フリクションドライブ

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フリクションドライブ方式を採用するオートサンダルFSの変速機。写真中央部に見える、直角に接触している2枚の円盤が回転する。手前の円盤は左右に位置を変更することができ、それによって変速する。

フリクションドライブ英語:friction drive)とは、駆動装置の接触による摩擦力を利用して動力を伝達する方式のことである。

具体的には、例えば、回転する円盤同士を接触させてその摩擦により動力を伝達するもので、ギアチェーンなどに比べて構造が単純で、かつ滑らかで無段階な動力の伝達が可能である特徴を有するが、伝達時にすべりが発生するため、原理的に大きな力の伝達には効率が悪く、不向きである。しかし、歯車伝達特有のコギングがなく、安定しているため、望遠鏡等の精密機械には使用される。線路と車輪間の摩擦を利用して走行する鉄道車両タイヤと路面間の摩擦を利用して走行する自動車も一種のフリクションドライブであるといえる。

伝達容量が少ないため、現在は自動車などの輸送機での動力伝達としての目的での使用はまれであるが、日産自動車が開発したエクストロイドCVTのようなトロイダルCVTは摩擦を利用して動力を伝達しているため、フリクションドライブの範疇に含まれると言える。

他に鉄等の磁性体上を磁化された車輪で駆動する方法もある。


詳細説明

圧延機の事例を持ち出すまでもなく、力の伝達に使用される剛体同士が接触して力を伝達する場合にはどちらもわずかに歪んで接触している。例えば新幹線に用いられている新品の車輪を新品の60 kgレールに載せると、1輪あたりの重量8 tの条件で、14 mm×12 mm程度の進行方向前後方向に長い楕円形状の領域で接触する[1]。この楕円形状の領域に発生する力によって列車が支えられ、走行している。

駆動または制動に際しては、車輪とレールの間で前後水平方向に力が働く。レールに対して車輪が滑らずに力を伝達できている時は、摩擦の現象でいう静摩擦力にあたり、滑っている時には動摩擦力にあたる。鉄道では車輪を滑らせずに走行することが基本であるため、静摩擦力の範囲で用いるように考慮されている。車輪とレールの間に働く摩擦力のことを鉄道では粘着力、あるいは接線力クリープ力などと呼ぶ[2][3]。静摩擦力の最大値である最大静摩擦力は、垂直抗力に静摩擦係数を掛けた値として求めることができ、これを超えた力が働くと物体は滑り始める。鉄道の場合垂直抗力は車輪に掛かっている車体の重量であり、輪重と呼ぶ。粘着力を輪重で割った値を接線力係数と呼び、このうち最大のものを粘着係数と称する[2]。粘着係数が静摩擦係数に相当することになる。この時の粘着力を特に粘着限界と呼んでいる[1]

車輪とレールは、一見お互いに全く滑っていないように思われても、正確に測定するとわずかに滑っていることが分かる。車輪の回転数を測定してこれに車輪の円周長を掛けると、その間の移動距離に正確に一致するはずであるが、実際には一致しない。この微小な滑りのことをクリープ (creep) と呼ぶ[3]。この言葉は一定の負荷が掛かった時の材料の挙動であるクリープとは異なり、また鉄道においてもレールが地面に対してずれる現象をクリープと呼んでいるがこれとも異なる現象である。このクリープ現象に対してすべり率あるいはクリープ率が定義される。すべり率は、円周速度と車両速度の差を車両速度で割った値として定義される[4]。円周速度は車輪の回転速度という意味である。円周速度と車両速度が完全に等しい時が滑りが全く無い時であり、この時すべり率は0になる。

粘着力とすべり率の関係

車輪とレールが接触する楕円形状の領域のうち、弾性変形した状態の領域である固着領域(粘着領域)が進行方向の前側にあり、進行方向後ろ側には車輪とレールが接触していながら相対的に滑った状態にある滑り領域がある。すべり率が増加していくと、固着領域が相対的に減少していき、また接線力係数が増加して得られる粘着力が増加していく。最大の粘着力が得られるのは、完全に滑っていない時ではなく、わずかながら滑っている時であることになる。しかしすべり率がある限界を超えると接線力係数は減少に転じる。この時固着領域は完全に失われて全体がすべり領域となっている。粘着力が最大になる点が粘着限界であり、これよりすべり率が小さい領域を微小すべり領域、大きい領域を巨視すべり領域という[5]

微小すべり領域にあるうちは、粘着力はほぼ静摩擦力として取り扱うことができる。巨視すべり領域に入ると粘着力は動摩擦力とみなされることになる。一度巨視すべり領域に入ってしまうと、すべり率が上がるにつれて粘着が低下してさらに滑るようになる悪循環になってしまうため、空転や滑走を引き起こすことになる。この場合一旦駆動力や制動力を緩めるなどの手段をとらない限り微小すべり領域に戻すことはできない。巨視すべり領域に入ったものを微小すべり領域に戻すための制御が空転滑走再粘着制御である[5]

関連項目

出典

外部リンク