ドゥイノの悲歌

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ドゥイノの館(2008年)

ドゥイノの悲歌』(Duineser Elegien)は、リルケの連作詩。1922年に完成。それぞれ70から100行程度の詩行をもつ10の詩からなる作品で、リルケ晩年の代表作である。

リルケは1912年1月、マリー・フォン・トゥルン・ウント・タクシス=ホーエンローエ侯爵夫人に招かれ、前年の4月に続いてアドリア海沿岸の断崖に立つトリエステ付近のドゥイノの館の客人となった。この二度目のドゥイノ館滞在中、海沿いの陵壁を散歩しながら事務的な手紙に対する返事のことを考えているうちに、天啓ようにひらめいた詩句がこの連作のはじまりであった。リルケはその日のうちに第一歌を書き上げ、続いて数日のうちに第二歌、第三歌を書き上げたが、ここまでで一時中断、第一次世界大戦の混乱をはさみながら断続的に書き継がれ、1922年2月、終の棲家となったミュゾットの館でようやく完成をみた。初版は翌年6月、インゼル書店から300部の限定版で刊行されている。

全体は人間の無力さやはかなさと現世社会の皮相さに対する嗟嘆のトーンで貫かれており、十全な存在である「天使」(リルケはこの天使がカトリックの天使とは無関係であることに注意を促している)や英雄、動物や草木の見せるさまざまな兆し、青年の恋愛、市井のいとなみや死といったさまざまな事物との多様な連関の中で人間存在の運命が捉えられ、緊密で象徴的な語法によって歌い上げられている。そして連作後半では、事物を素朴な言葉によって賛美し、内面化するという行為に注意を向けることによって、有限性を持つ人間存在に対する希望が見出される。

作品の基底には「全一の世界」、つまり目に見えるもの・見えないものを含むあらゆる事象が相互に関連し一つの統合をなしているというリルケの考えがあり、同時期に成立した連作『オルフォイスへのソネット』とは、形式や調子のうえではまったく異なりながらも内面的なつながりを持つ作品となっている。

参考文献[編集]

  • 星野慎一、小磯仁 『リルケ』 清水書院、2001年、170-200頁
  • リルケ 『ドゥイノの悲歌』 手塚富雄訳、岩波文庫、2010年〔改版〕

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