戦術高エネルギーレーザー

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THEL実証機(THEL/ACTD)

戦術高エネルギーレーザー (THEL: Tactical High-Energy Laser) は、アメリカイスラエルが共同開発している、対空レーザー兵器。移動可能なバージョンはMTHEL (Mobile Tactical High-Energy Laser) と呼ばれる。

概要

THELの本格的な開発は、1996年7月18日のアメリカとイスラエルの協定により開始された。THELは高エネルギーレーザーを利用した光学兵器システムで、レーザー生成技術とレーザー制御技術とを組み合わせ現存のセンサーや通信技術から新しい対空防衛能力を持たせようとしていた。THELの目標は、短距離から中距離にかけての接近戦での問題に、他のシステムや技術とは異なる解決法を提供し、それにより戦闘部隊の能力を高めることである。また、THELは1迎撃辺りのコストが低く(約3000$)、空からの脅威に対して、費用対効果に優れた低コストな防御策となる可能性がある。60回の射撃で再装填し、5kmの範囲では100%に近い迎撃率となることを目標としている。

THELは1998年に発射試験を行い、初期作戦能力 (IOC) の獲得は1999年と計画されていた。しかし、移動型のMTHELのため再設計を行い、かなりの遅れが発生した。最初の固定式のデザインにはかなりの重量、サイズ、電力の制限があり、現代の流動的な戦闘には適していなかった。MTHELの目標は大きなセミトレーラー3台分のサイズで移動できることである。最近になり、イスラエル政府が予算を減少させたため、IOCは少なくとも2010年まで延期されている。

ノースロップ・グラマンが主契約社として開発している。使用されるレーザーはフッ化重水素レーザーによる波長3.8μmの中赤外線化学レーザーであるため大気圏内での減衰が少ない。

2000年から2001年にかけて、THELは28発のカチューシャロケット弾と、5発の砲弾を撃墜している。また、MTHELもテストを成功裏に完了した[1]2004年8月24日に行われたテストでは複数の迫撃砲弾の撃墜にも成功している。このテストでは実際の迫撃砲による攻撃を想定し、単体の迫撃砲による射撃と、一斉射撃の両方が試験された。目標はTHELの実験機により迎撃、破壊された。

同種の兵器

2010年7月19日、イギリスで開催されたファンボロー国際航空ショーでは、軍艦に設置された米レイセオン社レーザー兵器が、レーダーシステムによる誘導の下、約3.2キロ先を時速480キロで飛行する無人飛行機4機を32キロワットという高エネルギーレーザー兵器により破壊するというデモンストレーションを行った。無人飛行機は数秒で焼き払われたという。レイセオン社のレーザー兵器はレーザー設備6基を使用、軍艦に設置し、強力な高エネルギーレーザービームを合成させる事で威力を高めているという。米軍艦の「ファランクス」艦艇用近接防御火器システムと連携し、そのレーダーシステムを使い照準を定める。無人飛行機以外に、小型艦船・迫撃砲弾・ロケット弾などへの攻撃・迎撃にも使用可能であり、2016年に実戦配備される見通しである。[2]

これまでは、大気中の減衰のためレーザー光線によるエネルギーの遠距離伝達は極めて困難であり、まだまだ兵器としての実用化には程遠いものと考えられてきた。しかし最新の技術情報によれば、ポーランドで遠距離到達も可能な極めて高出力のレーザー衝撃波を生成することを可能にする技術的なブレークスルーがあったとの報道が2014年に行われた[3]

脚注

  1. ^ <世界の新兵器> 戦術高エネルギー・レーザー兵器(米・イスラエル) レーザーで目標を破壊」、朝雲新聞、2004年7月22日。
  2. ^ 米軍がレーザー兵器で航空機撃墜、「スターウォーズ」が現実に人民網日本語版 2010年7月22日
  3. ^ “世界の軍事バランスを劇的に変える新技術 核兵器を無力化できる可能性、中国の侵略を低コストで防衛”. JBPRESS. (2014年11月10日). http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42138 2014年11月16日閲覧。 

関連項目

外部リンク