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'''カテネーション''' ('''Catenation''') とは、同種元素の原子が長鎖状に結合することを指す用語である。最も良く知られているカテネーションの例は[[炭素]]原子によるもので、[[共有結合]]により多数の炭素が結合して長鎖および構造を作る。このことが自然界に膨大な種類の有機化合物が存在する理由である。炭素はそのカテネーションの性質が最も良く知られている元素であり、[[有機化学]]は根本的にカテネーションを起こした炭素の構造('''カテネー''' '''catenae''' とも呼ばれる)を調べる学問だと言える。しかし、炭素がカテネーを形成する唯一の元素であるわけではまったくなく、他にも[[ケイ素]]、[[硫黄]]、[[ホウ素]]などの[[典型元素]]が幅広いカテネーを形成できることが知られている。
'''カテネーション''' ({{lang-en-short|'''Catenation'''}}) とは、同種元素の原子が長鎖状に結合することを指す用語である。最も良く知られているカテネーションの例は[[炭素]]原子によるもので、[[共有結合]]により多数の炭素が結合して長鎖および構造を作る。このことが自然界に膨大な種類の有機化合物が存在する理由である。炭素はそのカテネーションの性質が最も良く知られている元素であり、[[有機化学]]は根本的にカテネーションを起こした炭素の構造('''カテネー''' {{lang-en-short|'''catenae'''}} とも呼ばれる)を調べる学問だと言える。しかし、炭素がカテネーを形成する唯一の元素であるわけではまったくなく、他にも[[ケイ素]]、[[硫黄]]、[[ホウ素]]などの[[典型元素]]が幅広いカテネーを形成できることが知られている。


元素がカテネーションを起こせるかどうかは基本的に自分自身との[[:en:Bond_energy|結合エネルギー]]によって決まる。結合エネルギーは、重なりあって結合を作る[[原子軌道]]がより拡がったもの(高い[[軌道角運動量|方位量子数]]を持つもの)のほうがより低くなる。したがって、最も拡がっていない価電子殻 p 軌道を持っている炭素はより重い元素よりも長い p-p σ結合原子鎖を形成することができる。カテネーション能は[[立体障害]]や、[[電気陰性度]]や[[分子軌道]]の混成などの電子的な因子によっても左右され、共有結合の種類によっても変化する。炭素の場合、隣接原子とのσ結合が十分強く、安定な原子鎖を完全に形成できる。別の元素の場合、反証が山程あるにもかかわらずかつてはこれが極端に難しいことだとされておいた。
元素がカテネーションを起こせるかどうかは基本的に自分自身との{{仮リンク|結合エネルギー|en|Bond_energy}}によって決まる。結合エネルギーは、重なりあって結合を作る[[原子軌道]]がより拡がったもの(高い[[軌道角運動量|方位量子数]]を持つもの)のほうがより低くなる。したがって、最も拡がっていない価電子殻 p 軌道を持っている炭素はより重い元素よりも長い p-p σ結合原子鎖を形成することができる。カテネーション能は[[立体障害]]や、[[電気陰性度]]や[[分子軌道]]の混成などの電子的な因子によっても左右され、共有結合の種類によっても変化する。炭素の場合、隣接原子とのσ結合が十分強く、安定な原子鎖を完全に形成できる。別の元素の場合、反証が山程あるにもかかわらずかつてはこれが極端に難しいことだとされておいた。


硫黄の有用な化学的性質の大部分はカテネーションによる。自然状態では、硫黄は S<sub>8</sub> 分子の形で存在する。この環は熱すると開裂し、別の環と結合してどんどん長い原子鎖を形成する。このことは、鎖が長くなるにつれて徐々に高くなる[[粘性|粘度]]から立証できる。[[セレン]]や[[テルル]]もこのような構造の変種を示す。
硫黄の有用な化学的性質の大部分はカテネーションによる。自然状態では、硫黄は {{Chem|S|8}} 分子の形で存在する。この環は熱すると開裂し、別の環と結合してどんどん長い原子鎖を形成する。このことは、鎖が長くなるにつれて徐々に高くなる[[粘性|粘度]]から立証できる。[[セレン]]や[[テルル]]もこのような構造の変種を示す。


