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気生藻

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気生藻(きせいそう、: aerial algae)とは、陸上の岩、樹皮、壁などの表面に付着し、雨、霧や露など大気中の自然現象による水の供給で生育する藻類である[1][2][3]

概要

気生藻という概念は20世紀初頭に認識されはじめ[4]、初期の研究としては、1907年にセイロン島で行われたもの[5]、1910年にドイツで採取されて1913年に論文発表されたもの等がある[6][7]

気生藻は基本的に単細胞生物糸状体である。主に原核生物である藍色植物門真核生物不等毛植物門緑藻植物門から構成される[8]

樹皮、岩、葉、コンクリート、ブロック塀、ガードレール、木材など、あらゆる基質に多様な種が付着している。地衣類と共生する種(スミレモなど)もある[9]。ホフマンは、気生藻を含む陸上に生育する藻類を付着基質ごとに、土壌藻類 (Soil Algae) 、岩生藻類 (Lithophytic Algae) 、洞くつ藻類 (Cave Algae) 、氷雪藻類 (Snow and Ice Algae) 、植物着生藻類 (Epiphytic Algae) 、動物着生藻類 (Epizooic Algae) と区分している[10]

藻類と陸上植物の中間的な存在であることから、ストレプト藻クレブソルミディウム藻綱のゲノム配列を解読した結果、強い光に適応する遺伝子植物ホルモンなど、植物が陸上に進出するための原始的なストレス応答システムの一部を獲得していることがわかっている[11]。気生藻の研究により生物の陸上進出の解明につながる可能性がある。

気生藻と似たものとして、大気中に浮遊する気中藻(airborne algae)がある。これは地域、時間、季節による変動が調べられている[12]が、種レベルでの同定はあまりされておらず、実態は不明である[9]。降雪中の緑藻類に関する報告では、トレボウクシア藻綱がほとんどで、とくにアパトコックスやクレブソルミディウムが出現されたという報告がある[13]。また、気中藻は気生藻を主体とすることが確認されており[13]、この気中藻は3門103属が確認されている[12]。この他、気中藻を含む陸上に生育する藍藻以外の藻類について、水中によく見られる種も含むが、1000種以上がまとめられ記録されている[14]

分布を広げる手段として、バクテリアや藻類の中には、水蒸気が水に凝縮されて雲の粒子ができる際、核として働く化合物を持っていたり、分泌することが報告されている[15]。気中藻は雲など大気中を漂って移動し、増殖に適した湿った環境に降り立ち広がると考えられる[16]

人間活動への影響としては、建物の外面に付着して汚染し、藻類が水分を保持することで、壁面のひび割れ・剥離の原因となってしまうことがある[17]。また、水分が多いため、真菌類もともに発育しやすく、健康障害の原因となる[17]

主な構成生物

モントレーサイプレスイトスギの一種)の樹皮に繁茂するスミレモ類。
石組表面の緑藻類

注釈

  1. ^ 半田, 2002, p.81
  2. ^ 福井県の絶滅のおそれのある野生植物 概説(淡水藻類)”. www.erc.pref.fukui.jp. 福井県. 2020年5月11日閲覧。
  3. ^ 気生藻 ブリタニカ国際大百科事典”. コトバンク. 朝日新聞. 2020年5月11日閲覧。
  4. ^ 広瀬弘幸、秋山優 (4 1966). “気生藻類および土壌藻類綜述 I”. 藻類 14 (1): 28-29. http://sourui.org/publications/sorui/list/Sourui_PDF/Sourui-14-01.pdf. 
  5. ^ F. E. Fritsch (1907-05-09). “A General Consideration of the Subaerial and Fresh-Water Algal Flora of Ceylon. A Contribution to the Study of Tropical Algal Ecology. Part I.--Subaerial Algoe and Algoe of the Inland Fresh-Waters”. Proceedings of the Royal Society of London. Series B 79 (531): 197-254. https://www.jstor.org/stable/80139. 
  6. ^ H. E. Schlichting Jr. (2012-05-16). “The Importance Of Airborne Algae and Protozoa”. Journal of the Air Pollution Control Association 19: 946-951. doi:10.1080/00022470.1969.10469362. 
  7. ^ Guadalupe Roy-Ocotla; Jorge Carrera (1993). “Aeroalgae: Responses to some aerobiological questions”. Grana 32 (1): 48–56. doi:10.1080/00173139309436419. 
  8. ^ 千原光雄編「バイオディバーシティ・シリーズ 3 藻類の多様性と系統」,P.2, 裳華房, 1999年
  9. ^ a b c d e f 半田信司 (2017-07-10). “気生藻の分類と生態(1)ー講義編ー”. 藻類 (日本藻類学会) 65 (2): 111-113. http://sourui.org/publications/sorui/list/Sourui_PDF/Sourui-65-02-111.pdf. 
  10. ^ Lucien Hoffmann (4 1989). “Algae of terrestrial habitats”. The Botanical Review 55: 77–105. doi:10.1007/BF02858529. 
  11. ^ 藻類から陸上植物への進化をつなぐ車軸藻植物のゲノム配列を解読”. 東京工業大学. 2020年5月11日閲覧。
  12. ^ a b Naveen K. Sharma, Ak Rai, Surendra Singh, Richard Malcolm Brown Jr (8 2007). “Airborne algae: Their present status and relevance”. Journal of Phycology 43 (4): 615-627. doi:10.1111/j.1529-8817.2007.00373.x. 
  13. ^ a b 半田信司・大村嘉人・中野武登・中原 - 坪田美保, 「降雪に含まれる大気中の微細緑藻類」, Hikobia 15, 2007, 109–120.
  14. ^ Hanus Ettl, Georg Gärtner「Bestimmungsschlüssel für 260 Gattungen und mehr als 1000 Arten aero-terrestrischer Algen und eukaryontischen Flechtenalgen」, Springer Spektrum, 2014年、ISBN 978-3-642-39461-4
  15. ^ W.D. Hamilton, T.M. Lenton (1998). “Spora and Gaia: how microbes fly with their clouds”. Ethology Ecology & Evolution 10 (1): 1-16. doi:10.1080/08927014.1998.9522867. 
  16. ^ 幸島司郎 (2010). “空を巡る微生物”. エアロゾル研究 25 (1). doi:10.11203/jar.25.43. 
  17. ^ a b 中嶋, p.1
  18. ^ a b 半田, 2002, p.83

参考文献

関連項目