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'''ダニ媒介性脳炎''' (Tick-borne encephalitis, TBE) は[[中枢神経系]]における[[ウイルス感染症]]である。この疾患はほとんどの場合髄膜炎、脳炎、もしくは髄膜脳炎として表れる。また、ほとんどの場合は神経障害として認識されるが、軽い熱として起きることもある。長期、もしくは永続的な麻痺の頻度は感染患者の10-20%でみられる。
'''ダニ媒介性脳炎''' (Tick-borne encephalitis, TBE) は[[中枢神経系]]における[[ウイルス感染症]]である。この疾患はほとんどの場合髄膜炎、脳炎、もしくは髄膜脳炎として表れる。また、ほとんどの場合は神経障害として認識されるが、軽い熱として起きることもある。長期、もしくは永続的な麻痺の頻度は感染患者の10-20%でみられる。
新規患者数はほとんどの国で増加している<ref name="pmid18761916">{{cite journal |author=Suss J |title=Tick-borne encephalitis in Europe and beyond--the epidemiological situation as of 2007 |journal=Euro Surveill. |volume=13 |issue=26 |pages= |year=2008 |month=June |pmid=18761916 |doi= |url=http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=18916}}</ref>。
新規患者数はほとんどの国で増加している。
原因ウイルスであるダニ媒介性脳炎ウイルス(Tick-borne encephalitis virus;TBEV)は広い宿主域を持ち、[[反芻動物]]、鳥類、げっ歯類、肉食動物、馬、人に感染する。この感染症は[[人獣共通感染症]]であり、反芻動物や犬が人への感染源となり得る。
原因ウイルスであるダニ媒介性脳炎ウイルス(Tick-borne encephalitis virus;TBEV)は広い宿主域を持ち、[[反芻動物]]、鳥類、げっ歯類、肉食動物、馬、人に感染する。この感染症は[[人獣共通感染症]]であり、反芻動物や犬が人への感染源となり得る<ref name="WikiVet">[http://en.wikivet.net/Tickborne_Encephalitis_Virus Tickborne Encephalitis Virus] reviewed and published by [[WikiVet]], accessed 12 October 2011.</ref>


==症状==
==症状==
TBEVは脳、髄膜、あるいはそれら両方に感染しうる。一般的に死亡率は1-2%であり、一連の神経症状が表れてから5~7日後に死亡する。
TBEVは脳、髄膜、あるいはそれら両方に感染しうる<ref name="pmid18755391">{{cite journal |author=Kaiser R |title=Tick-borne encephalitis |journal=Infect. Dis. Clin. North Am. |volume=22 |issue=3 |pages=561–75, x |year=2008 |month=September |pmid=18755391 |doi=10.1016/j.idc.2008.03.013 |url=http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0891-5520(08)00027-5}}</ref>。一般的に死亡率は1-2%であり、一連の神経症状が表れてから5~7日後に死亡する。


犬の場合、神経症状は単なる振せん(震え)から痙攣や死亡にまで及ぶ。
犬の場合、神経症状は単なる振せん(震え)から痙攣や死亡にまで及ぶ<ref name="WikiVet"/>


反芻動物の場合も神経症状が表れ、さらに食欲不振、元気消失、呼吸器症状などとして表れることもある。
反芻動物の場合も神経症状が表れ、さらに食欲不振、元気消失、呼吸器症状などとして表れることもある<ref name="WikiVet"/>


==媒介==
==媒介==
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この感染症は''[[:en:Ixodes scapularis]]''、''[[:en:Ixodes ricinus]]''、''[[シュルツェマダニ|Ixodes persulcatus]]'' などの[[マダニ]]によって噛まれることで媒介される他<ref name="pmid10825054">{{cite journal |author=Dumpis U, Crook D, Oksi J |title=Tick-borne encephalitis |journal=Clin. Infect. Dis. |volume=28 |issue=4 |pages=882–90 |year=1999 |month=April |pmid=10825054 |doi=10.1086/515195}}</ref>、極めて稀ではあるが、感染牛のノンパスチャライズ牛乳を飲むことによっても感染することがある。


==病原体==
==病原体==
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==診断==
==診断==
TBEVは血清試験で陰性となる系統、亜型があり、このような場合は脳脊髄液中における[[IFN|IFN-γ]]の増加が指標となる。ウイルス抗原は脳組織から検出できる。血清学的検査はELISAにより行う。
TBEVは血清試験で陰性となる系統、亜型があり、このような場合は脳脊髄液中における[[IFN|IFN-γ]]の増加が指標となる。ウイルス抗原は脳組織から検出できる。血清学的検査はELISAにより行う<ref name="WikiVet"/>


