ドリアン・パヴィス

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ドリアン・パヴィス
ドラゴンエイジのキャラクター
初登場ドラゴンエイジ:インクイジション』(2014)
ラモン・ティカラム英語版
詳細情報
種族 人間
出身 テヴィンター帝国
クラス 魔道士
上級クラス 屍術師
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ドリアン・パヴィスバイオウェアの『ドラゴンエイジ (コンピュータゲームシリーズ)英語版』シリーズに登場する架空のキャラクターである。ドリアンはテヴィンター帝国の誇り高き貴族の出身で、人間の魔道士(en:Magician_(fantasy))である。テヴィンター帝国はセダスの北部に位置している強力な魔道士の寡頭制により統治される領域であり、セダスは『ドラゴンエイジ』シリーズの舞台になっている大陸である。ドリアンは2014年のゲーム『ドラゴンエイジ:インクイジション』にコンパニオンとパーティメンバー英語版として初めて登場した。

同性愛者の男性として、また有色人としてのアイデンティティだけでなく複雑で深みのある人物描写も注目され、ドリアンは『ドラゴンエイジ:インクイジション』で肯定的に受け止められた。ドリアンの声はラモン・ティカラム英語版が当てている。

キャラクターの概要[編集]

「ドリアンは魔法に関して天賦の才能を持って生まれ、その才能により貴族たちの羨望の的になった。ドリアンは魅力的で自信に満ちていて、機知が刃のように鋭く、もし誰かがドリアンの態度をうぬぼれていると言うとすれば、それは魔道士が支配する国において強力な魔道士であることが原因である。ドリアンは家族の誇りであっただろう。もしドリアンが自国が象徴するようになったすべてのものに反対しなければ。ドリアンは『最下層』と『追放者』というラベルを誇らしげに身に着け、能力のある誰かが変化をもららすために立ち上がらない限り、帝国の考え方は変わりそうにないと確信している」
—キャラクターガイド[1]

生まれつき魔法の才能に恵まれたテヴィンター出身者であるドリアンは本来の自分と自分の能力を自覚し享楽している[2]。ドリアンはテヴィンター社会の隅々まで広まっている退廃と腐敗を拒絶するようになるが、自国を愛しており、偏見のないテヴィンターの未来を実現したいと考えている。ドリアンのモラルと理想が家族やテヴィンターに住む一般大衆と一致しないためドリアンは最下層とみなされる。また、以前の指導者である賢者ゲレオン・アレクシウスにいらだつようになり、敬意を失った。ゲレオン・アレクシウスはかつて賢者院の一員で賢者院に影響力を持っており、帝国を改革することに賛成していたが、現在はヴェナトリとして知られるテヴィンター帝国至上主義者英語版の武装カルトに加入した狂信者である。同郷人のモラルが退廃したこととアレクシウスが原理主義者に熱狂していることを知り、それを止めようと努め、ドリアンは審問会に加入することを決め、まず最初に故郷を腐敗させる軍隊を取り除かなければ帰ることはできないだろうと考えている。

非常にうぬぼれが強く、自己陶酔しているふるまいにもかかわらず、ドリアンにはつらい過去がある[3]。『ドラゴンエイジ:インクイジション』でのドリアンの個人的なプロットには「脱ゲイ」の寓話と考えられているものが盛り込まれている。ドリアンの父親はドリアンの性的指向を陰鬱なブラッドマジックの儀式で変えようと試み、ドリアンは家から逃げることで応じた。プレイヤーは謝罪の気持ちを表した父親とドリアンが和解するのを助けるか、仲違いさせたままにするかのどちらかを選択することができる。

ドリアンは男性の審問官に対してロマンスの選択肢がある。ドリアンが審問官と付き合っておらず、アイアン・ブル英語版を審問会の一員として受け入れている場合、ドリアンとアイアン・ブルは互いに親密な関係を築くかもしれない。また『ドラゴンエイジ:インクイジション』のDLC『招かれざる客』英語版のエンディング以降も長続きするかもしれない。

構想と創作[編集]

「異性愛者で白人で男性である理由を説明しなければならないキャラクターは一人もいない。それ以外のキャラクターを作ろうとする瞬間に、そうすることが良い理由が突然必要になる……いや、そうかな? デフォルトという考えの妥当性を疑うためにある程度の意図が必要とされる。そうすることは少し不自然に感じるが、それは絶対に必要なことだ。単にいつもそういうやり方だという理由で、思慮なしに同じことをせずに創作するための一つの方法だ」
デイヴィッド・ゲイダー ドリアンの構想の背後にある思考過程について[4]

