「エクマン境界層」の版間の差分
m 参考文献の書き方がわかりません |
|||
1行目: | 1行目: | ||
'''エクマン境界層''' は、コリオリ力と渦粘性がつりあう流体に見られる層である。[[ヴァン・ヴァルフリート・エクマン]] |
'''エクマン境界層'''(エクマンきょうかいそう、{{lang-en-short|Ekman layer}})は、[[コリオリ力]]と{{仮リンク|渦粘性|en|eddy viscosity}}がつりあう[[流体]]に見られる[[境界層]]である。[[ヴァン・ヴァルフリート・エクマン]]によって初めて記述された。 |
||
==エクマン境界層の一般解== |
==エクマン境界層の一般解== |
||
二次元回転平面流体において、圧力傾度力、コリオリ力、渦粘性が釣り合っている状況を考える。すなわち。平面流れ(u,v)が次の微分方程式系 |
二次元回転平面流体において、圧力傾度力、コリオリ力、渦粘性が釣り合っている状況を考える。すなわち。平面流れ(''u'' , ''v'' ) が次の微分方程式系に従うと考える。 |
||
に従うと考える。 |
|||
:<math> |
:<math> |
||
\begin{align} |
\begin{align} |
||
-fv &= -\frac{1}{\rho_o} \frac{\part p}{\part x}+K_z \frac{\part^2 u}{\part z^2}, \\ |
-fv &= -\frac{1}{\rho_o} \frac{\part p}{\part x}+K_z \frac{\part^2 u}{\part z^2}, \\ |
||
fu &= -\frac{1}{\rho_o} \frac{\part p}{\part y}+K_z \frac{\part^2 v}{\part z^2} |
fu &= -\frac{1}{\rho_o} \frac{\part p}{\part y}+K_z \frac{\part^2 v}{\part z^2} |
||
\end{align} |
\end{align} |
||
</math> |
</math> |
||
ここで地衡流< |
ここで[[地衡流]] (''u<sub>g</sub>'' , ''v<sub>g</sub>'' ) を考えると、 |
||
:<math> |
:<math> |
||
\begin{align} |
\begin{align} |
||
-fv_g &= -\frac{1}{\rho_o} \frac{\part p}{\part x}\\ |
-fv_g &= -\frac{1}{\rho_o} \frac{\part p}{\part x}\\ |
||
fu_g &= -\frac{1}{\rho_o} \frac{\part p}{\part y} |
fu_g &= -\frac{1}{\rho_o} \frac{\part p}{\part y} |
||
\end{align} |
\end{align} |
||
</math> |
</math> |
||
非地衡流成分 |
非地衡流成分 ''u' ''= ''u'' - ''u<sub>g</sub>'' , ''v' ''= ''v'' - ''v<sub>g</sub>'' が従う方程式は |
||
:<math> |
:<math> |
||
\begin{align} |
\begin{align} |
||
-fv^\prime &= K_z \frac{\part^2 u^\prime}{\part z^2}, \\ |
-fv^\prime &= K_z \frac{\part^2 u^\prime}{\part z^2}, \\ |
||
fu^\prime &= K_z \frac{\part^2 v^\prime}{\part z^2} |
fu^\prime &= K_z \frac{\part^2 v^\prime}{\part z^2} |
||
\end{align} |
\end{align} |
||
</math> |
</math> |
||
以下では |
以下では、非地衡流成分 ''u' '', ''v' ''を省略して ''u'' , ''v'' と記す。 |
||
ここで複素速度 |
ここで複素速度 ''V'' = ''u'' + ''iv'' (''i'' は[[虚数単位]])を用いると、次の二階連立偏微分方程式にまとめることができる。 |
||
:<math> |
:<math> |
||
45行目: | 44行目: | ||
</math> |
</math> |
||
ここで<math>h_E\equiv\sqrt{2K_z/f}</math> と置くと |
ここで<math>h_E\equiv\sqrt{2K_z/f}</math> と置くと、<math>\sqrt{i}=(1+i)/\sqrt{2}</math> であるから |
||
:<math> |
:<math> |
||
51行目: | 50行目: | ||
</math> |
</math> |
||
この< |
この''h<sub>E</sub>'' は、エクマン境界層の厚さの目安のひとつになっている。 |
||
===海上を吹く風によって形成されるエクマン境界層=== |
===海上を吹く風によって形成されるエクマン境界層=== |
||
海上を吹く風が海面に及ぼす風応力によって海面に運動がおこる。この運動が渦粘性によって次第に下層まで伝わり、エクマン境界層が生じる。 |
海上を吹く風が海面に及ぼす風応力によって海面に運動がおこる。この運動が渦粘性によって次第に下層まで伝わり、エクマン境界層が生じる。風が長期間一定であると仮定したときのエクマン境界層について記述する。これは上記の一般解に2つの境界条件を課すと解くことができる。 |
||
風が長期間一定であると仮定したときのエクマン境界層について記述する。 |
|||
