データベース権
データベース権(データベースけん)は、データベースの抽出・再利用(複製頒布)による「営業上の利益」をデータベースの作者が独占できるようにする知的財産権である[1]。これによれば、データベースの抽出・再利用をしたい者は、作者に許諾を得なければならない。データベースには、創作性があるものとないものがある。このうち、創作性がないものは従来の著作権法では保護されない場合がある。創作性が無くとも多大な労力・時間・資金が投じられたデータベースの作者の財産権は保護されるべきとの考えから、データベースを保護するための特別の条項や法律を定め、データベースの独占権を整備することが検討されている。
経緯
[編集]従来データベースは、創作性のあるものはその著作物性をもって、創作性のないものはいわゆる「額に汗」法理によって、いずれも著作権によって保護されると考えられていた。しかし、1991年のいわゆる「Feist判決」によって、創作性のないデータベースは著作権で保護されない場合があることが露見した[2]。これを受けて欧州連合は1996年に「EUデータベース指令」を発令し、多大な労力・時間・資金が投じられたが創作性のないデータベースの保護に乗り出した[3][4]。
賛否
[編集]データベースの作成側は本権利の法制化に賛成し、データベースの利用側は法制化に反対している[5]。法制化によってデータベースを作成する動機は昂進するが(供給促進)、利用に当たっては利用料金が発生するなど円滑な情報共有が損なわれるためである(需要抑制)。
種類
[編集]権利付与型と行為調整型に分類される。前者は著作権法にデータベース特別の(羅: sui generis)権利を規定する。後者はデータベース特別の条項を定めるのではなく、不正競争防止法を改正し、盗用データベースの流通差し止めができるようにする。欧州は前者により、米国は後者により、創作性のないデータベースの保護を法制化している。日本は、民法の不法行為として逐一司法判断がなされており、勝訴したとしても盗用データベースの流通差止め請求は不可能である[6][7]。日本学術会議(2001年、5頁)は法制化に反対を表明しているが、日弁連(2004年、5頁)は民事差止め請求権がないのは問題であり、日本も権利付与型で導入すべきであるとしており、経済産業省(2004年、58頁)は、行為調整型での導入が最低限必要であるとして検討が続けられている。
脚注
[編集]- ^ 検証文献:武田、奥住、横溝、天野 2004年、1頁
- ^ 原著:伊藤博文(2000年訳)合州国連邦最高裁判所(1991年3月27日)「Feist出版社 対 Rural電話サービス会社」『豊橋創造大学短期大学部研究紀要』17号159頁、2010年7月31日閲覧。
- ^ 原著:欧州連合(1996年3月11日)『Directive 96/9/EC of the European Parliament and of the Council of 11 March 1996 on the legal protection of databases』 2010年7月31日閲覧。
- ^ 検証文献:長塚 1999年
- ^ 検証文献:国会図書館(2004年2月18日)「データベース保護法案,下院司法委員会で可決(米国)」『カレントアウェアネス-E』31号E172頁
- ^ 1999年改正不正競争防止法で「デジタルコンテンツ」の流通差し止めが明記されたが、この「デジタルコンテンツ」には創作性のないデータベースは含まれない(長塚2001年333頁目)。
- ^ 検証文献:データベース振興センター 2004年、4・7・11頁
参考文献
[編集]- 経済産業省(2004年2月)『不正競争防止法の見直しの方向性について』 2010年8月1日閲覧。
- 佐藤佳邦(2006年)「25 データベース保護と競争政策 創作性を要件としないデータベース保護の競争政策的考察」『知財研紀要』(知的財産研究所)2006号152頁, NAID 40007343309
- 武田貞生、奥住啓介、横溝一陽、天野辰美(2004年10月25日)『データベースの法的保護に関する動向調査』(データベース振興センター)2018年9月22日閲覧。
- データベース振興センター(2004年10月21日)『データベースの保護について』 2010年7月31日閲覧。
- 長塚 隆(1999年7月1日)「EUのデータベース保護政策 (<特集>EUの情報政策)」『情報の科学と技術』(情報科学技術協会)49巻7号340〜346頁, NAID 110002828072, doi:10.18919/jkg.49.7_340、2010年7月31日閲覧。
- 長塚 隆(2001年)「データベースの法的保護 ヨーロッパにおけるデータベースの新たな権利sui generisをめぐる最近の動き」『情報管理』44巻5号322頁 - 、doi:10.1241/johokanri.44.322
- 日弁連(2004年11月19日)『不正競争防止法等の改正に対する意見書』 2018年9月22日閲覧。
- 日本学術会議(2001年10月17日)『声明 データベースに関して提案されている独自の権利 (sui generis right) についての見解』 2018年9月22日閲覧。
関連項目
[編集]- 著作権
- EUデータベース指令 (Directive on the legal protection of databases)
- 「額に汗」法理
外部リンク
[編集]- The Copyright and Rights in Databases Regulations 1997(EU指令を受けて履行された英国の法令)