潤滑

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潤滑(じゅんかつ)とは、互いにすべり運動している物体間に、オイルや固体潤滑剤などを供給して、摩擦力摩耗を低減させる方法をいう。

摩擦と潤滑

物体が互いに接触して、相互運動している状態を摩擦と呼ぶ。回転や運動する機械類は、たくさんの部位で摩擦が起こっており、摩擦による悪影響を低減するために適切な潤滑が必要である。 摩擦面の潤滑状況は下記のように分類される。

  • 乾燥摩擦:潤滑剤がなく二つの固体表面が直接接触して運動している状態。金属機器でこの状態になると金属同士のミクロな凝着が生起し、激しい磨耗やトラブルの原因となる。
  • 境界摩擦:物体の表面に吸着した潤滑成分分子により表面が一応保護されている状態。機械の起動・停止時にはこの状態になる。
  • 流体摩擦:潤滑剤(液体)により相対運動する物体が完全に隔てられる状態。この状態での摩擦抵抗は液体の粘性抵抗に一致する。
  • 流体摩擦と境界摩擦の中間段階である混合潤滑

技術論的には、これらの状態を説明するものとしてストライベック曲線という縦軸に摩擦係数、横軸にゾンマーフェルト数という「粘度×速度÷荷重」の次元を持つパラメータを用いた図が知られている。

それぞれの摩擦係数は、境界摩擦において>0.1程度、混合摩擦において0.1~0.01、流体摩擦において<0.01程度となることが知られている。ストライベック曲線の横軸の大きいほうでは、流体潤滑状態での摩擦係数が次第に大きくなっていくが、これは流体のせん断抵抗が大きくなるためである。

潤滑剤の機能

適切な潤滑を施すことによって、摩擦部分の寿命延長、エネルギーロスの削減が可能となる。潤滑剤の機能として下記の項目が挙げられる。

  • 減摩作用:乾燥摩擦によるトラブルを防ぎ、流体摩擦状態を保って摩擦を低減させる作用。摩擦面での潤滑剤の膜の安定性は高粘度のものほど良好であるが、あまり高すぎると潤滑剤自身が摩擦熱で温度が上がってしまう。
  • 冷却作用:高荷重・高速で回る歯車等では、摩擦熱による昇温が避けられない。その場合大量の潤滑油を循環させて局部的な温度上昇を抑える機能を持たせている。放熱性は潤滑油の粘度が低い方が良好で、固体状のグリースには冷却作用を期待できない。
  • 応力分散作用:歯車やベアリングの回転で潤滑剤が無いと、金属同士の接触面は点または線であり、接触面に大きな応力集中が起こる。金属の間に粘度の高い油膜があれば これがクッションの役割をして応力集中を緩和する。
  • 密封作用:自動車のエンジンを考えると、金属部品であるシリンダーピストンリングは直に接触していないが、潤滑剤であるエンジンオイルがエンジンの密閉性を受け持っている。

その他防錆作用(錆の予防)、防塵作用(グリースを使う場合)も期待される。

潤滑剤の種類と性質

潤滑剤としては、液体の潤滑油、潤滑油を固化させたグリース、固体潤滑剤などがある。

潤滑油

一般に良く使われる潤滑油は石油精製物である。目的に応じて粘度・精製度・添加物等の異なるグレードが市販されている。潤滑油の粘度はVG値で表されるが、これは40℃における動粘度(cSt)センチストークス値に相当する。低速のウォームギヤ用のVG460はねっとりとした油であり、油圧用に使われるVG46の粘度は大豆油に近い。潤滑油として最も低粘度のVG2は低荷重・高速用に使われ、サラサラの油である。

また潤滑油の粘度は温度に依存し、温度が高くなると粘度が低下する。潤滑油としては温度による粘度変化が少ない方が望ましい。温度による粘度変化の大きさを粘度指数と呼び、この数値の高い方が粘度変化の少ない良い油である。一般の潤滑油は粘度指数80以上であるが、一般油圧作動油は粘度指数106~113、航空機用の作動油は120~140のものもある。

添加剤としては、エンジンオイルに使われる極圧添加剤は亜鉛モリブデンなどの金属系化合物を主体とした添加物であるが、シリンダーやピストンリングの表面に吸着して潤滑膜を形成し、境界摩擦状態でも母材を保護する。上記の粘度指数を改善する目的で粘度指数向上剤が使われる。

グリース

グリースは増ちょう剤に潤滑油を保持させることで揺変性チキソトロピー)を与えた、粘着性の潤滑剤。揺変性物質は静置状態では流動せず、外から力を加えられることで流動性を示すが、流動に要する力の大きさをちょう度と呼び、ちょう度が大きいほど硬いグリースである。グリースは温度が高くなると増ちょう剤の3次元網目構造の崩壊などにより、静置状態においても非流動性を保てなくなるが、その温度を滴点と呼んでいる。

固体潤滑剤

固体潤滑剤には黒鉛(グラファイト)、二硫化モリブデンポリテトラフルオロエチレン(PTFE:テフロン)等が使われている。何れも表面の硬さが低い、融点が高く焼きつきにくい、化学的安定性が良いなどの性質を有している。

EHL(弾性流体潤滑)

潤滑状態の種類として新しく知られるようになったものに、EHL(Elastohydrodynamic lubrication:弾性流体潤滑)がある。これは玉軸受の潤滑状態が旧来の潤滑理論では説明がつかない事から見出された理論である。分かりやすく言うなら、下記のジャーナル軸受けの説明に出てくる油膜圧力が大きくなると、硬い軸受け鋼の表面も弾性変形して窪みをつくって油膜を保持しやすくなり、油膜面積が広がって面圧を下げることにより良好な潤滑状態を保つというものである。この効果を生み出す運動としては、相対運動をする面が傾いていることによる「くさび膜効果」、面同士が急激に近づくことによる「絞り膜効果」が知られている。もちろん、これらの組み合わせもありえる。柔らかい軟骨を介して運動する生体関節における潤滑や、雨の日に長靴がマンホールの上では滑りやすい、などがその具体例と言える。

なおジャーナル軸受けの潤滑では、の回転によりオイルが軸受隙間に引き込まれることによって、圧力が発生し(油膜圧力)、軸と軸受との接触を防止し(流体潤滑状態)、軸・軸受の磨耗を大幅に減少させることができる。


関連項目

外部リンク