これは上記の一般解に2つの境界条件を課すと解くことができる。 |
|||
境界条件のひとつは |
境界条件のひとつは、海洋表層における力が風応力による摩擦によって生じるという仮定から導かれる。 |
||
:<math> |
:<math> |
||
\rho K_z\frac{\partial V}{\part z}\Big|_{z=0}=\tau,\tau=\tau_x+i\tau_y |
\rho K_z\frac{\partial V}{\part z}\Big|_{z=0}=\tau,\quad \tau=\tau_x+i\tau_y |
||
</math> |
</math> |
||
72行目: | 69行目: | ||
</math> |
</math> |
||
2つ目の境界条件から |
2つ目の境界条件から ''B'' = 0 がわかる。次に1つ目の境界条件から、 |
||
:<math> |
:<math> |
||
85行目: | 82行目: | ||
\begin{align} |
\begin{align} |
||
u=u_g+\frac{h_E}{2\rho K_z}\left[(\tau_x+\tau_y)\cos\frac{z}{h_E}+(\tau_x-\tau_y)\sin\frac{z}{h_E}\right],\\ |
u=u_g+\frac{h_E}{2\rho K_z}\left[(\tau_x+\tau_y)\cos\frac{z}{h_E}+(\tau_x-\tau_y)\sin\frac{z}{h_E}\right],\\ |
||
v=v_g+\frac{h_E}{2\rho K_z}\left[(-\tau_x+\tau_y)\cos\frac{z}{h_E}+(\tau_x+\tau_y)\sin\frac{z}{h_E}\right] |
v=v_g+\frac{h_E}{2\rho K_z}\left[(-\tau_x+\tau_y)\cos\frac{z}{h_E}+(\tau_x+\tau_y)\sin\frac{z}{h_E}\right] |
||
\end{align} |
\end{align} |
||
</math> |
</math> |
||
特に |
特に ''z'' = 0 において、地衡流を除いた風応力のみによる吹送流をみると、 |
||
:<math> |
:<math> |
||
u_0=\frac{h_E}{2\rho K_z}(\tau_x+\tau_y)\qquad,v_0=\frac{h_E}{2\rho K_z}(-\tau_x+\tau_y) |
u_0=\frac{h_E}{2\rho K_z}(\tau_x+\tau_y)\qquad,v_0=\frac{h_E}{2\rho K_z}(-\tau_x+\tau_y) |
||
</math> |
</math> |
||
すなわち海表面における流れの速度ベクトルは |
すなわち海表面における流れの速度ベクトルは、風応力ベクトルの右45度の角をなす(北半球)。 |
||
⚫ | |||
*[[エクマン螺旋]] |
|||
*[[エクマン輸送]] |
|||
== 参考文献 == |
== 参考文献 == |
||
気象力学通論 |
* {{cite|和書|title=気象力学通論 |author=小倉義光 |publisher= |year= |isbn= |page= }} |
||
⚫ | |||
*{{仮リンク|エクマン螺旋|en|Ekman spiral}} |
|||
*{{仮リンク|エクマン輸送|en|Ekman transport}} |
|||
{{DEFAULTSORT:えくまんきようかいそう}} |
|||
[[Category:気象]] |
[[Category:気象]] |
||
[[Category:環境]] |
[[Category:環境]] |
||
[[Category:大気力学]] |
|||
[[Category:流体力学]] |
2013年4月21日 (日) 23:21時点における版
エクマン境界層(エクマンきょうかいそう、英: Ekman layer)は、コリオリ力と渦粘性がつりあう流体に見られる境界層である。ヴァン・ヴァルフリート・エクマンによって初めて記述された。
エクマン境界層の一般解
二次元回転平面流体において、圧力傾度力、コリオリ力、渦粘性が釣り合っている状況を考える。すなわち。平面流れ(u , v ) が次の微分方程式系に従うと考える。
ここで地衡流 (ug , vg ) を考えると、
非地衡流成分 u' = u - ug , v' = v - vg が従う方程式は
以下では、非地衡流成分 u' , v' を省略して u , v と記す。
ここで複素速度 V = u + iv (i は虚数単位)を用いると、次の二階連立偏微分方程式にまとめることができる。
この微分方程式の一般解は
ここで と置くと、 であるから
このhE は、エクマン境界層の厚さの目安のひとつになっている。
海上を吹く風によって形成されるエクマン境界層
海上を吹く風が海面に及ぼす風応力によって海面に運動がおこる。この運動が渦粘性によって次第に下層まで伝わり、エクマン境界層が生じる。風が長期間一定であると仮定したときのエクマン境界層について記述する。これは上記の一般解に2つの境界条件を課すと解くことができる。
境界条件のひとつは、海洋表層における力が風応力による摩擦によって生じるという仮定から導かれる。
もうひとつは、いま考えている層が海面に沿った境界層であることから導かれる。海はエクマン層に比べて 無限に深いとし、海底ではエクマン層に由来する流れが消えていると仮定する。
2つ目の境界条件から B = 0 がわかる。次に1つ目の境界条件から、
これを一般解に代入して整理し、実部と虚部に分けると、
特に z = 0 において、地衡流を除いた風応力のみによる吹送流をみると、
すなわち海表面における流れの速度ベクトルは、風応力ベクトルの右45度の角をなす(北半球)。
参考文献
- 小倉義光『気象力学通論』。