七破風の屋敷

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七破風の屋敷
The House of the Seven Gables
初版表紙
初版表紙
著者 ナサニエル・ホーソーン
発行日 1851年3月
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
ウィキポータル 文学
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七破風の屋敷』(しちはふのやしき、英語: The House of the Seven Gables)は、アメリカの作家ナサニエル・ホーソーン1851年に発表した長編小説

概要[編集]

『七破風の屋敷』は、作者ホーソーン自身がもっとも愛していた作品であると言われるが、たしかにここには、円熟期にあったホーソーンの一種悠揚とした精神の落ちつきが見られ、心の内奥を見透かすようなその文体も、複雑であると同時に明晰、ほとんど淀むところがない。前作の長編『緋文字』には、植民地時代の清教徒の世界を厳しく追求して、罪とその償い、束縛と開放、孤独と連帯、人間社会と自然といった、さまざまな重要な主題を一作の中に凝縮しようとしながら、最後にはついにこれら対になるもののどちらにも明確な軍配を上げえず、作者自身がその中間に凝然と佇立したままであるような印象があったが、この『七破風の屋敷』では、作者はまことに明快な裁き手になっているようにさえ見えるのである。

セイラム (マサチューセッツ州)の七破風の屋敷、1915年

それにこの作品は、"呪い"を受けたピンチョン家族 (この"呪い"がホーソーン自身の先祖の魔女裁判に深くかかわっていることは、言うまでもない)の長い過去の歴史を踏まえてるとはいえ、実は同時代のニュー・イングランドの生活を主として描いたものにほかならず、そうした点から言えば、過去よりはより多く現在にウェイトを置き、さらには未来に可能性を見出そうとする作品なのである。もちろん、過去の"呪い"は深く、重くるしい。その重くるしさを描きだすために作者がどれほど苦心しているかは、ピンチョンの古屋敷を背景にしての、第一章のゴシック・ロマンス風な綿密な設定、モールの井戸や、クリフォードとホールグレーヴの過去と素性の神秘化、アリス・ピンチョンの異様な悲劇、さらにはクライマックスのピンチョン判事の死にまつわるサスペンスなどによっても察せられよう。だが、同時に読者は、作者ホーソーンがこまかく生きいきと描きだした同時代の日常的な世界の映像――ヘプジバーの出した一文店屋、そこへあらわれる食欲旺盛な少年ネッド・ヒギンズ、ヘプジバーの店について噂をする二人の労働者、付近にあらわれるイタリア人の少年手風琴弾きとその連れの猿など――をけっして忘れることはできないだろう。こうした鮮やかな同時代性はきわめて重要である。少なくともそれは、過去と現在の明瞭な対照が意図されていることを明示し、その鮮やかさは、ホーソーンのシンパシーがむしろ現在にあることを暗示しているからだ。

象徴性[編集]

クリフォード・パンション ジョン・ダルジエル英語版作、1875年の挿絵

実際、この作品では、過去の"呪い"からの開放はあまりにもうまくいきすぎているようにさえ見えるくらいである。ピンチョン判事の死も結局は先祖の大佐の死と同じく一種の自然死にほかならず、重層的に設定されたミステリーサスペンスは、最後にはすべて合理的に説きあかされてしまう。ホールグレーヴは急進主義者から一転して保守主義者となり、クリフォードとヘプジバーはあたかもかつての孤独な生活を忘却しさったかのように新しい幸運を受けいれ、あの聡明な、美しい娘フィービーでさえも、あるいは平凡な妻になってしまうかもしれない。こうした結末の一種のどんでん返しは、この作品にどこか甘さを与えているとも考えられるが、しかし、それでこの作品の価値が減じることは毫もないだろう。なぜなら、ここにはやはり、過去の"呪い"というよりは、むしろ過去が残した孤独な人間たちの悲劇的な映像と、その人間たちと愛によって深く連帯しながら、彼らの周辺に滔々と渦まいている同時代の激しい世界に力強く結抗していこうとする新しい、若い世代の人間の映像とが、深く刻みつけられているからである。

ホールグレーヴの保守主義への転向はあるいは意図された逆説なのかもしれず、苦難によって一人前の"女"となったフィービーと彼は、あるいは実際に新しいエヴァアダムであるのかもしれない。ここにも曖昧性はたしかに残るが、ピンチョン判事の描写を通じての厳しい社会批判、クリフォードの映像を通じての人間疎外の深い認識 (アーチ型の窓におけるアブサードなクリフォード、汽車に乗って空しい逃亡を企てる彼とヘプジバーのいじましい姿は、凄絶なほどに読む者の心を打つ)、「死」を契機にした若い男女の結びつきを通じての深遠な人間性の洞察などは、今日なお直接にわれわれに訴えかける現代性をもっているというべきであろう。

ホーソーン、1848年

『七破風の屋敷』は一見古めかしいロマンスのように見えるが、合理性と非合理性の相剋から立ちあらわれるその深深とした象徴性は、むしろきわめて現代的であると考えられるのである。

脚注[編集]

参考文献[編集]

外部リンク[編集]

  • The House of the Seven Gables, available at Internet Archive (scanned color illustrated books, multiple editions and formats)
  • The House of the Seven Gables - プロジェクト・グーテンベルク
  • The House of the Seven Gables, available at Ria Press (PDF optimized for printing)
  • The House of the Seven Gables パブリックドメインオーディオブック - LibriVox
  • MonkeyNotes study guide
  • Sparknotes study guide
  • Classicnote study guide
  •  Cairns, William B. (1920). "House of the Seven Gables" . Encyclopedia Americana (英語).
  • Idol, John L., Jr., Illustrations of The House of the Seven Gables: A Help or a Hindrance?, http://hawthorneinsalem.org/ScholarsForum/Illustrations.html .
  • The House of the Seven Gables Map