ケルダール法

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1. 分解
2. 蒸留
3. 滴定

ケルダール法(ケルダールほう、Kjeldahl method)は、化学物質に含まれる窒素の量を求める分析方法。ヨハン・ケルダール英語版によって考案された。

まず試料を硫酸と混ぜて加熱し、含まれる窒素を硫酸アンモニウムに変換する。その後、アルカリ性にして加熱し、発生するアンモニアの量を滴定によって定量する。食品鉱物に含まれる窒素の定量、水質調査などに用いられる。

方法[編集]

ケルダール法の具体的な手順は、ISO[1]JIS[2]日本薬局方[3]などで規定されている。

ケルダールフラスコに試料を正確に量り取り、硫酸を加える。液の沸点を上昇させるための硫酸カリウムと、分解を促進する触媒としてセレン硫酸銅酸化水銀[4]のいずれかを加え、よく混ぜる。溶液が沸騰するまでフラスコを加熱し、反応を進行させる。液が透明になったら加熱をやめ、室温になるまで放置。

水酸化ナトリウムと水を加えてアルカリ性とし、蒸留する。蒸留物は濃度既知のホウ酸塩酸硫酸などの水溶液中に導き、含まれるアンモニアを吸収させる。この水溶液にpH指示薬を加えて滴定することで、試料に含まれていた窒素分が算出できる。

河川湖沼水のように試料の窒素含有量が低い場合は、試料をケルダール法で分解後、希硫酸を捕集液として水蒸気蒸留を行い、インドフェノール法で留出液中のアンモニアを定量する [5]が、後述のように、アゾ化合物やニトロ化合物を含む場合はケルダール法を適用できない。

特徴[編集]

ケルダール法は多くの物質に適用できるが、正確に検出できるのはアミノ態窒素またはケルダール窒素と呼ばれる3価の窒素に限られる。アゾ化合物ニトロ化合物に含まれる窒素分は、硫酸と反応してアンモニア以外に窒素分子窒素酸化物として遊離するため、ケルダール法では定量できない[2]。これらの化合物を測定するときは、あらかじめ還元剤によってアミノ態窒素に還元しておくガニング変法と呼ばれる方法を用いる必要がある[6]

ケルダール法は、正確で再現性が高いことから、最も基本的な窒素分析法として国際的に用いられてきた。一方、硫酸や重金属触媒など、危険で環境負荷の高い試薬が必要であり、また分析に時間を要することから、今日ではより簡便なデュマ法が広く利用されている[7]

脚注[編集]

  1. ^ 適用する試料・分野によって幾つかの異なる指針がある。食品に関する ISO 1871:1975、水質に関する ISO 5663:1984 など。[1]
  2. ^ a b JIS K 0400-44-40「水質-ケルダール窒素の定量-セレンを用いる無機質化後の方法」[2]
  3. ^ 第十四改正日本薬局方第一部 36. 窒素定量法(セミミクロケルダール法) [3]
  4. ^ 毒性のため、現在では水銀はほとんど用いられることはない。[4]
  5. ^ JISK-0102 44 有機体窒素[5]
  6. ^ 長山泰秀. “窒素の定量”. 化学実験の技術. 森林環境学における化学実験. 森林環境学講座. 生態環境科学科. 生物資源科学部. 島根大学. 2008年1月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年1月19日閲覧。
  7. ^ 野澤慎太郎、笠間裕貴、鈴木忠直、安井明美「改良デュマ法によるしょうゆの全窒素定量」『分析化学』第56巻第3号、社団法人日本分析化学会、2007年3月5日、179-183頁、doi:10.2116/bunsekikagaku.56.179NAID 110006224698 

参考文献[編集]

  • Kjeldahl, Johan Gustav Christoffer Thorsager、1883年「Neue Methode zur Bestimmung des Stickstoffs in organischen Körper」『Zeitschrift für Analytische Chemie』22巻366 - 382頁。グーグルブックス