デデキント無限

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数学において、集合Aデデキント無限(Dedekind-infinite、ドイツ人数学者リヒャルト・デデキントにちなんでつけられた)である、またはデデキント無限集合であるとは、A同数(equinumerous)であるようなA真部分集合B が存在することである。それはつまり、AA真部分集合B の間に全単射が存在するということである。集合 Aがデデキント有限であるとは、デデキント無限でないということである。

デデキント無限は、自然数を用いないような最初の無限の定義である。選択公理を除いたツェルメロ・フレンケルの公理系は、任意のデデキント有限集合は有限個の元を持つという意味での有限である、ということを証明するだけの強さを持たない[1]。選択公理を用いないその他の有限集合や無限集合の定義が存在する。

通常の無限集合の定義との比較[編集]

デデキントの意味での“無限集合”は、普通の意味での無限集合と比較されるべきであろう:

集合A が無限であるとは、ある自然数n について{0,1,2,..., n -1}という形の集合である有限順序数A の間に全単射が存在しないことである。

無限とは、全単射が存在しないという意味で文字通り有限でないという集合である。

19世紀後半、多くの数学者はデデキント無限であることと通常の意味の無限は同値であると単純に考えていた。しかし実際は、選択公理(“AC”)を除いたツェルメロ・フレンケルの公理系(通常、“ZF”と表記される)からは、その同値性は証明されえない。弱いACを使うことで証明でき、フルの強さは要求されない。その同値性の証明は、可算選択公理(“CC”)より真に弱い形で証明できる。

ZFにおけるデデキント無限[編集]

次の4条件は、ZF上同値である。特に、これらの同値性の証明にはACを用いないで証明できることに注意せよ。

  • Aデデキント無限である。
  • 全射ではないが単射であるようなA からA への関数が存在する。
  • 自然数の集合N からA への単射が存在する。
  • A は可算無限な部分集合を持つ。

いかなるデデキント無限集合A は以下の条件を満たす。

  • 単射ではないが全射の、A からA への関数が存在する。

これは、“A双対デデキント無限である”と記述される。双対デデキント無限であるならばA がデデキント無限であるということは(ACを除いたZF上で)証明可能でない。

どんな双対デデキント無限集合は次の(同値な)条件を満たす、ということがZF上で証明できる。

  • A から可算無限集合への全射が存在する。
  • A の冪集合がデデキント無限である。

(このような性質を満足させる集合を、弱デデキント無限(weakly Dedekind infinite)と呼ぶことがある。)

弱デデキント無限であるならば無限であることはZFにおいて証明されている。

また、整列無限集合はデデキント無限であることもZFにおいて示されている。

歴史[編集]

デデキント無限という語は、この定義を初めて明確に示したドイツ人のリヒャルト・デデキントにちなんでつけられた。自然数の定義に依存しない最初の“無限”の定義であったことは明記すべきであろう。

選択公理との関係[編集]

整列可能な任意の無限集合はデデキント無限である。ACは任意の集合が整列可能であることを述べた整列可能定理と同値であるから、ACから無限集合はデデキント無限集合であるということが簡単に導かれる。しかしながら、無限とデデキント無限の同値性はACよりもっと弱いものである。すなわちこの同値性を仮定してもACは導かれない。

とくに可算無限な部分集合を持たない無限集合の存在するようなZFのモデルが存在する。このモデルでは無限だがデデキント有限である集合が存在する。以上よりそのような集合はこのモデルにおいて整列不可能である。

可算選択公理CCACω)を仮定すればいかなる無限集合もデデキント無限であることが証明される。しかしながら、この同値性は、実際にはCCより真に弱い。(ZFの無矛盾性の仮定のもとで)CCは成立しないが2つの無限集合の定義の同値性が成り立つZFのモデルが存在する。すなわちこの同値性を仮定してもCCは導かれない。

可算選択公理を仮定した無限との同値性の証明[編集]

デデキント無限集合が無限であることはZFで容易に証明される。実際、任意の有限集合はある有限順序数と等濃であって、有限順序数がデデキント有限であることは帰納法により証明できる。

可算選択公理を用いることによって、その逆が証明できる。つまり、無限集合はデデキント無限であることを以下のように証明できる[2]

まず無限集合 X は可算無限な部分集合を持つことを示す。相異なる X の元からなる長さ n+1 の列の成す集合を X_n とする。 X は有限でないから X_n は空でない。したがって可算選択公理により選択関数 f:\omega \to \bigcup_{n < \omega}X_n が存在する。そこで

f(n) = (x_{n0},x_{n1},\ldots,x_{nn})

と表す。いま Y = \{ x_{ni} \mid i \leq n < \omega \} とおけば、 Y は可算無限集合である。実際 Y の元は x_{00}, x_{10}, x_{11}, \ldots と(重複は飛ばして)枚挙できる。したがって YX の可算無限部分集合である。そこで可算無限部分集合 Y潰すことで全射でない単射 h:X\to X が得られる。したがって X はデデキント無限である。


一般化[編集]


引用文献[編集]

  1. ^ Herrlich, Horst (2006). Axiom of Choice. Lecture Notes in Mathematics 1876. Springer-Verlag. ISBN 978-3540309895. 
  2. ^ 田中尚夫(1987)『選択公理と数学』遊星社

参考文献[編集]

  • 『選択公理と数学』田中尚夫遊星社 1987年 98頁、214頁
  • Faith, Carl Clifton. Mathematical surveys and monographs. Volume 65. American Mathematical Society. 2nd ed. AMS Bookstore, 2004. ISBN 0-8218-3672-2
  • Moore, Gregory H., Zermelo's Axiom of Choice, Springer-Verlag, 1982 (out-of-print), ISBN 0-387-90670-3, in particular pp. 22-30 and tables 1 and 2 on p. 322-323
  • Jech, Thomas J., The Axiom of Choice, Dover Publications, 2008, ISBN 0-486-46624-8
  • Lam, Tsit-Yuen. A first course in noncommutative rings. Volume 131 of Graduate texts in mathematics. 2nd ed. Springer, 2001. ISBN 0-387-95183-0
  • Herrlich, Horst, Axiom of Choice, Springer-Verlag, 2006, Lecture Notes in Mathematics 1876, ISSN print edition 0075–8434, ISSN electronic edition: 1617-9692, in particular Section 4.1.