ドリアンはバイオウェアを辞職する前のデイヴィッド・ゲイダー英語版により生み出され、主に執筆された[5]。ドリアンは1963年から1966年まで放映されたカートゥーンシリーズ『マイティ・ハーキュリー』の「ドリアン王子」というキャラクターにちなんで命名された[6] 。ゲイダーはドリアンが名付けられるよりずっと前に「ロックスターの魔道士」というアイデアを探求していた[2]

ゲイダーはインタビューにおいて、正真正銘の善き魔道士というキャラクターを具体化するためにドリアンのセクシュアリティは当然の発展であり、後にそれはキャラクターとしてドリアンの他の側面をより完全なものにしたと説明する。しかしながら、いったんドリアンが具体化すると、バイオウェアは特にこのキャラクターを『ドラゴンエイジ:インクイジション』に入れたいと考えた[4]。ゲイダーはさらに次のように述べた。「ゲーム全体で比較すると、ドリアンのようなキャラクターがゲームにいることはほとんどない。だから、ほぼどこにもない承認を受け取るファンにとってどういうこと意味するかを考慮すると、この内容を考えすらしていない一部のファンから、わずかばかりの忍耐と思いやりを要求しても差し支えない」「ドリアンは同性愛者だ。実際ドリアンは自分が書く機会があった中で最初の完全に同性愛者であるキャラクターだ。「完璧さ」はすべての魔道士が装う体面であり、少しの逸脱が恥で、隠さなければならないことになっている場所がドリアンの出身地であることを考えると、同性愛者であることは興味深い側面をドリアンの人物設定に付け足した。ドリアンがそのようなうわべだけのものに協力するのを拒絶したことを、ドリアンの家族は頑固で無意味であると考える。そのことがドリアンの地位を最下層とする一因となった」

ゲイダーは後に、以前「完全に同性愛者」という言葉を使ったのは、ドリアンの恋愛の対象は男性のキャラクターだけになり、前のロマンスの選択肢には男性と女性の両方からのロマンスが可能であったと伝える意図があったと明らかにした[5]。ゲイダーは2015年のインタビューで、バイオウェアの元同僚は、自分を異性愛者とみなしていたが、2005年の『ジェイド エンパイア 〜翡翠の帝国〜』で同性間の関係を任意のロマンスのサブプロットに入れたと述べた。このことは同性愛者であることを公表しているキャラクターを書くことや、着手しているゲームの中心となる物語にLGBTのテーマを溶け込ませることについて大胆になることをゲイダーに促した[7]

ゲイダーは2016年にバイオウェアを辞めた後、2018年にファンフィクションを書いて投稿した。ファンフィクションはドリアンがテヴィンター帝国に帰国した後、家族の問題を扱うことに関する結末を提供しようと試みている[8]

ビジュアルデザイン[編集]

「ドリアンは帝国の魔道士のローブを着ているが、魅力的な厄介者らしく着こなしている」
—『The Art of Dragon Age: Inquisition』86ページ[2]

『ドラゴンエイジ:インクイジション』においてドリアンの加入はこのゲームのデザイナーにテヴィンター帝国の視覚言語を探求する機会を提供した[2]。ドリアンはテヴィンターの文化の深さや芸術性、豊富さの一端を見せる目的でデザインされた。テヴィンターの文化はしばしば南部セダスの文化により異国風で脅かすようなものとして受け取られる[2]。バイオウェアの公式ブログに公表されたキャラクターキットによると、ドリアンは曲がりくねった蛇の絵柄で飾られている灰色の魔道士のマントを着ている。小型の鞄がベルトにあり、薬を保管するためのものである。ドリアンはを杖をしっかり握ることができる革の長手袋を身に着けており、そのため極めて正確に杖を振り回すことができる。とぐろを巻いた蛇の留め金はマントを固定し、これはドリアンの魔法がその機知と同じくらい鋭く突き刺さるということを思い出させるよう意図されている[1]

『Medium』のアマンダ・ジーンはドリアンの第一印象は「寒くて汚いセダスの地形を胸筋の大部分を出して歩き回る不適切な癖があり、意地悪で皮肉っぽい、カールした口ひげの自信のある人で、明らかに白人でない人……」といった印象を与えると述べた。また、ジーンは『ドラゴンエイジ:インクイジション』のリードナラティブデザイナーであるジョン・エプラーの言葉を引用した。ジョン・エプラーはかつてドリアンの民族的背景を話す際に「現実世界ではインド人が最も類似するものである」とコメントした[9]

評価[編集]

