司法消極主義

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司法消極主義(しほうしょうきょくしゅぎ)とは、司法府裁判所)が立法府行政府の判断を尊重し、違憲性が明白でない限り違憲審査を行わないことである[1]

概要[編集]

法治国家立憲主義国家において判断のもととなる憲法法律を社会環境などによって拡大解釈せずに文言のとおりに解釈しようという姿勢である。類義的なものとして、解釈は文言から離れてはならないとする「条文主義」や憲法解釈は憲法制定者の意思から離れてはならぬとする「原意主義」がある[2]。また先例や前例を重要とし従うとする「判例主義」がある。これとは反対に司法が積極的に法の不備・欠陥などを正しリードしていく役割も担う立場を司法積極主義といい、アメリカなどでよく見受けられる。判例法主義制定法主義法体系の基本や過去の既成的な面であり、今までの事例などに収まらない新しい部分はエクイティや法の解釈などで補助しているが、そこにおける姿勢の積極性・消極性の違いである。

日本においての司法消極主義[編集]

少なくとも第二次世界大戦後の日本は基本的に司法消極主義であり、戦前は大日本帝国憲法違憲審査権の規定がなく、司法は違憲審査権を有しないと解されていた[3]

日本国憲法第81条においては、最高裁判所を終審裁判所として違憲法令審査権を有すると規定されている。しかしながら、その権利が行使されたのは数えるほどであり、日本は極端な司法消極主義とも判例主義(≠判例法主義)ともいわれる[4][5]。なお、ドイツにおいて2007年に連邦憲法裁判所のホームページ上で公表された統計資料によれば、 2006年の憲法訴願の処理件数は5,782件を数える[6]

日本国憲法第81条は、アメリカ型の付随的違憲審査制を採っていると解するのが通説である[7][8]。したがって、現実的には違憲「立法」審査権ではなく「裁判で実際に問題になった事件上でのみ行使できる」限られた違憲審査権である(立法行為のみの時点で審査できるのではなく、それが現実の裁判で問題になって初めて権利を行使することができる)。また、この点は議論の余地があるものの「日本国憲法に違反する行政処分取消請求 最高裁昭和27年10月8日大法廷判決」[9]において、裁判所は具体的事件を離れて合憲性・違憲性を判断する立場でないとの判決を出しているので、前者のように解するのが妥当である。また、具体的事件に縛られないで違憲審査権を行使できるのが抽象的違憲審査制である。

背景[編集]

日本の裁判官が政策形成や違憲判断に消極的なのは、以下の制度要因に起因するという。

職歴(他の経験が少ない)
裁判官は、裁判所以外での経験が少なく、政策形成の経験を積む機会が少ない。
任期(判断が、自身の将来に影響する)
裁判官は約3年の短い周期で異動する。異動先には人気のある場所とない場所(例えば都会と地方では、都会の方が人気があるという)があるが、違憲判決を出すなどした裁判官は、人気のない場所に異動しやすく、その際の任期も長めになる傾向があるという[10][11]
内閣法制局の存在
官庁が作成する法案は、内閣法制局の審査をクリアしてから国会に提出される。この審査の際に法案に違憲の可能性があるかどうかを厳しくチェックする。事前のチェック機能があるため、そもそも違憲となる法律ができづらい。なお、この流れに乗らない議員立法の方が裁判所からの指摘が多いという。

脚注[編集]

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  1. ^ デジタル大辞泉. “司法消極主義(シホウショウキョクシュギ)とは - コトバンク” (日本語). コトバンク. 2018年10月7日閲覧。
  2. ^ 憲法解釈はどこまで変えられるか:オピニオン:Chuo Online : YOMIURI ONLINE(読売新聞)” (日本語). www.yomiuri.co.jp. 2018年10月7日閲覧。
  3. ^ 日本における違憲審査制の軌跡と特徴”. 立命館大学. 2018年10月7日閲覧。
  4. ^ 日本における違憲審査制の軌跡と特徴”. 立命館大学. 2018年11月10日閲覧。
  5. ^ 判例研究方法とその限界”. 名古屋大学. 2018年11月10日閲覧。
  6. ^ 日本とドイツにおける違憲審査制度の比較”. 日本大学. 2018年10月8日閲覧。
  7. ^ 芦部信喜 & 高橋和之 2011, p. 368.
  8. ^ 野中俊彦 et al. 2006, p. 263.
  9. ^ 裁判所 | 裁判例情報” (日本語). www.courts.go.jp. 2018年10月7日閲覧。
  10. ^ 『99.9』、ここが「あり得ない」? 裁判官と検察の「知られざる関係」” (日本語). ビジネスジャーナル/Business Journal | ビジネスの本音に迫る. 2018年11月9日閲覧。
  11. ^ “転勤を断ると出世できない…裁判官の世界はまるでサラリーマンのよう(岩瀬 達哉)” (日本語). 現代ビジネス. https://gendai.ismedia.jp/articles/-/51769?page=3 2018年11月9日閲覧。 

関連項目[編集]