コモリグモ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
| コモリグモ | ||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 分類 | ||||||||||
|
||||||||||
| 英名 | ||||||||||
| Wolf spider |
コモリグモは、コモリグモ科に属するクモの総称である。雌親が卵と幼虫を腹部で保護する習性があることから、この名がある。
目次 |
[編集] 特徴
コモリグモは、クモ綱クモ目コモリグモ科に属するクモ類の総称である。活発な徘徊性のクモであり、やや小型の種が多い。体色は灰色か褐色を中心とした、地味なものが多い。
頭胸部、腹部はいずれも楕円形で、目だった特徴は少ない。目の配列は特殊で、3列をなす。前列眼は小型で、ほぼ真っすぐに並んでいるが、後列の眼がよく発達する。後中眼が特によく発達し、前方を向く。後側眼は後中眼よりずっと後ろに位置するので、全体としては3列をなすように見える。
足は比較的たくましい。後ろ足が長いものが多い。足の爪は3本で、造網性のクモの系列であることを示している。
[編集] 習性
徘徊性で、地上を歩き回って虫を捕らえるものが多いが、網や巣を造るものもある。カイゾクコモリグモ属(Pirata)のものは、幼体が地表に棚網を張る。また石の下のギャップなどで コンパクトな棚網を張り、卵嚢を保護しているのを見ることもある。 ハラクロコモリグモなどでは、産卵時にトンネルをつくってそこにひそむ。イソコモリグモやヨーロッパのタランチュラコモリグモは、比較的永続的に巣穴を利用し、巣の入り口に近づく昆虫を捕食する。 ハラクロコモリグモとならぶ、土壌との結びつきの高い やや大型の徘徊種のなかでも 土中に穴を掘って潜んでることの多いヒノマルコモリグモ や、 入梅ごろ卵嚢を背負って徘徊しているのを見かけるアライトコモリグモなどは 飼育時に物陰の小さな空間にコンパクトな部屋を作り 表面にゴミをつけて偽装する習性が見られる。 またヒノマルコモリグモは運動量の多いPardosaと比べると 長期の絶食に耐える。 これらに見た目の雰囲気は似ているものの、チリコモリグモは飼育時には植物体の上で静止していることが多い。 行動の大きな違いから、属が違うことがわかることがしばしばある。
フジイコモリグモはサイズや色合い、振る舞いがウヅキコモリグモ(Pardosa)に酷似するが、 背甲の斑のパターンが異なり、縦筋の中盤に3段くらいのギザギザが現れやすいウヅキとは、 中ほどでやや緩やかに膨らむことなどで見分ける。 ただ、後者の斑の特徴は肉眼ではあまりはっきりしないことも多い。 また走り回って逃げるのが好きなウヅキと比べると、若干物陰に隠れる傾向が高い。 被植度の低い開放面で優占することの多いグループと、 リターや石などの陰を好むグループとで、逃避パターンに差が出るようだ。 なお、ウヅキは眼域が黒ずむものや眼域まですんなりと 白い帯が続くように見えるものも多く、 肉眼では他種と間違いやすい。 典型的に斑が現れる型では、後中眼の後方のやや幅広い部分に、眼鏡のような一対の暗斑が浮かび上がるのは、ウヅキ・タカネコモリグモなどの特徴のようだ。 この点で~ハリゲコモリグモと名づけられるものと識別する。 高山では、普遍的にいるタカネコモリグモのほかに、湿原周辺では一回り小さい似たPardosaが優占種となるようだ。
ぱっと見て種類がわかりにくいArctosaの中では カガリビコモリグモは河川敷環境では、キシベコモリグモ類とは同時に出現しながら、多少の環境要求の差のようなものが見られる。 拳大の石が多くなり乾いた場所が目だってくると後者が、 石河原ながら、増水の影響などで泥状の場所が増えると前者の割合が増えてくるようだ。 後者の方が動きは素早く、若干脚が長く見える。背甲の斑は変異が大きいが眼域すぐ後方の黒筋に特徴がある。 河原で似たような動きをするものに、別科のミヤマタンボグモがおり、こちらは背甲の淵に向かって 特徴的なギザギザ斑がある。 ミヤマとつくが河川敷でも見られ、 水辺に多いある種のコモリグモ類と共通する、全身の短毛の多さに特徴がある。 周辺の石下に営巣している、背甲がつるっとした雰囲気で、糸いぼが発達しているメキリグモ類とは見分けやすい。 このクモは最近盛んな河川の調査などで、タイリクアリグモなどと並んで、記録が伸びてゆくと思われる。 眼列は明瞭に違うが、肉眼ではなにかコモリグモの幼体のように見えるので、見落としがあるのかもしれない。 恐らく最初の発見地が河川であればカワベタンボグモになっていたのかもしれない。 ミヤマタンボグモとは逆に、ハタケグモなどは山間部の林道沿いのリターや、山の尾根筋のリターでも見られるが、山だからヤマハタケグモ、畑にはハタケグモと住み分けるわけでもないようだ。 植物などではタカネとつくが、標高の高いところには絶対に生えない植物が幾つかあるそうだ。
