卵菌

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卵菌
分類
界:原生生物界 Protista
門:不等毛植物門 Heterokontophyta
綱:卵菌綱 Oomycetes
目・科
  • ミゾキチオプシス目 Myzocytiopsidales
    • エクトロゲラ科 Ectrogellaceae
    • ミゾキチオプシス科 Myzocytiopsidaceae
    • シロルピジウム科 sirolpidiaceae
  • フクロカビモドキ目 Olpidiopsidales
    • フクロカビモドキ科 Olpidiopsidaceae
  • ミズカビ目 Saprolegnales
    • ミズカビ科 Saprolegniaceae
  • フシミズカビ目 Leptomitales
    • アポダクリエラ科 Apodachlyllaceae
    • レプトレグニエラ科 Leptolegniellaceae
    • フシミズカビ科 Leptomitaceae
  • ツユカビ目 Peronosporales
    • シロサビキン科 albuginaceae
    • ツユカビ科 Peronosporaceae
  • フハイカビ目 Pythiales
    • フハイカビ科 Pythiaceae
  • オオギミズカビ目 Rhipidiales
    • オオギミズカビ科 Rhipidiaceae

卵菌(らんきん)は、原生生物界の不等毛植物門卵菌綱、あるいは原生生物界から分置されるクロミスタ界の卵菌門に分類される生物。同じクロミスタ界に分類されるサカゲツボカビ類とともに菌類様の外見を持つものが多い。

多様性

ミズカビ

最も簡単に観察できる卵菌は、ミズカビ類である。 もしも金魚を飼っていれば、水底に沈んだ餌の残りや、産まれた無精卵発生異常などで死んだときなどに、その表面に綿毛のようなものが密生するのを見る機会があるであろう。実験的には淡水中にスルメのかけらやの種子をゆでたものを入れることで、たやすく観察できる。 ただし、死んだものに着くものでも、時には弱ったなど生きている生物を攻撃して寄生する場合があり、養殖などに被害を与えることもある。

ミズカビ類の遊走子嚢形成に際して基質から水中に立ち上がる菌糸は基部の直径がしばしば100μm以上と非常に太く、肉眼でその本数が数えられるほどで、長さも1cm程度には軽く達する。菌糸先端が区切られて遊走子嚢となり、先端に開いた穴から遊走子が泳ぎだす。遊走子嚢内の遊走子の輪郭がはっきりしてから泳ぎ出すのに数十分程度なので、顕微鏡下で泳ぎ出すのを観察するのは簡単である。

麻の実から育ったミズカビ類のコロニー
ほとんどはAchlya sp.

ミズカビ的なもの

ミズカビ科の他に、フハイカビ科のフハイカビPythium)の淡水中で腐生生活をする種が同じような条件でよく出現する。フシミズカビ科のフシミズカビ(Leptomitus)やオオギミズカビ科のオオギミズカビ(Rhipidium)も同様に淡水中で腐生生活をするものである。

植物寄生菌

ツユカビ目の多くは陸上植物の地上部に寄生する絶対寄生菌で、植物にベと病を引き起こすツユカビ科と白さび病を引き起こすシロサビキン科が知られる。ツユカビ類は、接合菌門ケカビ類に見られるような、宿主から立ち上がった胞子嚢柄の先端に胞子嚢を形成する。この胞子嚢自体がカビの胞子のように飛散して宿主に到達する。この胞子嚢はミズカビの遊走子嚢と相同であり、宿主に到達し、そこに水があると遊走子を放出する。ツユカビ目には二次型遊走子しか見られない。遊走子を放出せず、直接葉状体が発芽するものもあり、いずれにせよ宿主の組織内に侵入し、宿主の細胞内に吸器が差し込まれ、寄生が成立する。

ツユカビ類以外にも陸上植物に寄生する卵菌が知られており、ミズカビ科でもAphanomycesには水生種だけではなく陸上植物寄生種が記録されている。フハイカビ科にも水生種に加えて陸上植物寄生種が数多く知られ、19世紀ジャガイモに壊滅的な被害を与えてアイルランドに大飢饉ジャガイモ飢饉)をもたらした疫病の病原体も卵菌のフハイカビ科に属するエキビョウキン (Phytophthora) である。フハイカビ科では他にフハイカビPythium)とSclerophthoraに陸上植物に寄生する種がある。