ケイ素は別のケイ素原子とσ結合を形成することができる([[ジシラン]]がこの類の化合物の祖である)。しかし、 Si<sub>n</sub>H<sub>2n+2</sub> 分子(飽和炭化水素アルカンに相当)を調製および分離するのは n がおよそ 8 よりも大きくなると困難になる。これはその熱力学安定性がケイ素原子の増加につれて低下するためである。ジシランよりも重いポリシランは [[:en:Polysilicon_hydride|水素化ポリシリコン]]と水素に分解する<ref>W. W. Porterfield, Inorganic Chemistry: A Unified Approach, 2nd Ed.", Academic Press (1993), p. 219.</ref><ref>Inorganic Chemistry, Holleman-Wiberg, John Wiley & Sons (2001) p. 844.</ref>。しかし、適切な有機置換基で水素を置換すれば、アルカンに相当する[[:en:Silanes|ポリシラン]](ときたま間違ってポリシレン polysilenes とも呼ばれる)を調製することが可能である。これらの長鎖化合物は、鎖にそった電子の非局在化に起因する驚くべき電気的特性(高い電気伝導度など)を示す<ref><cite class="citation journal">Miller, R. D.; Michl, J. (1989). </cite></ref>。
ケイ素は別のケイ素原子とσ結合を形成することができる([[ジシラン]]がこの類の化合物の祖である)。しかし、 {{Chem|Si|n|H|2n+2}} 分子(飽和炭化水素アルカンに相当)を調製および分離するのは n がおよそ 8 よりも大きくなると困難になる。これはその熱力学安定性がケイ素原子の増加につれて低下するためである。ジシランよりも重いポリシランは {{仮リンク|水素化ポリシリコン|en|Polysilicon_hydride}}と水素に分解する<ref>W. W. Porterfield, Inorganic Chemistry: A Unified Approach, 2nd Ed.", Academic Press (1993), p. 219.</ref><ref>Inorganic Chemistry, Holleman-Wiberg, John Wiley & Sons (2001) p. 844.</ref>。しかし、適切な有機置換基で水素を置換すれば、アルカンに相当する{{仮リンク|シラン類|label=ポリシラン|en|Silanes}}(ときたま間違ってポリシレン polysilenes とも呼ばれる)を調製することが可能である。これらの長鎖化合物は、鎖にそった電子の非局在化に起因する驚くべき電気的特性(高い電気伝導度など)を示す<ref>{{Cite journal | last1 = Miller | first1 = R. D. | last2 = Michl | first2 = J. | doi = 10.1021/cr00096a006 | title = Polysilane high polymers | journal = [[Chemical Reviews]]| volume = 89 | issue = 6 | pages = 1359 | year = 1989 | pmid = | pmc = }}</ref>。


(有機置換基のついた)リン鎖も調製されているが、非常に壊れやすい。小さな環状化合物やクラスタがより一般的である。
(有機置換基のついた)リン鎖も調製されているが、非常に壊れやすい。小さな環状化合物やクラスタがより一般的である。


ケイ素–ケイ素π結合も可能である。しかし、これらの結合は炭素の場合よりも安定性に欠ける。 [[ジシラン]]は[[エタン]]と比べて極めて反応性が高い。ジシレンは[[アルケン]]とは違って非常に稀である。長らく、不安定なため単離不可能と考えられてきた[[:en:Disilyne|ジシリン]]<ref><cite class="citation journal">Karni, M.; Apeloig, Y. (January 2002). </cite></ref>の例が2004年に報告された<ref><cite class="citation journal">Akira Sekiguchi; Rei Kinjo; Masaaki Ichinohe (September 2004). </cite></ref>。
ケイ素–ケイ素π結合も可能である。しかし、これらの結合は炭素の場合よりも安定性に欠ける。 [[ジシラン]]は[[エタン]]と比べて極めて反応性が高い。ジシレンは[[アルケン]]とは違って非常に稀である。長らく、不安定なため単離不可能と考えられてきた{{仮リンク|ジシリン|en|Disilyne}}<ref>{{cite journal| journal= Silicon Chemistry |volume= 1 |issue= 1|date=January 2002 |pages= 59–65 |author1=Karni, M. |author2=Apeloig, Y. |title= The quest for a stable silyne, RSi≡CR′. The effect of bulky substituents |doi= 10.1023/A:1016091614005 }}</ref>の例が2004年に報告された<ref>{{cite journal | title = A Stable Compound Containing a Silicon-Silicon Triple Bond |author1=Akira Sekiguchi |author2=Rei Kinjo |author3=Masaaki Ichinohe | journal = Science |date=September 2004 | volume = 305 | issue = 5691 | pages = 1755–1757 | doi = 10.1126/science.1102209 | pmid = 15375262 |bibcode = 2004Sci...305.1755S }}[http://people.ok.ubc.ca/wsmcneil/339/Sci2004.pdf]</ref>。


近年、ケイ素、[[ゲルマニウム]]、[[ヒ素]]、[[ビスマス]]など様々な[[半金属]]元素間の二重・三重結合が報告されている。特定の典型元素のカテネーション能は[[:en:Inorganic_polymer|無機高分子]]の分野で研究が進められている。
近年、ケイ素、[[ゲルマニウム]]、[[ヒ素]]、[[ビスマス]]など様々な[[半金属]]元素間の二重・三重結合が報告されている。特定の典型元素のカテネーション能は{{仮リンク|無機高分子|en|Inorganic_polymer}}の分野で研究が進められている。


