錠前

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南京錠
木箱につけられた単純な施錠機構。1628年に沈没したスウェーデンの船ヴァーサで発見された。
中世期の錠前。カトマンズ
フェンスにかけられた大量の南京錠。ドイツ ケルンホーエンツォレルン橋にて

錠前またはは、扉などにとりつけて締める機械的または電子的道具。物体(カードキー指紋RFIDカード、セキュリティトークンなど)または秘密情報(キーコード、パスワードなど)またはそれらの組み合わせによって開く。

典型的なピンタンブラー錠ウェハータンブラー錠では、安静位で錠前が締まる。(の錠前に差し込む部分)にはどちらかの側(あるいは両側)に一連の溝があり、差し込める錠前が限られている。鍵を錠前に差し込むと鍵穴の突起と鍵の溝が揃い、シリンダーに鍵を完全に挿入することができる(合わなければ入らない)。次に鍵の一連の歯や切欠き(bitting)が錠前内部のピンウェハーを上下に動かし、内側のシリンダーと外側のシリンダーの境界(shear line)に対してそれらが揃うことでシリンダーまたはカムを回せるようになり、開錠される。

歴史

財産を守ることは昔から世界中の人々の関心事だった。物を隠したり常に監視したりする以上に最もよくなされた対策は、道具を使ってそれらを守ることだった。例えば紐で縛る場合、泥棒結びのように解いて結び直したことを検知したり、ゴルディアスの結び目のように解くのが難しい結び方をした。最初の錠前がどこで発明されたかは定かではないが、エジプト、ギリシア、ローマなどでそれぞれ独自に発達したと見られている。木製の錠前と鍵は4000年前のアッシリアで使われていた[1]。鍵のある最初の錠前としてピン錠(ピンロック)がある。扉の穴からぶら下がったロープに錠前が通されている。穴の開いた木製の円筒状のものが鍵となる。その際円筒の長さが重要な意味を持ち、鍵を挿し込んだときに中のボルトが正しい長さだけ押される。施錠する際はロープを引っ張って円筒の鍵を引き抜き、同時にボルトを引いて締める。このような錠前を今も使っている地域もある(例えば、プエルトリコ)。この錠前の欠点は破壊者がロープを穴に押込むことができる点で、古代には錠前を破るために膠を鍵穴に入れた。

1900年代、エジプトで木製のピン錠と木製の鍵が発見された。紀元前250年ごろに使われていたものと見られている[2]

ピン錠への初期の改良はピンの数を増やすことだった。さらに、ピンの方向を変えてロープを使わなくとも鍵だけで開錠する力をかけられるようにした。それによって現代のピンタンブラー錠の原理が確立された。

その後、今も見かけるウォード錠が開発された。ウォード錠の鍵のデザインが現代の鍵の元になっている。高いセキュリティが要求される場合は、錠前がある場所を隠したり、偽の錠前を設置して盗賊に時間を浪費させるなどの対策を施した。

著名な錠前師

中国雲南省の20世紀初期の錠前と鍵
  • ロバート・バロン - 1778年、ダブルアクション式タンブラー錠の特許を取得。近代的な錠前の改良がここから始まった。
  • ジョゼフ・ブラマ - 1784年、safety lock の特許を取得。しばらく破れない錠前とされていたが、67年後に A.C. Hobbs が50時間以上かけて破った。
  • ジェレミア・チャブ - 1818年、改良版レバータンブラー錠 (en) の特許を取得。対応する鍵でしか開けられない錠前を発明したということで、政府から賞金を授与された。
  • ライナス・エール・シニア - 1848年、ピンタンブラー錠を発明。
  • ジェームズ・サージェント - 1857年、番号を変更可能なダイヤル錠について初めて記述した。金庫でよく使われるようになり、アメリカ合衆国財務省もこれを採用した。1873年、時限錠の特許を取得。試作品が当時の銀行の金庫室で使われた。
  • ライナス・エール・ジュニア - 1861年、父の錠前を改良。ピンタンブラー錠を現在見られるような形にした。また1862年にはダイヤル錠を改良している。
  • サミュエル・シーゲル - 1916年、バールでこじ開けられない錠前を発明。
  • ハリー・ゾレフ - 1921年、Master Lock 社を創業。1924年、改良版南京錠の特許を取得。ゾレフは日本が好きで、錠前を "joumae" と呼んでいた。

錠前の種類

南京錠
ダイヤル錠

錠前には完全に機械式のものと電気を使ったものがある。施錠と開錠の操作にを使うもの、ダイヤルを回すなど機械的に入力するもの、電気を利用して暗証番号などを入力するもの、磁気やなんらかのカードを使うものなどがある。また不正侵入を防ぐ目的ではなく、誤操作を防ぐ安全装置も英語では "safety lock"(安全錠)と呼ぶ。

タンブラー錠

ピンタンブラー錠

ピンタンブラー錠は西洋では最も広く使われている錠前である[3]。紀元前2000年ごろから使われている。エジプトで使われたピンタンブラー錠は大きくて重く、木製でピンだけが青銅などの金属でできていた。1805年、イングランドで現代的ピンタンブラー錠の特許が取得されている。特許権保持者はアメリカ人のA・O・スタンベリーだった。18世紀中ごろ、アメリカの錠前師ライナス・エール・シニアと息子ライナス・エール・ジュニアが改良を施して現在見られるような形にした。そういった初期のピンタンブラー錠は製造コストが高く、大量生産が可能になるまで広く普及することはなかった。

ウェハータンブラー錠

ウェハータンブラー錠のアメリカ合衆国での最初の特許は、1868年にP・S・フェルターが取得した[4]。比較的安価に製造可能で、自動車や家具の錠前としてよく使われた。一般に亜鉛合金のダイカストで作られた。

レバータンブラー錠

レバータンブラー錠は17世紀にヨーロッパで発明された[5]。強い素材で製作可能であるため、金庫や北米の刑務所などでよく見られる。国によってはの錠前としてもよく使われている。19世紀にそれまでのウォード錠に取って代わった。イングランドのロバート・バロンが1778年にダブルアクション式のレバータンブラー錠の特許を取得した。1818年、ジェレミア・チャブがこれを発展させた錠前 (en) を考案している。

その他

他にもウォード錠、チューブラー錠、電子錠など様々な錠前がある。バリエーションも色々ある。例えばディンプル錠はエールのピンタンブラー錠から派生したもので、ピンが鍵の縁ではなく広い面のディンプル(くぼみ)と接触する。

主な錠前

扉の種類に対応した錠前の配置

脚注・出典

  1. ^ Schlage's History of Locks!
  2. ^ "Old Locks Show Skill Of Craftsmen" Popular Science, September 1937
  3. ^ Pulford 2007, p. 33
  4. ^ Pulford 2007, p. 173
  5. ^ Pulford 2007, p. 317

参考文献

  • Phillips, Bill. (2005). The Complete Book of Locks and Locksmithing. McGraw-Hill. ISBN 0-07-144829-2.
  • Pulford, Graham W. (2007), High-Security Mechanical Locks : An Encyclopedic Reference, Elsevier, ISBN 0-7506-8437-2 
  • Alth, Max (1972). All About Locks and Locksmithing. Penguin. ISBN 0-8015-0151-2
  • Robinson, Robert L. (1973). Complete Course in Professional Locksmithing Nelson-Hall. ISBN 0-911012-15-X

関連項目

外部リンク