大仏餅

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大仏餅(だいぶつもち)は古典落語の演目の一つ。大看板、三遊亭圓朝の創作落語(三題噺)とされている。

主な演者には、8代目桂文楽などがいる。

お題

  • 「大仏餅」
  • 「袴着の祝い」
  • 「新米の盲目乞食」

あらすじ

まずは、マクラでよく使われる小噺から。

大仏の目

奈良の大仏様』の片目がはずれ、腹の中に落っこちた。

人々がパニックになる中、一人の男が「修繕しましょう」と申し出る。

身軽な動きで大仏様に上り、目に開いた穴から中に入ると、腹の中に落ちている目玉を取ってきて眼窩にすぽっ!

「大仏様は直ったけど、あの人は閉じ込められちゃったよ!!」

如何するのかと見ていると、男が鼻の穴からにゅっと出てきた。

利口な人は、『目から鼻へ抜ける』のだとか。

本筋

ある冬の日。御徒町に店を構える、河内屋金兵衛の店先に襤褸をまとった少年がやってきた。

「おとっつぁんが怪我をしました。血止めにするので、煙草の粉を少々ください」

その父親と言うのは目が不自由らしく、息子にすがり辛うじて立っている。
同情した金兵衛は、親子を店の奥に上げ、傷薬を渡してあげた。

「ところで、息子の歳は何歳かね?」
「六つです」
「そうかい…」

金兵衛にも息子がいるが、甘やかして育てたせいか、我侭な性格に育ってしまっている。

「さっきも、子供の『袴着の祝い』をしていたんだが、好き嫌いが多くて大変だったよ。そうだ、残り物で申し訳ないのだが…もらって行くかね?」
「有難うございます。では、ここに…」

そういって乞食が差し出してきたのは、何と『朝鮮鈔羅(ちょうせんさはり)の水こぼし』という高級品。

「これを面桶の代わりに? 恐れ入ったな…」
「これは秘蔵品でございまして、零落しても売る気になれませんでした…」

その場で食事をすることになり、金兵衛の指示でお膳が運ばれてきた。

八百善ですか。私も以前は、よく食べていました…」

味付けに文句ばかりをいい、料理人を困らせた報いでこのザマです…と乞食は笑う。

「しかし…。零落しても、家宝だけは手放さないとは。貴方は真のお茶人だ。何処の門人だい?」
「川上宗治の門人でした」
「貴方の名前は?」
「大変いいにくいのですが…」

意を決した乞食が話し始める。

「私は、芝片門前に住まいおりました、神谷幸右衛門と申すものでございます」
「え!? あの神幸さん? お上のご用達をなさっていた…」  

変われば変わるものだ…と、金兵衛はしみじみとなった。

「そうだ。神幸さんには敵わないが、私も茶道をやっております。いかがでしょうか、一服立てますので、飲んでいただけませんか?」 「それは有難うございます」

『お茶請けに』と用意してもらった大仏餅を、息子に一つ取ってもらい、感涙に咽びながら一口…喉につかえた。

「つかえた? 大変だ…」

慌てた金兵衛が、幸右衛門の背中をドンと一突き。

「ウプッ…有難うござヒました…」
「お!? 貴方、目が開きましたよ!」
「本当だ。でも、代わりに鼻が…」
「無理もありませんよ。食べたのが大仏餅、目から鼻へ抜けたんです」

巨匠、最後の高座

落語家・8代目桂文楽が引退したきっかけは、1971年8月31日、国立劇場小劇場における第五次落語研究会でのある出来事だった。

その時、彼が演じていたのがこの噺である。詳しくは桂文楽 (8代目)#最後の高座を参照。