コンテンツにスキップ

証明妨害の法理

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

証明妨害の法理(しょうめいぼうがいのほうり)とは、訴訟手続きにおいて、証明責任を負わない当事者が、挙証責任を負う当事者の証拠の収集・提出(立証)を困難にしたり、妨げた場合に、妨害された立証責任を負う当事者に対して、有利に取り扱う法理をいう。単に、立証妨害または証明妨害ともいう。

概要

[編集]

証明妨害の法的基礎は、事案の解明を損なう義務違反行為(不作為も含む)により、相手方の証拠提出を妨げる場合には、訴訟上の制裁をもって調整がはかられる[1] とされる。

これについては、法律に規定のある場合もあるが、それに限られない[2]

要件

[編集]
  • 客観的要件
  1. 広い意味での証拠保存義務違反、あるいは事案解明の協力義務に対する違反が、存在すること(義務違反)
  2. こうした義務違反によって、要件事実の解明不能が起こり(因果関係)、証明責任を負う者に事案の解明を期待し得ないこと[3]
  • 主観的要件
  1. 義務違反が、有責的な(schuldhaft)ものであること(帰責事由
  2. 義務違反行為が、公平な訴訟追行の要請に反するもの(規範的評価)[3]

法律に規定のある場合

[編集]
  • 民事訴訟法208条(当事者尋問に不出頭・陳述拒否した場合)
  • 民事訴訟法224条(当事者が文書提出命令に従わない場合)
  • 民事訴訟法232条1項・224条準用(当事者が検証目的の不提出・不送付の場合)

法律に規定のない場合

[編集]
裁判所は、要件事実の内容、妨害された証拠の内容や形態、他の証拠の確保の難易性、当該事案における妨害された証拠の重要性、経験則などを総合考慮して、事案に応じて、
  1. 挙証者の主張事実を、事実上推定するか、
  2. 証明妨害の程度に応じ、裁量的に挙証者の主張事実を真実として擬制するか、
  3. 挙証者の主張事実について、証明度の軽減を認めるか、
  4. 立証の転換をし、挙証者の主張の反対事実の立証責任を相手方に負わせるか
を決すべきである。

脚注

[編集]
  1. ^ 春日伊知郎・民事証拠法研究(1991年)「証明妨害」204ページ
  2. ^ 山木戸克己・民事訴訟法論集(有斐閣、1990年)「自由心証と挙証責任」59ページ
  3. ^ a b 春日伊知郎・民事証拠法研究(1991年)「証明妨害」208ページ