他に、土壌の発達した環境ではシボグモの幼体もややコモリグモに似る。
ヒノマルコモリグモは成長過程では雄は雌と同じ体色である。 土の中に穴を掘って生活し、各地の発達した土壌で多数見られる。やや湿った場所を好むようだ。 ウラシマグモの仲間やPirataと同時に見られることが多い。 アライトコモリグモに性質はにたところもある。 性質はややおとなしい。 腹部の斑はさまざまなグループに見られるものと共通だが、眼列で周辺のものとは見分ける。 雄成体の前足に白黒のコントラストが目立つが、これはPirata小型種の雄の前足の黒いコントラストや、Pardosaのいくつかの種の触肢のコントラストと同じく、求愛行動で役立つものだろう。
エビチャコモリグモは比較的大型のコモリグモで、一匹見つかるとその周辺に次々と見つかる点で 生息環境周辺で見られるやや大型のコモリグモとは、識別しやすい。 幼体があまり大きくは拡散しないのだろうか? 河川では水面からの高さ的に、キシベコモリグモ類よりも若干高い位置でまとまって見られるようだ。 サイズ的に近くなるアライトコモリグモとは、うまくシーズンがずれているような気がする。 石を持ち上げたときに、見つかってもほとんど逃避行動をとらない。
地表で走り回っているのをもっとも見かけることが多いと思われる PardosaとPirataについては、色彩変異が多彩なものの 後者を前者と識別する点は背甲(体の前半部分上面)のVの字状の暗斑。 おおむね何らかの網を張ってその中に定位すること。などで見分ける。 これらのグループは全身が黒色化している暗色型も時々見られ 営巣中のものは一見、ヤチグモのように見えることもある。 また陰湿な沢沿いで見られやすいPirataでも比較的大型のクラークコモリグモについては アオグロハシリグモ幼体、カチドキナミハグモ雄、シノビグモ などが一見すると間違いやすく、相互に似ていることや不規則な色彩は、色覚の発達した 鳥などの捕食者に対して生得的なメリットとなっているように思われる。 なお、キシダグモ科とコモリグモ科は眼列の形状が異なるので 見分けやすいとされるが、そう見分けやすいものではないように思われる。 備考としては、アズマキシダグモに時々黒色個体が見られるが これも背甲に微妙な筋斑を持ったコモリグモと見間違いやすい。
河川環境では下流より上流に至るにつれ、コモリグモ類の種構成の変化が見られ また、礫の大きさや水面からの高さ、土壌の発達の度合いなどでも種構成の変化が見られる。 河川では裸地環境に近いところでウヅキコモリグモを見やすく 河畔林やその林縁ではよく似たフジイコモリグモが見られやすくなる。
中流域では、砂地などで比較的大型のカワベコモリグモが見られやすいが、高山の砂礫地などでも見られるようだ。 また高山の、やや平たい適度なサイズの石の下にはチビクロハエトリの仲間と卵嚢がよく見られる。 こちらも河辺でも高山でも見られると聞く。 高山のやや乾燥した草地から砂礫地の植物が、山麓の河原に下降することは頻繁にあるらしく、環境の共通性はあるようで、あまり意外ではない。 カワベコモリグモは周辺の石下で見られるpirata、キシベコモリグモ、メキリグモ類、エビチャコモリグモなどと違い、石の下に更に小さな穴を掘ってその中に潜む。 高山ではおそらくカワベコモリグモが掘った穴と思われるところを、クロヤチグモの一種が利用していた。 メキリグモは各サイズ(成長過程の異なるもの)のものが団居していたり、食べかすが散乱していることも多い。また石の下にはコモリグモの脱皮殻がよくくっついている。 台形状の後眼列は他のコモリグモと比べるとやや中寄に見え、つぶらな瞳はやや上を見ているようでもある。 やや太目の足は脛節並みに発達した膝節など、周辺の営巣するクモや高速で走るクモとは別の特徴を持つ。 足には開出軟毛が生え、背甲は不整な伏短毛に覆われる。 腹背の前方には斑型が明瞭な個体ではなにかの紋章のような模様が浮かび上がる。 地味ながら他のコモリグモとは一風異なった特徴を各所にいろいろと持つ。