== 出典 ==
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== References ==
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[[Category:有機化学]]
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2016年10月26日 (水) 22:35時点における版

カテネーション (: Catenation) とは、同種元素の原子が長鎖状に結合することを指す用語である。最も良く知られているカテネーションの例は炭素原子によるもので、共有結合により多数の炭素が結合して長鎖および構造を作る。このことが自然界に膨大な種類の有機化合物が存在する理由である。炭素はそのカテネーションの性質が最も良く知られている元素であり、有機化学は根本的にカテネーションを起こした炭素の構造(カテネー : catenae とも呼ばれる)を調べる学問だと言える。しかし、炭素がカテネーを形成する唯一の元素であるわけではまったくなく、他にもケイ素硫黄ホウ素などの典型元素が幅広いカテネーを形成できることが知られている。

元素がカテネーションを起こせるかどうかは基本的に自分自身との結合エネルギーによって決まる。結合エネルギーは、重なりあって結合を作る原子軌道がより拡がったもの(高い方位量子数を持つもの)のほうがより低くなる。したがって、最も拡がっていない価電子殻 p 軌道を持っている炭素はより重い元素よりも長い p-p σ結合原子鎖を形成することができる。カテネーション能は立体障害や、電気陰性度分子軌道の混成などの電子的な因子によっても左右され、共有結合の種類によっても変化する。炭素の場合、隣接原子とのσ結合が十分強く、安定な原子鎖を完全に形成できる。別の元素の場合、反証が山程あるにもかかわらずかつてはこれが極端に難しいことだとされておいた。

硫黄の有用な化学的性質の大部分はカテネーションによる。自然状態では、硫黄は S8 分子の形で存在する。この環は熱すると開裂し、別の環と結合してどんどん長い原子鎖を形成する。このことは、鎖が長くなるにつれて徐々に高くなる粘度から立証できる。セレンテルルもこのような構造の変種を示す。

ケイ素は別のケイ素原子とσ結合を形成することができる(ジシランがこの類の化合物の祖である)。しかし、 SinH2n+2 分子(飽和炭化水素アルカンに相当)を調製および分離するのは n がおよそ 8 よりも大きくなると困難になる。これはその熱力学安定性がケイ素原子の増加につれて低下するためである。ジシランよりも重いポリシランは 水素化ポリシリコン英語版と水素に分解する[1][2]。しかし、適切な有機置換基で水素を置換すれば、アルカンに相当するポリシラン英語版(ときたま間違ってポリシレン polysilenes とも呼ばれる)を調製することが可能である。これらの長鎖化合物は、鎖にそった電子の非局在化に起因する驚くべき電気的特性(高い電気伝導度など)を示す[3]

(有機置換基のついた)リン鎖も調製されているが、非常に壊れやすい。小さな環状化合物やクラスタがより一般的である。

ケイ素–ケイ素π結合も可能である。しかし、これらの結合は炭素の場合よりも安定性に欠ける。 ジシランエタンと比べて極めて反応性が高い。ジシレンはアルケンとは違って非常に稀である。長らく、不安定なため単離不可能と考えられてきたジシリン英語版[4]の例が2004年に報告された[5]

近年、ケイ素、ゲルマニウムヒ素ビスマスなど様々な半金属元素間の二重・三重結合が報告されている。特定の典型元素のカテネーション能は無機高分子英語版の分野で研究が進められている。

出典

  1. ^ W. W. Porterfield, Inorganic Chemistry: A Unified Approach, 2nd Ed.", Academic Press (1993), p. 219.
  2. ^ Inorganic Chemistry, Holleman-Wiberg, John Wiley & Sons (2001) p. 844.
  3. ^ Miller, R. D.; Michl, J. (1989). “Polysilane high polymers”. Chemical Reviews 89 (6): 1359. doi:10.1021/cr00096a006. 
  4. ^ Karni, M.; Apeloig, Y. (January 2002). “The quest for a stable silyne, RSi≡CR′. The effect of bulky substituents”. Silicon Chemistry 1 (1): 59–65. doi:10.1023/A:1016091614005. 
  5. ^ Akira Sekiguchi; Rei Kinjo; Masaaki Ichinohe (September 2004). “A Stable Compound Containing a Silicon-Silicon Triple Bond”. Science 305 (5691): 1755–1757. Bibcode2004Sci...305.1755S. doi:10.1126/science.1102209. PMID 15375262. [1]