは「ゲームでの勇気も気力もすべて追い払うでしょうし、私は多くのフランス人を連れてきて、1週間の練習であなた方を打ち負かすでしょう[4]」と主張した[5]。キャンベルはハッキングの維持を目指して数多くの修正案を提示した。ハッキングを規則に含めることを強く主張したキャンベルの修正案が却下された結果として、キャンベルはブラックヒースをフットボール協会の会合から退場させた。これによってラグビーとサッカーとの間の分裂が起きた[6]

廃止[編集]

ラグビーの一部としてハッキングを残すことへのキャンベルの強い支持にもかかわらず、数年の間に多数のクラブがハッキングを禁止し始め、ブラックヒースとリッチモンドはそれぞれ1865年と1866年にハッキングを禁止した[7]。1871年、ラグビークラブはラグビーフットボール連合を結成し、規則で許されていたハッキングの全ての文言は最終的に削除された[6]。一部のラグビークラブはRFUの結成後もハッキングの維持を強く主張した。その結果として、ラグビーが考案されたラグビー校はハッキングの禁止を拒絶したため1890年までRFUに加わることができなかった[7]。2019年現在のラグビーユニオン競技規則英語版の下では、第9条第12項でハッキングは禁止されている[8]

出典[編集]

  1. ^ a b Roodt, Gerhard (2015). “6: From the establishment of the RFU up to 1900”. The DNA of Rugby Football: A Short History of the Origin of Rugby Football. Partridge Africa. ISBN 1482808293 
  2. ^ Dunning, Eric (2004). Sport Histories: Figurational Studies in the Development of Modern Sports. Routledge. p. 56. ISBN 1134447485 
  3. ^ To have or not to hack?”. BBC News. 2016年2月26日閲覧。
  4. ^ 青沼 裕之「フットボール協会(FA)結成と FA 規則制定の意図はどこにあったのか?:1863年 FA 会議の審議過程の分析」『体育学研究』第59巻第2号、2014年、869–885頁、doi:10.5432/jjpehss.13077 
  5. ^ Collins, Tony (2009). A Social History of English Rugby Union. Routledge. p. 77. ISBN 1134023359 
  6. ^ a b Dunning, Eric (2005). Barbarians, Gentlemen and Players: A Sociological Study of the Development of Rugby Football. Psychology Press. pp. 94–95. ISBN 071468290X 
  7. ^ a b Nauright, John. “Rugby”. Encyclopædia Britannica. 2016年2月26日閲覧。
  8. ^ 9 Foul play”. World Rugby (2019年). 2019年10月25日閲覧。 “プレーヤーは、誰かに暴行したり、暴言を吐いたりしてはならない。暴行には、かみつき、殴打、目や目の周辺部への接触、腕、肩、頭、膝のいずれかの部分を使って殴ること(スティフアームタックルを含む)、踏みつけること、足でつまずかせること、蹴ることを含むが、この限りではない。”

関連項目[編集]