普遍係数定理

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代数トポロジーにおいて、普遍係数定理(ふへんけいすうていり、: universal coefficient theorems)はホモロジー論とコホモロジー論の間の関係を確立する。例えば、位相空間 X整係数ホモロジー論と、任意のアーベル群 A係数をもつホモロジーは以下のように関連する。整係数ホモロジー群 Hi(X; Z) は群 Hi(X; A) を完全に決定する。ここで Hi単体的ホモロジーあるいはより一般の特異ホモロジー論でもよい: 結果自体は自由アーベル群チェイン複体についてのホモロジー代数の純粋な成果である。結果の形は、Tor関手を使うという代償を払って、他の係数 A を使うことができる形である。

例えば AZ/2Z に取って係数が modulo 2 であるようにすることは一般的である。これはホモロジーに 2-捩れがないことによって straightforward になる。極めて一般的に、結果は Xベッチ数 bi F に係数をもつベッチ数 bi,F の間に成り立つ関係を示す。これらは異なるかもしれないが、F標数がホモロジーに p-捩れがある素数 p であるときのみである。

ホモロジーの場合のステートメント

加群のテンソル積 Hi(X; Z) ⊗ A を考えよう。定理は短完全列

が存在すると述べている。さらに、この列は、自然にではないが、分裂する。ここで μ は双線型写像 Hi(X; Z) × AHi(X; A) によって誘導される写像である。

係数環 AZ/pZ であれば、これはボックシュテイン・スペクトル系列英語版の特別な場合である。

一般に、R単項イデアル整域とする。LR 加群の鎖複体MR 加群とし、任意の iZ に対して Li捩れなし加群であるとする。このとき、任意の iZ に対して次の完全列が存在する:

さらに、任意の iZ に対して Li自由加群ならばこの完全列は分裂する。

M平坦加群であれば、Tor の項は現れないことに注意。

コホモロジーに対する普遍係数定理

G を主イデアル整域 R(例えば Z や体)上の加群とする。

Ext関手に関係するコホモロジーに対する普遍係数定理もある。これは自然な短完全列

が存在することを述べている。ホモロジーの場合のように、列は自然にではないが分裂する。

実際、

とし、次のように定義する:

このとき上の h はカノニカルな写像

である。代替的な視点はアイレンバーグ・マックレーン空間英語版を経由してコホモロジーを表現することに基づくことができる。ここで写像 hX から K(G, i) への写像のホモトピー類をホモロジーに誘導される対応する写像に写す。したがって、アイレンバーグ・マックレーン空間はホモロジー関手弱右随伴 (weak right adjoint) である[1]

例: 実射影空間の mod 2 コホモロジー

X = Pn(R)実射影空間英語版としよう。R = Z/2Z に係数をもつ X の特異コホモロジーを計算する。

整数ホモロジーは以下で与えられることを知っている:

Ext(R, R) = R, Ext(Z, R) = 0 なので上の完全列は

を生む。実は全コホモロジー環構造は

定理の特別な場合は整数コホモロジーを計算する。有限 CW 複体 X に対して、Hi(X; Z) は有限生成であり、したがって以下の分解がある。

ただし βi(X)Xベッチ数 の捩れ部分である。次をチェックできる。

および

これは整数コホモロジーに対する以下のステートメントを与える:

向き付け可能な連結 n-多様体 X に対して、この系はポアンカレ双対と合わせて βi(X) = βni(X) を与える。

関連項目

脚注

参考文献

  • Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, Cambridge, 2002. ISBN 0-521-79540-0. A modern, geometrically flavored introduction to algebraic topology. The book is available free in PDF and PostScript formats on the author's homepage.
  • Kainen, P. C. (1971). “Weak Adjoint Functors”. Mathematische Zeitschrift 122: 1–9. doi:10.1007/bf01113560. 
  • 志甫, 淳『層とホモロジー代数』共立出版株式会社〈共立講座 数学の魅力5〉、2016年。ISBN 978-4-320-11160-8 

外部リンク