12の練習曲 作品8

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第12番の冒頭 左手部分の大きな跳躍を特徴とする。

12の練習曲 作品8」(12のれんしゅうきょく さくひん8)は、アレクサンドル・スクリャービンが1894~95年に作曲したピアノ曲である[1]。 この曲集は、ショパンの練習曲を意識し、12曲でひとまとまりのものと考えていたことが、楽譜出版商のベリャーエフへの手紙から明らかである。しかし、異なる分割のリズムを同時に重ね合わさる〈ポリリズム〉や、異なる拍子が重ね合わさる〈ポリメートルム〉、拍の始まりがずらされる〈クロスフレーズ〉など、スクリャービンの独自性が発揮されている。

特に第12番は自作自演がピアノロールで残されているほか、ウラジーミル・ホロヴィッツがレパートリーとしたことで有名となった。この曲は異稿が残されており、死後に出版されている。

技術[編集]

  • 第1番 嬰ハ長調 4分の4拍子 アレグロ 3部形式

3和音を、重音2つと単音1つの3連符に分解した音型が途切れることなく続けられる。

  • 第2番 嬰ヘ短調 4分の4拍子 ア・カプリッチョ、コン・フォルツァ 3部形式

左手の3連符の分散和音と、右手の5連符によるポリリズムの練習曲。ときどき左手が4分割に、また右手が6分割になる。

  • 第3番 ロ短調 8分の6拍子 テンペストーゾ 3部形式

オクターヴと単音が順番に繰り返されるパッセージが、右手と左手のそれぞれで演奏される。右手の3拍子と左手の2拍子が同時に重なり合うポリメートルムが現れるところがある。

  • 第4番 ロ長調 4分の4拍子 ピアチェーヴォレ 3部形式

左手3(ときに4)と右手5によるポリリズムの練習曲。

  • 第5番 ホ長調 4分の4拍子 アリオーゾ 3部形式

和音とオクターヴによって奏される練習曲。最初の8分音符で始まるパッセージは、再現するときには3連符で奏される。

  • 第6番 イ長調 4分の3拍子 コン・グラツィーア 3部形式

6度の練習曲。

  • 第7番 変ロ短調 右手4分の4拍子・左手8分の12拍子 プレスト・テネブローゾ・アジタート 3部形式

クロスフレーズの練習曲。

  • 第8番 変イ長調 4分の3拍子 レント 3部形式

初恋の人ナターリア・セケリーナによせて書かれたことから「ナターリアのレント」とも呼ばれている。最初のソプラノの8分音符による旋律は、再現部では8分音符の3連符に、さらに16分音符となる。

  • 第9番 嬰ト短調 4分の4拍子 アラ・バラータ 3部形式

オクターヴの練習曲。作品8の練習曲の中でもっとも規模の大きい作品である。

  • 第10番 変ニ長調 8分の3拍子 アレグロ 2部形式

幅広い音域を休みなく動く左手の分散和音の上で、右手の長3度が奏される。この作品8の練習曲集ではほとんどの曲が3部形式であるが、この第10番だけが2部形式(AB・AB)である。最初は弱音で始まり、次第にクレッシェンドを繰り返し、最後の付近にクライマックスをもってくるという、曲全体を一つの大きなクレッシェンドとする構造になっている。

  • 第11番 変ロ短調 4分の3拍子 アンダンテ・カンタービレ 3部形式

最初の8分音符の左手の伴奏が、再現部では分散和音となる。

  • 第12番 嬰ニ短調 4分の4拍子 パテーティコ 3部形式

ときに4オクターヴの広い音域にわたる左手の分散和音と、右手のオクターヴを主とする旋律で始まる。再現部では、左手の分散和音が両手による和音の連打になる。

脚注[編集]

参考文献[編集]

  • 『スクリャービン全集3(世界音楽全集・春秋社版)』(解説:伊達純、岡田敦子)

外部リンク[編集]