ドリアンは様々な情報源で、とりわけゲームで同性愛者であることを公表しているキャラクター英語版として人気が急上昇したキャラクター英語版であるとみなされている[4][10][11][12][13]。『Techradar』のエイミー・ハートはドリアンが『ドラゴンエイジ』シリーズで今後のどんなエピソードでも戻ってくるのを見たいと思うキャラクターであると述べた[14]。『フォーブス』のポール・タッシは、ドリアンが他のパーティメンバーと比べてとても楽しく、ドリアンはことによるとありふれたやり方で多少派手であるが、ドリアンの説得力のある性格描写を考慮に入れるとそれは小さな問題であったと感じたため、パーティで固定メンバーになったコンパニオンであると言及する[15]。ケリー・ピアスは『ドラゴンエイジ:インクイジション』において、多くのLGBTキャラクターの配役の中でドリアンが最も好きなキャラクターであり、ドリアンは主人公のジェンダーがどうであれ談笑するのが辛辣で楽しいことに注目されるが、『ドラゴンエイジ:インクイジション』でピアスにとって最も感情に訴える瞬間はドリアンの審問官に対する誠実さを得るときやドリアンの過去を知るときであると述べた[16]

ドリアンは審問官の潜在的な恋愛の相手として好評を博した。エマ・オズボーンは『Junkee』に執筆し、ドリアンのロマンスのサブプロットを賞賛し、「物語に本物のラブストーリーがある」と述べた[17]。『Kotaku』のマイク・ルージョーは男性のキャラクターでゲームをプレイして何時間かで、ドリアンの個性が男性の審問官が付き合うことができる2人の女性のロマンスの選択肢より魅力的であると思っていることに気づき、自分のキャラクターにドリアンと恋愛関係を始めさせることを決めた。ルージョーは自分が異性愛者であると認識していても、このことに感情移入し、自分自身の分身以上の何者かとしてゲームの主人公の役割を演じる機会であると考え、自分のキャラクターがひとりでに動き始めたことに気づいたと説明する[18]。『ガーディアン』のケイト・グレイはプレイヤーが文字通り恋に落ちることができる驚くほど深く個人的でうまく構成された親密な関係のシステムを特色にしたことについて『ドラゴンエイジ:インクイジション』を賞賛した。グレイにとってこれまでゲームで経験した中で最も人間らしいと思う反応は、ドリアンがグレイの女性の審問官にその気にさせてドリアンが性的指向を変えられず審問官と恋愛関係になれないと認めたことで謝罪したときであった。グレイは自分の審問官が以前戯れるような軽口をドリアンと繰り返し交わしたが、実際にはドリアンが同性愛者のキャラクターとして書かれていることにドリアンが謝罪するまで気づかなかったと説明した。グレイはバイオウェアの作家による細部の心遣いに感謝し、どういうわけか「バイオウェアはまさにこの状況を予測していた。仮想空間で思い違いをしてこの男性に惚れ込むということを。バイオウェアは自分の審問官のような人たちに対して心からの対話を書いた」と述べた[19]

ジョー・パーロックにより書かれた『デイリー・テレグラフ』の2016年の記事において、パーロックはゲームで同性愛者の男性の適切な描写が不足していることを嘆き、ゲームの販売元はプレイヤーが主にゲームで男性と男性の恋愛を見ることに否定的な反応をする異性愛者の男性であると思っていて、ゲームの作家が同性愛者の男性のキャラクターを気にかけるプレイヤーを理解することに創造的にならず、多様性に応えるためにレズビアンと両性愛者の女性を頼りにすることにつながると仮定した。パーロックは『ドラゴンエイジ:インクイジション』におけるドリアンの描写を回想した。『ドラゴンエイジ:インクイジション』でドリアンの人物設定と対話はドリアンが同性愛者の男性であるためこれまでの多数の経験を具体化し、そのことはドリアンの性格描写に顕著に深みを与えた[20]。Gaspard Pelursonは2018年の記事である『Mustaches, Blood Magic and Interspecies Sex: Navigating the Non-Heterosexuality of Dorian Pavus』で「ゲームは現在LGBTQの表現で遅れを取り戻しているが、ほんの少数のキャラクターにしかドリアンと同じくらい重要な役割を認められていない」と述べた[13]。『アドヴォケート』のアリー・ヘクターは、家族がドリアンを異性愛者にしようとした後に家から逃げたというドリアンの人物設定により、ドリアンのセクシュアリティは単なるプレイヤーの選択肢ではなく、ドリアンのアイデンティティになっていると述べた[21]GLAADのマット・ケインはドリアンと同じ『ドラゴンエイジ:インクイジション』のキャラクターであるクレム英語版セラ英語版、アイアン・ブルを2014年の最も興味をそそるLGBTキャラクターのリストに入れた[22]

