三つの時刻

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三つの時刻」(みっつのとき)は、三善晃男声合唱組曲。作詩は丸山薫

概説[編集]

早稲田大学グリークラブの委嘱により1963年(昭和38年)に作曲され、同年12月7日の同団第11回定期演奏会において初演された。指揮=石丸寛ピアノ渡辺厚。三善にとって初めての男声合唱曲であり、「けっして身裡(うち)から外へ出ることのない、抑制された感情のために響く、そんな男声のイメージを持っていた」[1]として、混声合唱や女声合唱との響きの違いを意識している。とはいえ三善自身も「ほんとにどうやって書いていいのかわからない男声合唱曲でした。」[2]と述べている(合唱曲を多く書いている三善であるが、男声合唱曲は数が少なく、さらに出版に至った曲となると一桁の数にとどまる)。丸山の詩を選んだのは、「高校時代の私(三善)は率直な共感を持っていた。作曲時の私はその率直さを大切にしようと心がけた。」[3]としている。「合唱パートの書法には、その後のそれにつながるものがあり、また、ピアノ・パートは「五つの童画」のピアニズムに通じると思う」[3]と三善は述べる。

早稲田が『三つの時刻』を委嘱した同年度に、慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団間宮芳生合唱のためのコンポジションIIIを委嘱していて、「大学の合唱団の歴史の中で画期的な年だったと、あらためて思います。性格の違うものでありながら、ともに男声合唱の新しい可能性を切り開く作品でした」[4]関屋晋は評している。

しかしながら、「三つの時刻」は初演後、再演の機会に全く恵まれなかった。その理由は「初演時のピアノ・パート譜が無くなってしまったため」[3]であり(当時は合唱パートとピアノパートが別々に書かれていて、合唱団は合唱パート譜をガリ版で複写して演奏していた[1])、「幻の名曲」[1]とまで呼ばれていた。その後、田中信昭が自宅に保管していた初演時のモノラルレコードを基に、小沢さち沼尻竜典が採譜する作業を行い、最終的には三善自身が音を定着させ、「復元版」が完成した[1]。「復元版」は1986年(昭和61年)12月6日、合唱=法政大学アリオンコール、指揮=田中信昭、ピアノ=田中瑤子によって初演された。「復元版」は翌年にカワイ出版から出版されたため、ようやく他の合唱団にも再演の道が開かれた。

曲目[編集]

全3曲からなる。3曲全体でも6分ほどの凝縮された作品である[1]

  1. 薔薇よ
    当初はピアノとの共演の形で書き進めたのを、書き終ってからピアノパートを三善が取り払った[1][2]無伴奏の形態で、より「抑制」を感じられる表現になっている[1]。昭和63年度全日本合唱コンクール課題曲。
  2. 午後
    疾走する音楽が現れる。「この曲のピアノパートは「五つの童画」のエクチュール(書法)に続いていることがはっきりしていて、この作品の重要性が刻印されています」[1]
  3. 松よ
    「前2曲の情感を踏まえることがこの作品の奥行きを生むでしょう」[1]。平成28年度全日本合唱コンクール課題曲。なお、カワイ出版譜と『合唱名曲シリーズNo.45』に所収されている楽譜とで数か所音が異なるが、「合唱名曲シリーズ」の音が「正しい音」[1]とされる。

楽譜[編集]

1987年(昭和62年)にカワイ出版から『路標のうた』(作詩:木島始、1986年)との合冊の形で出版された。その後分冊され、2019年現在、受注生産となっている。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j 『ハーモニー』176号、p.65
  2. ^ a b 『ハーモニー』85号、p.9
  3. ^ a b c カワイ出版譜の前書き
  4. ^ 関屋、p.90

参考文献[編集]

  • 「日本の作曲家シリーズ 1 三善晃」『ハーモニー』No.85(全日本合唱連盟、1993年)
  • 「名曲シリーズへのアプローチ」『ハーモニー』No.176(全日本合唱連盟、2016年)
  • 関屋晋著「コーラスは楽しい」1998年9月21日発行、岩波新書