==治療と予防==
==治療と予防==
この感染症は発症した場合治療法はなく、特異的な薬物療法は存在しない。脳損傷の兆候がみられた場合入院が必要であり、症状の重篤度に応じ支持療法を行う。症状緩和のため、副腎皮質ホルモンのような抗炎症剤が検討されることもある。場合によっては気管挿菅と人工呼吸器が必要となる。
この感染症は発症した場合治療法はなく、特異的な薬物療法は存在しない。脳損傷の兆候がみられた場合入院が必要であり、症状の重篤度に応じ支持療法を行う。症状緩和のため、副腎皮質ホルモンのような抗炎症剤が検討されることもある。場合によっては気管挿菅と人工呼吸器が必要となる。
しかしながら、TBEは[[ワクチン]]による予防が可能である。また、マダニに噛まれることを予防することもTBEの予防策に含まれる。ヨーロッパでのTBEワクチンは非常に効果的で多くの流行地域で利用可能である
しかしながら、TBEは[[ワクチン]]による予防が可能である。また、マダニに噛まれることを予防することもTBEの予防策に含まれる。ヨーロッパでのTBEワクチンは非常に効果的で多くの流行地域で利用可能である<ref>{{cite journal |author=Demicheli V, Debalini MG, Rivetti A |title=Vaccines for preventing tick-borne encephalitis |journal=Cochrane Database Syst Rev |issue=1 |pages=CD000977 |year=2009 |doi=10.1002/14651858.CD000977.pub2 |pmid=19160184}}</ref>
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2013年2月28日 (木) 07:16時点における版

ダニ媒介性脳炎 (Tick-borne encephalitis, TBE) は中枢神経系におけるウイルス感染症である。この疾患はほとんどの場合髄膜炎、脳炎、もしくは髄膜脳炎として表れる。また、ほとんどの場合は神経障害として認識されるが、軽い熱として起きることもある。長期、もしくは永続的な麻痺の頻度は感染患者の10-20%でみられる。 新規患者数はほとんどの国で増加している[1]。 原因ウイルスであるダニ媒介性脳炎ウイルス(Tick-borne encephalitis virus;TBEV)は広い宿主域を持ち、反芻動物、鳥類、げっ歯類、肉食動物、馬、人に感染する。この感染症は人獣共通感染症であり、反芻動物や犬が人への感染源となり得る[2]

症状

TBEVは脳、髄膜、あるいはそれら両方に感染しうる[3]。一般的に死亡率は1-2%であり、一連の神経症状が表れてから5~7日後に死亡する。

犬の場合、神経症状は単なる振せん(震え)から痙攣や死亡にまで及ぶ[2]

反芻動物の場合も神経症状が表れ、さらに食欲不振、元気消失、呼吸器症状などとして表れることもある[2]

媒介

この感染症はen:Ixodes scapularisen:Ixodes ricinusIxodes persulcatus などのマダニによって噛まれることで媒介される他[4]、極めて稀ではあるが、感染牛のノンパスチャライズ牛乳を飲むことによっても感染することがある。

病原体

TBEはフラビウイルス科フラビウイルス属のTBEVによる。この病原体は1937年に初めて分離された。3つの亜型が報告されている:

  • ヨーロッパダニ媒介性脳炎ウイルス
  • シベリアダニ媒介性脳炎ウイルス
  • 極東ダニ媒介性脳炎ウイルス(以前はロシア春夏脳炎ウイルスとして知られていた。)

ロシア及びヨーロッパの報告では年間5000-7000人に発生している。 旧ソ連ではTBEを含めたダニ媒介性感染症の研究が行われていた。

診断

TBEVは血清試験で陰性となる系統、亜型があり、このような場合は脳脊髄液中におけるIFN-γの増加が指標となる。ウイルス抗原は脳組織から検出できる。血清学的検査はELISAにより行う[2]

治療と予防

この感染症は発症した場合治療法はなく、特異的な薬物療法は存在しない。脳損傷の兆候がみられた場合入院が必要であり、症状の重篤度に応じ支持療法を行う。症状緩和のため、副腎皮質ホルモンのような抗炎症剤が検討されることもある。場合によっては気管挿菅と人工呼吸器が必要となる。 しかしながら、TBEはワクチンによる予防が可能である。また、マダニに噛まれることを予防することもTBEの予防策に含まれる。ヨーロッパでのTBEワクチンは非常に効果的で多くの流行地域で利用可能である[5]


脚注

  1. ^ Suss J (June 2008). “Tick-borne encephalitis in Europe and beyond--the epidemiological situation as of 2007”. Euro Surveill. 13 (26). PMID 18761916. http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=18916. 
  2. ^ a b c d Tickborne Encephalitis Virus reviewed and published by WikiVet, accessed 12 October 2011.
  3. ^ Kaiser R (September 2008). “Tick-borne encephalitis”. Infect. Dis. Clin. North Am. 22 (3): 561–75, x. doi:10.1016/j.idc.2008.03.013. PMID 18755391. http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0891-5520(08)00027-5. 
  4. ^ Dumpis U, Crook D, Oksi J (April 1999). “Tick-borne encephalitis”. Clin. Infect. Dis. 28 (4): 882–90. doi:10.1086/515195. PMID 10825054. 
  5. ^ Demicheli V, Debalini MG, Rivetti A (2009). “Vaccines for preventing tick-borne encephalitis”. Cochrane Database Syst Rev (1): CD000977. doi:10.1002/14651858.CD000977.pub2. PMID 19160184. 

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