ゲームの記者によりほぼどの方面からも賞賛されたにもかかわらず、ゲイダーはドリアンの同性愛の表現は「ある程度論争を呼ぶ」かもしれないと認める。しかし、最終的には十分に現実感を与えられたキャラクターによって『ドラゴンエイジ:インクイジション』をプレイするファンの心をつかみたいと考えている[5]

関連項目[編集]

脚注・出典(参考文献)[編集]

  1. ^ a b Sean Trayner (2015年5月28日). “Dorian Character Kit”. BioWare. 2020年2月20日閲覧。
  2. ^ a b c d e The Art of Dragon Age: Inquisition. Milwaukie, Oregon: Dark Horse Books. (October 2014). ISBN 978-1-61655-186-5 
  3. ^ Dragon Age: The World of Thedas, Volume 2, pg 232-234.
  4. ^ a b c Luke Karmali (2015年11月13日). “How Gaming's Breakout Gay Character Came to be”. IGN. 2020年2月20日閲覧。
  5. ^ a b c Ludwig Kietzmann (2014年7月1日). “Dragon Age gets Dorian, a gay guy with a 'stache of magic”. Engadget. 2020年2月20日閲覧。
  6. ^ David Gaider on Twitter”. Twitter. 2020年3月14日閲覧。
  7. ^ VGS - Video Game Sophistry (2015年5月16日). “BioWare Interview: Lead Writer David Gaider on Krem, Dorian and Sexual Diversity in Gaming”. YouTube. 2020年3月13日閲覧。
  8. ^ Aimee Hart (2018年7月18日). “Former Dragon Age Lead Writer David Gaider Writes Dorian Pavus Fanfiction, And It's Fantastic”. VGR. 2020年2月20日閲覧。
  9. ^ Amanda Jean (2017年6月13日). “Stop Whitewashing Dorian Pavus”. Medium. 2020年2月15日閲覧。
  10. ^ Matt Baume (2015年7月13日). “Dorian of Dragon Age: Inquisition: Why Gaming's 'Breakout' Gay Character Matters”. Out. 2020年2月15日閲覧。
  11. ^ Ed Kennedy (2015年7月10日). “"Dragon Age: Inquisition" Creator Says Gay Character Was Created With Care”. NewNowNext. 2020年2月20日閲覧。
  12. ^ Juri Honkanen. “Here Be Queers: LGBT+ Representations in Dragon Age: Inquisition”. University of Jyväskylä. 2020年2月20日閲覧。
  13. ^ a b Gaspard Pelurson (April 2018). “Mustaches, Blood Magic and Interspecies Sex: Navigating the Non-Heterosexuality of Dorian Pavus”. Game Studies 18 (1). http://gamestudies.org/1801/articles/gaspard_pelurson 2020年2月20日閲覧。. 
  14. ^ Robert Purchese (2020年2月13日). “Dragon Age 4 characters: who we want to see return”. Tech Radar. 2020年2月20日閲覧。
  15. ^ Paul Tassi (2015年6月30日). “The Best Gay Characters In Mainstream Video Games”. Forbes. 2020年2月20日閲覧。
  16. ^ Kelly Peirce (2019年6月20日). “All the strongest LGBTQ+ characters in PS4 games”. Android Central. 2020年2月20日閲覧。
  17. ^ Emma Osborne (2019年7月3日). “The Unique Joy Of Discovering Your Queerness In Video Games”. Junkee. 2020年3月13日閲覧。
  18. ^ Mike Rougeau (2015年1月11日). “How I Realised My Dragon Age: Inquisition Character Is Gay”. Kotaku. 2020年3月13日閲覧。
  19. ^ Kate Gray (2015年1月14日). “My boyfriend in Dragon Age: Inquisition broke my heart when he told me he was gay”. The Guardian. 2020年2月20日閲覧。
  20. ^ Joe Parlock (2016年2月24日). “Why gaming's gay male representation needs to change”. The Daily Telegraph. 2020年2月24日閲覧。
  21. ^ Alley Hector (2018年5月24日). “The 15 Queerest Video Games, Ranked”. The Advocate. 2020年2月20日閲覧。
  22. ^ Matt Kane (2014年12月22日). “2014's Most Intriguing LGBT Characters”. GLAAD. 2020年2月24日閲覧。


外部リンク[編集]

関連文献[編集]