乗法的積分

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数学における「乗法的積分」(じょうほうてきせきぶん、: "product integral")は、古典微分積分学において通常の積分がある種の和の極限と見做されることに並行して、その乗法版となるものを指す示唆的な呼称である。原初の乗法的積分は、1887年にヴィト・ヴォルテラ線型微分方程式系を解くために用いた[1][2](後述)。そのほか、乗法的積分の例には幾何積分 (geometric integral)、第二幾何積分 (bigeometric integral) など非ニュートン微分積分学におけるいくつかの積分を挙げることができる[3]

本項ではヴォルテラらに倣い、積分記号 ではなく積の -記法を乗法的積分を表すのに用いる(ふつうは、重ねた積記号(×) や P を変形させたものを使う)。

導入

函数 f: [a, b] → R の古典リーマン積分

と定義される。ただし極限は、区間 [a, b] の任意の分割を亙り、区間の最大長が 0 に近づく極限をとる。

乗法的積分は、厳密さをさておけば、和の極限を積の極限とする以外はこれと同じである。それは「離散的な」乗積の「連続」版として理解される。

定義

幾何積分[注 1]
  • これは乗法的作用素 (multiplicative operator) になる。

この定義は離散的な乗積作用素 b
a
の連続版であるとともに、通常の(加法的)積分 b
a
dx
の乗法版である。

加法版 乗法版
離散版
連続版

この定義の有用な点は、log との交換性:

である。

幾何積分は乗法的微分積分学英語版の一種である幾何微分積分学 (geometric calculus) で中心的な役割を果たす[3]

注意

定義

この意味での乗法的積分に関して、実函数の可積分条件はリーマン可積分であることが必要十分である。同様の仕方で、乗法的ルベーグ積分、乗法的リーマン・スティルチェス積分、乗法的ヘンストック・クルツヴァイル積分など、より一般の乗法的積分などを考えることができる。

この定義はヴォルテラのオリジナルの定義に対応する[2][4][5]数値的な函数 f: [a, b] → R に対し、

が成り立つから、この意味での乗法的積分は乗法的作用素ではない(ゆえにこれは乗法的微分積分学英語版に言う意味での乗法的積分ではない)。

ヴォルテラの乗法的積分は、行列値函数あるいはより一般にバナッハ代数値函数に対して(上記の数値的な函数の場合のような関係式は成立しないが)極めて有効である。

また、数値的な函数に対して、ヴォルテラの微分積分の体系での微分は対数微分法であり、従ってヴォルテラの意味での微分積分学は乗法的微分積分学英語版の一種でもないし、非ニュートン微分積分学英語版 (non-Newtonian calculus) の一種でもない[2]

性質

以下、幾何積分について述べる(他の乗法的積分では事情が異なる場合があることに注意)。

基本性質
幾何微分積分学の基本定理
ただし、f(x)幾何微分英語版である。幾何微分は例えば以下の法則を満たす:
積の法則
商の法則
乗法的大数の法則
ただし、X は確率分布 F(x) に従う確率変数。通常の(加法的な)大数の法則と比較せよ。

  1. ^ ここでいう「幾何」は幾何平均幾何数列幾何級数と同じく、増加が乗法的であることを意味する接頭辞。

関連項目

参考文献

  1. ^ V. Volterra, B. Hostinský, Opérations Infinitésimales Linéaires, Gauthier-Villars, Paris (1938).
  2. ^ a b c A. Slavík, Product integration, its history and applications, ISBN 80-7378-006-2, Matfyzpress, Prague, 2007.
  3. ^ a b M. Grossman, R. Katz, Non-Newtonian Calculus, ISBN 0-912938-01-3, Lee Press, 1972.
  4. ^ J. D. Dollard, C. N. Friedman, Product integration with applications to differential equations, Addison Wesley Publishing Company, 1979.
  5. ^ F.R. Gantmacher (1959) The Theory of Matrices, volumes 1 and 2.
  • A. E. Bashirov, E. M. Kurpınar, A. Özyapıcı. Multiplicative calculus and its applications, Journal of Mathematical Analysis and Applications, 2008.
  • W. P. Davis, J. A. Chatfield, Concerning Product Integrals and Exponentials, Proceedings of the American Mathematical Society, Vol. 25, No. 4 (Aug., 1970), pp. 743–747, doi:10.2307/2036741.
  • J. D. Dollard, C. N. Friedman, Product integrals and the Schrödinger Equation, Journ. Math. Phys. 18 #8,1598–1607 (1977).
  • J. D. Dollard, C. N. Friedman, Product integration with applications to differential equations, Addison Wesley Publishing Company, 1979.

外部リンク