湿所を好むことが多いPirataに比べ、Pardosaは湿性種、乾地性、水辺の乾地性とさまざまな環境に進出しており、 多様に種分化を遂げた群なのだろうか? Pardosaの生息環境で雄の成熟期に、コモリグモとはまったく別のグループの幾つかのクモの雄の色型が、Pardosaのそれとよく類似する現象が見られる。
コモリグモ類は、ほとんどが地上性であり、低い草の上より高いところに進出することは少ない。湿ったところに種類が多く、湿地草原に多いが、森林に生活するものもある。川原や海岸にも独特の種がある。海外では、砂漠に生活するものもある。水田に生活するものは、害虫駆除の効果が高いことが知られている。 ただ飼育中に餌としてのウンカ・ヨコバイ類を忌避する傾向が見られることが多く 捕殺の効果と実際の捕食を区別する必要もあるようだ。 また同じ環境に生息するヒメグモ・サラグモ・アシナガグモなどの 造網性のグループが実際の駆除に貢献している可能性もある。 コモリグモの中では、ウヅキコモリグモとそれに酷似した高山性の種タカネコモリグモが、対応できる植生パッチの幅が特に大きいようだ。 さまざまな環境で集団で足元で一斉にワサワサ動いているクモが見られたならば、 その大部分がPardosaに属するものなのかも知れない。
水辺に生活する種では、敵に追われたり、水面の獲物を捕食するときなど、水面をアメンボのように疾走するものも多い。 この辺は、水辺のクモ相でも主要な位置を占めるアシナガグモ類が優雅に静止水面を歩行するのとは対照的だ。 キクヅキコモリグモなどでは時々水面に飛び出しては 岸に戻ってくる場面などが日常的に見られる。 またキシベコモリグモと思われる集団が、中流域でも、ある程度の流れのある場所では 逃避中に水流は回避し、石の隙間に逃げ込む行動が見られた。同パッチで見られるカガリビコモリグモはやや動きが遅く、大きな逃避行動をとらずに小さく走って適当なくぼみで脚を縮めて静止することが多かった。
キシベコモリグモはツルヨシに生態的に似たところがある。
配偶行動は、雄が雌の前で触肢や前足を振ったり、体を上下するなどのダンスをすることが知られている。このダンスの様式は外見上区別が非常に困難な種間でも異なっている例が知られている。 求愛ダンスをするクモ一般の傾向として 触肢の色彩に白と黒のコントラストなどがついているのが よく見られる。 コントラストによって、より動きを捉えやすく、また動きの パターンを記憶しやすくなっているものと思われる。 性徴として赤や青などの顕著な色彩が現れる場合、その種は 色覚が発達していて、その色を視覚ユニットに含み 単純なコントラストに留まるものは色覚がさほど発達しなかったのだろうか。 雄は雌よりやや小さく、ややスリムな程度で、それほどの大きさの差はない。
卵は糸で包んで卵嚢とする。卵嚢はやや偏平な亜球形で、赤道に沿ってかがられている。雌は卵嚢を腹部後端の糸疣につけて保護する。徘徊性のものは、卵嚢をつけたま移動する。卵嚢内でコグモが孵化する時には、赤道に沿ったかがりをほどいて卵嚢を膨らませる。コグモが卵嚢から出てくると、コグモは雌の腹部に這い上り、そこにかたまりを作る。コグモは親が水を飲む時には移動して水を飲み、終わるとまた腹部に戻る。コグモが成長すると、雌の背を離れ、バラバラになって行く。
|
子守り中のキクヅキコモリグモ Pardosa pseudoannulata |
[編集] 名前に関して
この仲間は、1973年8月まではドクグモ科と呼ばれていた。これは、ヨーロッパの伝説の毒グモである、タランチュラコモリグモの仲間だったからである。しかし、実際にはそれほど強い毒がある訳ではなく、ただでさえクモと言えば毒と言われる中、この名前は誤解を招き過ぎるとの判断から、改名することとなった。保育習性があることに基づいて、現在の名が使われるようになった。それに伴い、個々の属や種の和名も変更になった(カイゾクドクグモ属→カイゾクコモリグモ属・ウヅキドクグモ→ウヅキコモリグモ)。英語圏ではWolf spiderと呼ばれる。
[編集] 分類
コモリグモ科には多くの属種がある。代表的なもののみ挙げるに止める。
コモリグモ科 Lycosidae
- コモリグモ属 Lycosa:ハラクロコモリグモ・イソコモリグモ・タランチュラコモリグモ
- オオアシコモリグモ属 Pardosa:キクヅキコモリグモ・ウヅキコモリグモ・ハリゲコモリグモ
- キタコモリグモ属 Trochosa:カラフトコモリグモ
- カイゾクコモリグモ属 Pirata:カイゾクコモリグモ・キバラコモリグモ
- ミズコモリグモ属 Arctosa:エビチャコモリグモ・ヒノマルコモリグモ

