コンテンツにスキップ

ウィルソンループ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ゲージ理論では、ウィルソンループ(Wilson loop)(ケネス・ウィルソン(Kenneth G. Wilson)に因む)は、ゲージ不変観測量を与えられたループのゲージ接続ホロノミー英語版(holonomy)から得る。古典論では、ウィルソンループの集まりは、ゲージ変換を同一視したゲージ接続を再構成する十分な情報を構成する[1]

場の量子論では、ウィルソンループ観測量の定義は、フォック空間上の「善意の英語版(bona fide)」作用素である。(実際、ハーグの定理英語版(Haag's theorem)は、フォック空間は相互作用のある QFT に対しては存在しないという定理がある。)この定義は、数学的にはデリケートな問題であり、通常はフレーミングを持つ各々のループを備えた繰り込みが要求される。ウィルソン作用素の作用は、量子場の基本励起を作り出すことを解釈され、量子場はループへ局所化される。このようにして、マイケル・ファラデェー(Michael Faraday)の「フラックスチューブ」は量子電磁気場の基本励起となる。

ウィルソンループは、1970年代に量子色力学 (QCD) の非摂動的定式化の試み、少なくとも QCD の強い相互作用の領域を扱う一連の変数記法として導入された[2]。ウィルソンループは、クォークの閉じ込めの問題を解くことを意図し考案されたが、今日、未解決のままである。

強い相互作用を持つ量子場理論は、基本的な非摂動的励起をもっているという事実は、アレクサンダー・ポリヤコフ英語版(Alexander Polyakov)により、最初の弦理論を定式化するために提唱された。これは時空での基本量子のループの伝播を記述している。

ウィルソンループはループ量子重力理論の定式化で重要な役割を果たすが、そこでは、スピンネットワークに取って変わられ(後日、スピンフォアム英語版(spinfoam)となった)、ウィルソンループの一種の一般化となっている。

素粒子物理学弦理論において、ウィルソンループ、特にコンパクト多様体の非可縮なループの周りのウィルソンループは、ウィルソンライン(Wilson lines)とよく言われる。

方程式

[編集]

ウィルソンライン(Wilson line)変数 (あるいは、ウィルソンループ(Wilson loop)変数のほうがよいが、)、常に閉曲線として扱うので、C に沿って動くゲージ場 経路順序べき英語版(path-ordered exponential)のトレースにより定義された次の量である。

ここに、 は空間内の閉曲線であり、経路順序英語版(path-ordering)作用素である。ゲージ変換

,

であり、ここに は、ループの単に起点と終点に対応する(ラインの起点と終点のみが寄与することに対し、間にあるゲージ変換は互いにキャンセルする)。たとえば、SU(2) ゲージに対し、 となる。 の任意の実函数であり、 は 3つのパウリ行列(Pauli matrices)で、和は通常の繰り返しのインデックスを渡る和を意味する。

巡回置換(cyclic permutation)の下のトレースの不変性は、ゲージ変換の下で不変であることを保証する。トレースを取る量は、ゲージリー群の元で、ロレースは実際、無限に多い既約表現の指標に関して、この元の指標であることに注意する。このことは、作用素 が「トレースクラス」(従って、純粋離散スペクトル)へ限定するべきではないが、一般には通常通りエルミート的(数学的には自己随伴)である。詳しいは、最終的に観測している量はこのトレースであるので、どのループ上のどの点を起点とするかは問題ではない。それらの点はすべて同一の値を与える。

実際、A を主 G-バンドル上の接続形式とみなすと、上の方程式は実際、リー群 G の元を与えるループを回る単位元の平行移動と理解すべきである。

経路順序べきは、物理で共通に使われる便利な記法であるが、数学的な作用素の公正な値を秘匿している。数学者は接続の順序べきを「接続のホロノミー」として選び、ウィルソンループが満たすべき平行移動の微分方程式として特徴付けるであろう。

T=0 では、クォークの閉じ込め、あるいはゲージ不変な量子場理論の閉じ込めを解くこと、すなわち、変数が値の増加する「領域」か、ループの「周り」で逆になるかに従って、ウィルソンループ変数が特徴付けられる(「領域の中の法則」か「半径の法則」としても知られる「周囲の法則」となるか)。

有限温度の QCD において、ウィルソンループの熱的期待値は、と閉じ込められたハドロン相と場の閉じ込めの解かれた状態、つまりクォークグルーオンプラズマとを識別する。

参照項目

[編集]

参考文献

[編集]
  1. ^ Giles, R. (1981). “Reconstruction of Gauge Potentials from Wilson loops”. Physical Review D 24 (8): 2160. Bibcode1981PhRvD..24.2160G. doi:10.1103/PhysRevD.24.2160. 
  2. ^ Wilson, K. (1974). “Confinement of quarks”. Physical Review D 10 (8): 2445. Bibcode1974PhRvD..10.2445W. doi:10.1103/PhysRevD.10.2445.