捕鯨砲

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捕鯨砲。在来型の尖頭銛のもの。
捕鯨3円切手(1949年発行)

捕鯨砲(ほげいほう)は、火薬の爆発力によってを発射し、クジラを捕獲する道具。火薬を用いて銛を発射する方式は小型のクジラを対象とする沿岸捕鯨でも小規模のものが用いられているが、一般に捕鯨砲と言う場合は、大型のクジラを捕獲する沿岸捕鯨及び遠洋捕鯨で使用される大口径のものを指す。

歴史

捕鯨は古代から行なわれていた事が知られているが、いずれも手投げの銛を使用した。アメリカでは18世紀から母船式捕鯨によってマッコウクジラを捕獲していたが、やはり手銛もしくはせいぜい鉄砲仕掛けの銛(ボムランス)を使う程度であった。しかし、ナガスクジラ属の鯨は、死ぬと海中に沈んでしまうため、このような方法では鯨体を収容することが不可能であり、これらのクジラは捕鯨の対象とされなかった。

1860年代に、ノルウェー人のスヴェン・フォイン(Svend Foyn)が火薬により銛を射出する道具、即ち捕鯨砲を発明し、船足の速い汽船に装備して捕鯨を行なう方式を考案した。砲から射出される銛は丈夫なロープで船と結ばれているので、捕獲した鯨体を紛失する恐れもない。この捕鯨砲と蒸気動力付きの捕鯨船(キャッチャーボート)の発明は、近代的な商業捕鯨の時代への第一歩となっただけでなく、ナガスクジラ属の鯨の捕獲も可能となり、それらのクジラの生息する南氷洋など遠洋での母船式捕鯨の発達を促した。

用法

捕鯨砲で発射された銛の命中。ロープが伸びているのが分かる。

捕鯨砲はキャッチャーボートの舳先に装備されている。発射された銛がクジラに命中すると、弾頭に仕込まれた火薬が爆発してクジラに致命傷を与えると同時に、鉤が開いて、捕鯨船がロープで鯨体を引っ張ったり、クジラが死なずに暴れた場合でも銛が抜けないようになる。クジラが死なない時は直ちに2番銛が装てんされ発射されたが、稀には2番銛が命中してもなお死なず、3番銛・4番銛を撃つ事もあった。そのような場合は銛の火薬の爆発により鯨肉の廃棄部分が多くなる上、捕鯨砲の砲手にとっても不手際であり不名誉であった。

現在では、クジラに不要な苦痛を与えず即死させるよう、命中と共に高圧電流を流すようになっている。これは電気銛と呼び、1950年に試行されたが、肉の鮮度が落ちる事がわかり、すぐに使用されなくなった。その後、動物福祉的見地として復活したものである。

平頭銛

75mm捕鯨砲(平頭銛)。船の科学館にて2009年3月20日撮影

‎従来の捕鯨砲は、銛の先端が鋭利であるほどよく命中するという考えで、尖頭銛(せんとうもり)が用いられていたが、鋭く尖った銛を高速で発射すると、水面や鯨体に対する入射角が小さい場合にはしばしば水面や鯨体上で跳ね上がり、うまく命中しない事が珍しくなかった。水面に浅い角度で石を投げると水面上を飛び跳ねて行くのと同じで、摩擦が小さいため運動エネルギーが逃げてしまう結果である。

1951年、東京大学の平田森三が、尖頭銛の先端を切り落として直径10センチ程の平面とした銛を考案し、実際に使用したところ、摩擦が大きくなって跳ね上がりがなくなり、命中率が非常に向上する事がわかった。これが平頭銛(へいとうもり)で、銛は鋭いほど良い、とするそれまでの常識を覆すものであった。実際、当初は砲手や関係者の反発があったが、性能の良さが証明されるとすぐに普及し、外国の捕鯨砲にも採用された。クジラは銛に対して十分大きく、また銛は水や鯨体の抵抗に対して十分に高速で撃ち出されるので、10センチ程度の平面は鯨体への貫入性能においてほとんど問題にならない。