菌寄生菌

フクロカビモドキ科のフクロカビモドキ(Olpidiopsis)はミズカビ類など同じ卵菌類の寄生者で、袋状の単細胞葉状体がミズカビなどの葉状体の原形質内部に浸って寄生生活を送る。和名学名共に菌界のツボカビ類に属するフクロカビ(Olpidium)に、全実性の菌体がよく似た姿をとることによる。

構造と生活環

栄養体は隔壁のない単あるいは多核体葉状体で、多くの場合菌類菌糸体によく似た形態に収斂進化を起こしている。特に隔壁を欠いている点は菌類の中でもツボカビ類や接合菌と類似している。他の卵菌に寄生するフクロカビモドキなどの葉状体は単純な袋状で菌糸状の形はとらない。葉状体は動植物遺体上で有機物を分解したり、他の生物寄生して生活する。細胞壁の主成分はセルロースで、菌類(キチン)と異なる。

遊走細胞は同じクロミスタ界の褐藻などと同様で、マスチゴネマを持つ羽型鞭毛と鞭型鞭毛をセットで持つ。葉状体は複相(2n)で、無性生殖に際しては菌糸様の葉状体の先端に胞子嚢を形成し、この内部の原形質が分割されて多数の遊走子を生じ、これが泳ぎ出て宿主に到達する。葉状体に形成された一次型遊走子はクロミスタ界の中でも真眼点藻類の遊走細胞と同様に2本の鞭毛を細胞の前端に持つが、一次型遊走子がシスト化してから脱皮して生じる二次型遊走子は褐藻などと同様にソラマメ型の細胞の側面から前方に羽型鞭毛が、後方に鞭型鞭毛が伸びる。

有性生殖は、配偶子が独立せず、配偶子嚢の状態で接合する配偶子嚢接合という形を取る。まず葉状体に多核の造精器生卵器が互いに接して形成され、それぞれの内部で減数分裂が行われる。造精器から生卵器に受精管が伸び、単相(n)の配偶子核が移送されると生卵器内に受精によって生じた厚壁の卵胞子が1~40個形成される。この卵胞子を形成する有性生殖により卵菌と呼ばれる。卵胞子が休眠後発芽すると遊走子嚢が突出し、そこから多数の遊走子が放出される。

ワタカビ属の1種(Achlya sp.)の卵胞子

かつてはツボカビ類などとともに鞭毛菌類あるいは藻菌類と呼ばれたが、細胞壁や鞭毛の構造が明らかに異なることから、現在では菌類ではないと考えられている。しかし現在でも植物病理学など応用分野で便宜的に藻菌や鞭毛菌と呼ばれることがある。

二毛菌

卵菌とサカゲカビはいずれも菌類的生物でありながら、菌類とは系統を異にする。この二者は、系統的には近いものとの判断から、これを一つにまとめる考えもある。この場合、二つをまとめる名称として、二毛菌という名称を使う。

系統

かつてはこの類や接合菌類をまとめて藻菌類と呼ばれたことがある。これは、菌類が退化した藻類であるとする、菌類の藻類起源説に立ち、藻類に近いものとしてこれらの類が考えられたことに由来する。特に、卵菌類と黄緑藻類フシナシミドロの類似が指摘されたこともある。その後、菌類が独立の界と見なされるようになり、藻類起源説は力を失った。

先にも述べたように、この類はかつては菌類と見なされていたが、現在は別系統と考えられている。鞭毛の構造等から、褐藻や珪藻などの不等毛藻類などと共通の系統に属するものと見なされ、ストラメノパイル、あるいはクロミスタ界などの群に属させる。この群にはいくつかの藻類の他に、菌類と見なされたこともあるサカゲカビ類やラビリンチュラ類も含まれている。しかし、それらと卵菌類の系統関係については明らかではない。特にサカゲカビ類はよく似た部分が多いが、近縁であるとの判断は必ずしも出されていない。いずれにせよ、藻類に近縁であるからといって、これらの菌類的生物が藻類に由来したものとは考えられていない。