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ダウンズ法

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ダウンズ法とは、溶融させた塩化ナトリウムを「Downs cell」と呼ばれる特殊な装置において電気分解することで金属ナトリウムを商業生産する、電気化学的な手法である[1]

方法

ダウンズ法の概略図

ダウンズ法では、アノードには炭素電極が、カソードには鉄電極が、電解質には加熱されて溶融した液体の塩化ナトリウムが用いられる。塩化ナトリウムの結晶は電気伝導性が低いが、溶融してナトリウムイオンと塩化物イオンに分離すると、それらが荷電キャリアとして働くため電流を伝導できるようになる。塩化カルシウムもしくは塩化バリウム塩化ストロンチウムフッ化ナトリウム[2]を電解質に添加することで、電解質の溶融温度を維持するための温度を低下させることができる(凝固点降下)。塩化ナトリウムの融点は通常801°Cであるが、これらの塩を添加することによって600°Cでも溶融状態を維持することができる。

アノードでは以下の半反応が起こる。

2Cl → Cl2 + 2e

また、カソードでは以下の半反応が起こる。

2Na+ + 2e → 2Na

したがって、全体としては以下の反応となる。

2Na+ + 2Cl → 2Na + Cl2

カルシウムの酸化還元電位は2.87 eVであり、ナトリウムの酸化還元電位である2.71 eVよりも高いため、この反応系においてナトリウムイオンはカルシウムイオンよりも優先して還元され、金属ナトリウムを形成する[3]。電解質からナトリウムが消費し尽くされてカルシウムのみになると、カソード側の生成物として金属カルシウムが生成されてしまう(それは金属カルシウムの製法でもある)。

電気分解によって生成される金属ナトリウムおよび塩素ガスは共に電解質より低比重であるため、溶融している電解質の液面に浮上してくる。細孔の開けられた鉄製の邪魔板をカソードとアノードの間に配置することで、金属ナトリウムと塩素ガスはお互いに接触し合うことなしに別々の部屋へと誘導される(右図参照)[4]

この電極反応を進行させるためには理論上4 Vをわずかに超える電位で十分であるが、実際には最高8 Vの電位が使用される。これは、その固有の電気抵抗にもかかわらず、電解質において実用的な電流密度を達成させるために行われる。過電圧と、それに伴う電気抵抗による発熱は、電解質を液体状態に維持するために求められる熱量に関係してくる。

ダウンズ法は副生成物として塩素を産出するが、この方法で生産される塩素の量は他の方法によって商業的に生産されている塩素の内のほんのわずかでしかない[4]

出典

  1. ^ JAKES CLOYD DOWNS (1924-07-15), ELECTROLYTIC PROCESS AND CELL, Patent 1501756, http://patft.uspto.gov/netacgi/nph-Parser?Sect1=PTO1&Sect2=HITOFF&d=PALL&p=1&u=%2Fnetahtml%2FPTO%2Fsrchnum.htm&r=1&f=G&l=50&s1=1501756.PN.&OS=PN/1501756&RS=PN/1501756 2011年5月28日閲覧。 
  2. ^ Keppler, Stephen John; Messing, Thomas A. Proulx, Kevin Bernard; Jain, Davendra Kumar (2001年5月18日). “Molten salt electrolysis of alkali metals, U.S. Patent 6669836”. 2011年5月28日閲覧。
  3. ^ Sodium Production by Electrowinning”. corrosion-doctors.org. 2011年5月28日閲覧。
  4. ^ a b Pauling, Linus, General Chemistry, 1970 ed. Dover Publications, pp 539-540