「ATPアーゼ」の版間の差分
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ABCとは'''A'''TP '''B'''inding '''C'''assette(ATP結合カセット)の略称である。膜貫通型のABC ATPアーゼは、常に4つの機能[[ドメイン]](2つの膜貫通ドメインと2つのABCドメイン)から構成される。これらのドメインは、全てが一つの遺伝子にコードされている場合もあれば、それぞれ別々の遺伝子にコードされている場合もある。膜貫通ドメインの配列は多様であるが、ABCドメインと呼ばれるATP結合部位の配列は高度に保存されている。[[真核生物]](主に[[ヒト]])では有害物質の排出に使用されているが、一方[[原核生物]]では[[糖]]、[[アミノ酸]]と言った物質の取り込みに用いられている。また、ヒトの中でも[[トランスポーター]]、[[チャネル]]、[[レセプター]]等、その機能は多彩である。 |
ABCとは'''A'''TP '''B'''inding '''C'''assette(ATP結合カセット)の略称である。膜貫通型のABC ATPアーゼは、常に4つの機能[[ドメイン]](2つの膜貫通ドメインと2つのABCドメイン)から構成される。これらのドメインは、全てが一つの遺伝子にコードされている場合もあれば、それぞれ別々の遺伝子にコードされている場合もある。膜貫通ドメインの配列は多様であるが、ABCドメインと呼ばれるATP結合部位の配列は高度に保存されている。[[真核生物]](主に[[ヒト]])では有害物質の排出に使用されているが、一方[[原核生物]]では[[糖]]、[[アミノ酸]]と言った物質の取り込みに用いられている。また、ヒトの中でも[[トランスポーター]]、[[チャネル]]、[[レセプター]]等、その機能は多彩である。 |
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これら生体膜貫通型の古典的なABC ATPアーゼに加え、最近ではDNA結合型のABC ATPアーゼが知られるようになってきている。代表的なものと |
これら生体膜貫通型の古典的なABC ATPアーゼに加え、最近ではDNA結合型のABC ATPアーゼが知られるようになってきている。代表的なものとして、染色体の高次構造と機能を制御する[[SMCタンパク質]]があり、これらは[[コンデンシン]]あるいは[[コヒーシン]]のコアサブユニットとして機能する。また、DNA2重鎖切断の修復に関与するRad50もこのカテゴリーに属する。 |
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ABCドメインの特徴は、多くのATPアーゼが共有するWalker AとWalker Bモチーフに加え、'''Signatureモチーフ'''(あるいは'''Cモチーフ''')と呼ばれる配列を持つことにある。'''すべてのABC ATPアーゼは一対のABCドメインをもち、2つのATP分子は2つのドメインに挟まれるようにして結合する'''。この際、ATPは一方のドメインのWalker AとWalker Bモチーフに結合し、もう一方のドメインのCモチーフと接触する。このCモチーフとの接触が、ATPの加水分解に必須である。すなわち、ATPの結合と加水分解のサイクルが2つのABCドメインの会合と解離のサイクルを制御し、さらにその構造変換が基質結合ドメイン(例えば、ABCトランスポーターの膜貫通ドメイン)に伝達されると考えられている。その作用メカニズムは、2シリンダー・エンジンにも例えられる。 |
ABCドメインの特徴は、多くのATPアーゼが共有するWalker AとWalker Bモチーフに加え、'''Signatureモチーフ'''(あるいは'''Cモチーフ''')と呼ばれる配列を持つことにある。'''すべてのABC ATPアーゼは一対のABCドメインをもち、2つのATP分子は2つのドメインに挟まれるようにして結合する'''。この際、ATPは一方のドメインのWalker AとWalker Bモチーフに結合し、もう一方のドメインのCモチーフと接触する。このCモチーフとの接触が、ATPの加水分解に必須である。すなわち、ATPの結合と加水分解のサイクルが2つのABCドメインの会合と解離のサイクルを制御し、さらにその構造変換が基質結合ドメイン(例えば、ABCトランスポーターの膜貫通ドメイン)に伝達されると考えられている。その作用メカニズムは、2シリンダー・エンジンにも例えられる。 |
2006年1月12日 (木) 13:49時点における版
ATPアーゼとはアデノシン三リン酸(ATP)の末端高エネルギーリン酸結合を加水分解する酵素群の総称である(EC番号:3.6.1.3.)。ATPは生体内のエネルギー通貨であり、エネルギーを要する生物活動に関連したタンパク質であれば、得てしてこの酵素の活性を持っている。正式名称アデノシン三リン酸フォスファターゼ、アデノシントリフォスファターゼ
特に最近では、正式名称が使用されることは少なく、『ATPアーゼ』としている場合が多い。
ATPアーゼの特徴
ATPアーゼは以下の反応を触媒する酵素の総称である。
この時に発生するエネルギー(アデノシン三リン酸の項を参照)を利用して、エネルギーを要する生物体内作用に寄与している。通常はATP以外のヌクレオチド三リン酸(GTP、UTP、CTPなど)に作用することが知られている。しかしながら存在している部位によって少しずつ性状が異なっている。
ATPに共通する特性は
- スルフヒドリル基(SH基)を必要とする。
- Mg2+、Ca2+によって活性化あるいは阻害を受ける。
この2点である。
ATPアーゼの役割
ATPアーゼの役割はエネルギーの関与する全ての反応に寄与していると言ってよい。
etc.
