キーボードクラッシャー

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キーボードクラッシャー (: Keyboard Crasher) とは、2005年に公開された、ドイツの14歳少年、ノーマン・コハノフスキ(: Norman Kochanowski、1991年5月29日生まれ)がPCゲームアンリアル・トーナメント2004をプレイ中に興奮のあまりキーボードを叩き壊す内容のバイラル・ビデオ、およびその動画に出演する少年のことを指す日本語圏での俗称。 英語圏においては、Angry German Kid(怒るドイツの少年)、Unreal Tournament Kid(アンリアル・トーナメント・キッド)などと称される。

ビジネスワイヤは2006年のインターネット動画トップ10で本動画を2位に選出し[1]、2007年にはガーディアンによるバイラル動画チャートで3位にランクインした[2]

動画公開[編集]

コハノフスキは13歳の誕生日にビデオカメラをプレゼントされて以来、それを使って実験的な短編動画をさまざまな別名で発表してきた。当初、ビデオはフォーラムや動画サイトで公開されたり、CDで交換されたりしていた。当時はYouTubeのような動画共有サイトは一般的では無かった。2005年、架空のキャラクター「リアル・ギャングスター」(独: Echter Gangster)を使ったラップ・ミュージックビデオのパロディを発表。この作品は瞬く間に多くのプラットフォームに広がり、その成功は同じキャラクターを使った続編へとつながった。「リアル・ギャングスター」に加えて、彼はしばしばネット上で 「レオポルド・スリック」(Leopord Slikk)と名乗っている[3][4]

2005年、彼は「Echter Gangster 5: Pc spielen」と題した動画を製作した。この作品では、コンピューターゲーム「アンリアル・トーナメント」のロードが遅いために癇癪を起こすゲーマーを演じている[3][4]。ゲームロード後にゲーム内で負け、最終的に怒りの発作でキーボードを破壊した。この動画は、「ハックパンサー」というハンドルネームでインターネット経由でコハノフスキに連絡を取った別人から依頼されたものである。コハノフスキは動画製作の対価として300ユーロを受け取り、依頼者に直接動画を送った[5]

この動画は依頼者が、コハノフスキの知らないうちにウェブサイト上で公開した。最初の反応の後、コハノフスキは配信を停止するように要求したが失敗した[5]。2005年の初公開後、この動画はすぐにYouTubeを含む他のサイトで共有された。この動画と主人公は、ドイツでは 「Unreal Tournament Kid」 として、英語圏では 「Angry German Kid」 として知られるようになった。 また、スペイン語では「El Niño Loco Alemán」(狂ったドイツ少年)、日本語では「キーボードクラッシャー」として知られるようになった。映像は他者によって編集され、音楽が追加されたり、主人公のセリフに他の言語の言葉が入れられたりした。それはすぐに世界中でインターネット・ミームとして定着し、「The Angry German Kid Show」というファンメイドのウェブシリーズを生み出した。

誤解と私生活への影響[編集]

しかし多くの視聴者は、この動画が演出であることに気づかなかった[3]

2006年11月に起こったエムズデッテン学校銃乱射事件英語版の後、ドイツではコンピューターゲームの危険性について議論が起こり、その中でフォーカスTV英語版配信したキーボードクラッシャーの動画が話題となった。その中でフォーカスTVは、ゲームがいかに若者を攻撃的にするかの例として、本動画を配信した。このビデオはさらに再配信され、主人公であるレオポルドの父親が密かに撮影した本物の録画であり、レオポルドはインターネット中毒のため現在クリニックに入院しているとする解説が添えられた。このテレビ報道は現場メディアから猛批判を浴び、ビデオの主人公が演技していることを指摘された。とはいえ、彼はビデオゲームが若者を暴力的な犯罪者に変えてしまうのではないかという恐怖の象徴となった。数年後、フォーカスTVはこの記事を撤回した[3]

配信が増えるにつれ、コハノフスキはクラスメートからいじめを受けるようになった[3]。 彼は、執拗ないじめから最終的に精神を病み、クラスメートを脅迫し、酔っぱらって学校で殺人の可能性を宣言したと主張している。その結果、彼は退学処分を受け、1ヶ月間刑務所に服役した[4]

その後[編集]

2015年、コハノフスキは再びYouTubeで動画を制作し始めた。それらは彼のフィットネストレーニングに関するもので、以前の動画とは何の関係もない。最終的には認知されたが、以前の動画やキーボードクラッシャーについての問い合わせには当初応じなかった[3] 。2017年末、コハノフスキは新しいペンネームHercules Beatzを名乗り、公の場に再登場した。当時26歳だったコハノフスキは、ボディビルダーの体格を目指してトレーニングしており、12年前のウェブ動画公開にまつわる出来事や、彼をいじめた人々を侮辱するディストラックを公開した[6][7][8] 。2018年からは自身のラップソングも発表している[9]

2017年時点では、この動画は2000年代のウェブ動画の代表例とされ、コンピュータユーザーの心理学の文脈で研究されている[10]

脚注[編集]

  1. ^ “Break.com and "Nobody's Watching" Unveil the Top Internet Videos of the Year at the e-List Party”. (2006年11月30日) 
  2. ^ Kiss, Jemima (2007年6月8日). “Guardian Viral Video Chart”. The Guardian. https://www.theguardian.com/media/pda/2007/jun/08/guardianviralvideochart23 2022年2月7日閲覧。 
  3. ^ a b c d e f Dennis Kogel (2017年11月21日). “Deutschlands Meme-Meister: Die faszinierende Geschichte des Angry German Kid”. vice.com. 2019年10月3日閲覧。
  4. ^ a b c MatthiasSchwarzer (2019年9月14日). “"Angry German Kid":”. Redaktionsnetzwerk Deutschland. 2019年10月3日閲覧。
  5. ^ a b NDR (1 February 2023). "Ausgerastet und abgestürzt: Der Fall des Angry German Kid" (ドイツ語). 2023年2月8日閲覧
  6. ^ David Molke (2017-11-07). “Unreal Tournament Kid - 12 Jahre später: Vom Meme zum rappenden Bodybuilder-DJ”. GamePro. https://www.gamepro.de/artikel/unreal-tournament-kid-das-internetphaenomen-ist-zurueck-und-zwar-as-110-kilo-heavy-bodybuilder,3321925.html 2019年10月3日閲覧。. 
  7. ^ Anna Bühler (2017-11-11). Das Unreal Tournament Kid ist zurück und will nicht weiter undercover bleiben. https://www.br.de/puls/themen/netz/meme-unreal-tournament-kid-angry-german-comeback-100.html 2019年10月3日閲覧。. 
  8. ^ Björn Rohwer (2017年11月8日). “Kaum wiederzuerkennen: Das Unreal-Tournament-Kid ist jetzt Rapper, Produzent & Hayvan”. hiphop.de. 2019年10月3日閲覧。
  9. ^ Lisa Fleischer (2018年3月28日). “Nach 12 Jahren: Das Unreal Tournament Kid beantwortet Fragen zu seinen alten Videos”. www.giga.de. 2019年10月3日閲覧。
  10. ^ Ehrenbrink, Patrick; Prezenski, Sabine (September 2017). Causes of Psychological Reactance in Human-Computer Interaction: A Literature Review and Survey. ECCE 2017: Proceedings of the European Conference on Cognitive Ergonomics 2017. doi:10.1145/3121283.3121304

外部リンク[編集]