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ズルフィカール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
シーア派社会などにおける二股剣としての一般的なイメージ
当時のアラブ刀剣の形状に即し直剣だとする説に依拠したイメージ

ズルフィカールアラビア語: ذو الفقار, Dhū al-Fiqār(ズー・アル=フィカール)、実際の発音:dhu-l-fiqār, ズ・ル=フィカール)は、アリー・イブン・アビー・ターリブが使っていたイスラーム圏では伝説の名剣とされている。

アラブ世界では当時のアラブ剣の形状に合わせて直剣だとする説もあるが、イスラーム教圏で一般的なイメージとしては先端が二股に分かれている姿が多い。

イスラーム教圏では剣などに「アリーに勝る英雄なく、ズルフィカールに勝る剣なし」[1]と刻まれていることがある。

英語圏では表記が一定しておらず、Zulfiqar, Dhu al-Fiqar, Thulfeqar, Dhulfiqar, Zoulfikarなどさまざまな表記がある。日本語ではアラビア語表記に寄せたズー・アル・フィカールと記述されている場合もある。

元々二語一組の複合語でアラビア語でも分かち書きした場合とつなげ読みした場合とで異なること、またイスラーム教社会ではアラビア語での名称を取り入れて呼ばれているが各言語で発音の置き換わり(例:ペルシア語ではアラビア語のuがo、qがgに置き換わる)や変化が起こることから、った結果トルコ語圏やペルシャ語圏では言語による訛りが出るため、英語表記やカタカナでの読みガナでに多くの揺れが生じる原因となっている。

非アラビア語圏のイスラーム教国では、固有名詞として地名や人名などに使用されていることもある。

初期の文献における言及

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ズルフィカールはイスラーム史を叙述する初期の文献、たとえばイブン・ヒシャーム(833年歿)の『預言者伝英語版』や、イブン・サアド(845年歿)の Ṭabaqāt の第2巻(預言者伝の巻)に言及がある[2]イブン・マージャ(887年歿)とティルミズィー(892年歿)、それぞれの伝承集に収録されている預言者伝承(ハディース)においても言及がある[3]。これら初期の文献において、ズルフィカールは、"fuqra" の剣」であるとか、"sayf mufaqqar" と表現されている[2]。すなわち、「V字状のくぼみの剣」あるいは「細長い溝の剣」であると形容されている[2]

これら初期の文献群によれば、ズルフィカールはバドルの戦い(624年)において預言者ムハンマドが個人的に手に入れた戦利品である[2][3]。元の所有者はアース・イブン・ムナッビヒアラビア語版という名のクライシュ族の男であり、ムスリムとの戦闘中に命を落とした[2]ウフドの戦い(625年)の際、ムハンマドはズルフィカールを娘婿で自身の従兄弟でもあるアリーに与えた[2][4][5]。以後、ズルフィカールはアリーの所持した剣として知られる[2][4][5]

クライニー(940年頃歿)が収集した、シーア派に伝わる伝承によれば、ズルフィカールは大天使ガブリエルにより過去の預言者にもたらされたイマームの証なのだという[4][6]。伝承では、銀の鞘に納められたズルフィカールはガブリエルにより天からもたらされ、人から人へ、所有者が変わりながら受け継がれ、アース・イブン・ムナッビヒ、預言者ムハンマドを経由してアリーにもたらされた奇蹟の剣であるとされる[6]。クライニーが伝える伝承では、ズルフィカールはいま、アリー・レザーが手にしておりイマームの正統性が彼にあることを示唆する[6]

ズルフィカールが神授の剣であるとする説は10世紀に新しく生まれたものではなく、最初期のアリー支持者たちの説に由来する相当古いものである[4][6]

関連項目

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脚注

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  1. アラビア語で لا فتى إلا علي لا سيف إلا ذو الفقار と書かれ、実際の発音としては文法的解釈の違いから「lā fatā ʾillā ʿAlī, lā sayfa ʾillā dhu-l-fiqār(ラー・ファター・イッラー・*アリー(ィ)、ラー・サイファ・イッラー・ズ・ル=フィカール)」と「lā fatan ʾillā ʿAlī, lā sayfa ʾillā dhu-l-fiqār(ラー・ファタン・イッラー・*アリー(ィ)、ラー・サイファ・イッラー・ズ・ル=フィカール)」とが混在している。【注】*ʿAlī(アリー)は口語的発音で、文語アラビア語としてこのアリーの後に一呼吸置く休止法発音ではʿAliyy(ʿAlīy, アリーィに近い)と読まれる。
  2. 1 2 3 4 5 6 7 Mittwoch, E. (1965). “Dhu'l-Faḳār”. In Lewis, B.; Pellat, Ch. [英語版]; Schacht, J. [英語版] (eds.). The Encyclopaedia of Islam, New Edition, Volume II: C–G. Leiden: E. J. Brill. pp. 233a.
  3. 1 2 Khatīb al-Tabrīzī, Mishkat al-Masabih. Kitāb al-Jihād: 4018.
  4. 1 2 3 4 Calmard, Jean (1996年12月15日). “ḎU’L-FAQĀR.”. Encyclopaedia Iranica. 2026年2月20日閲覧.
  5. 1 2 “Dhū al-faqār”. Encyclopaedia Britannica. 2019年8月. 2026年2月20日閲覧.
  6. 1 2 3 4 Moosa, Matti (1988). Extremist Shiites: The Ghulat Sects. Contemporary issues in the Middle East. Syracuse University Press. pp. 70-72. ISBN 9780815624110