ATPアーゼの種類
- 運動性タンパク質ATPアーゼ:ATP加水分解によるコンフォメーションの変化を受ける。
- ABC ATPアーゼ:細胞への物質取り込みおよび排出
運動性タンパク質ATPアーゼ
ミオシンアクチン系に代表されるATPアーゼである。タンパク質にATPが結合することにより、タンパク質の立体構造に変化が起こり、その構造変化を利用して実際にタンパク質(ひいては細胞を)を『稼動』させることに関係している。
ミオシン、ダイニン、キネシンはそれぞれが蛍光標識を用いた一分子観測でその稼動が観察されている。
イオン輸送性ATPアーゼ
ATPの加水分解エネルギーを使って生体膜を透過しないイオンの輸送を行うATPアーゼの一群である。F型、A型、V型、P型が存在している。P型をのぞくものは、構造がよく似ておりイオン(主にプロトン)駆動型モーター(Fo、Ao、Vo)ならびにATP駆動型モーター(F1、A1、V1)から形成される。
全てがイオン濃度勾配を用いてATP合成および逆反応のATP加水分解に伴うイオン濃度勾配の形成が可能である。しかしながら、ATP合成酵素として用いられているのはF型およびA型のみである。
ABC ATPアーゼ
ABCとはATP Binding Cassette(ATP結合カセット)の略称である。膜貫通型のABC ATPアーゼは、常に4つの機能ドメイン(2つの膜貫通ドメインと2つのABCドメイン)から構成される。これらのドメインは、全てが一つの遺伝子にコードされている場合もあれば、それぞれ別々の遺伝子にコードされている場合もある。膜貫通ドメインの配列は多様であるが、ABCドメインと呼ばれるATP結合部位の配列は高度に保存されている。真核生物(主にヒト)では有害物質の排出に使用されているが、一方原核生物では糖、アミノ酸と言った物質の取り込みに用いられている。また、ヒトの中でもトランスポーター、チャネル、レセプター等、その機能は多彩である。
これら生体膜貫通型の古典的なABC ATPアーゼに加え、最近ではDNA結合型のABC ATPアーゼが知られるようになってきている。代表的なものとして、染色体の高次構造と機能を制御するSMCタンパク質があり、これらはコンデンシンあるいはコヒーシンのコアサブユニットとして機能する。また、DNA2重鎖切断の修復に関与するRad50もこのカテゴリーに属する。
ABCドメインの特徴は、多くのATPアーゼが共有するWalker AとWalker Bモチーフに加え、Signatureモチーフ(あるいはCモチーフ)と呼ばれる配列を持つことにある。すべてのABC ATPアーゼは一対のABCドメインをもち、2つのATP分子は2つのドメインに挟まれるようにして結合する。この際、ATPは一方のドメインのWalker AとWalker Bモチーフに結合し、もう一方のドメインのCモチーフと接触する。このCモチーフとの接触が、ATPの加水分解に必須である。すなわち、ATPの結合と加水分解のサイクルが2つのABCドメインの会合と解離のサイクルを制御し、さらにその構造変換が基質結合ドメイン(例えば、ABCトランスポーターの膜貫通ドメイン)に伝達されると考えられている。その作用メカニズムは、2シリンダー・エンジンにも例えられる。
AAA ATPアーゼ
AAAとはATPases Associated with diverse cellular Activityの略称である。タンパク質の輸送、膜融合、細胞内小器官の形成、DNA複製、転写調節など機能は多様だが、全てがリング状オリゴマー構造を取っている。ATPの加水分解エネルギーはタンパク質のアンフォールディング(3次構造をほどく)やタンパク質分解、オリゴマーの拡大などに使用されていると考えられている。
真核細胞のみならず、細菌(大腸菌)からも見つかっているが、唯一古細菌からは見つかっていない。
ATPアーゼの課題
運動性タンパク質ATPアーゼを除く全てのタンパク質が生体膜に存在している。そのため構造が理解されていないことが多く、未開拓な酵素の一つである。また、ATPアーゼ活性そのものについてもよくわかっておらず、ATPのエネルギーを得た中間体などの解析から『エネルギーを持ったタンパク質』の状態を理解することへの研究もなされている。
もっとも研究が進んでいるであろうATPアーゼはミオシンおよびATP合成酵素であるが、その全てが理解されたとはいずれも考えられない状況であることは否めない。