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'''アセトスポラ'''(Ascetosporea、ギリシャ語 ''asketos'' 奇妙な + ''spora'' 胞子)は主として海産[[無脊椎動物]]に[[寄生]]する[[原生生物]]の一群である。'''略胞子虫'''(Haplosporidia)類と'''パラミクサ'''(Paramyxea)類の2群がありいずれも変わった構造の[[胞子]]を作るが、形態的に特に似ているというわけではないため一つの分類群にまとめることには異論も多い。
'''アセトスポラ'''(Ascetosporea、ギリシャ語 ''asketos'' 凝った造りの + ''spora'' 胞子)は主として海産[[無脊椎動物]]に[[寄生]]する[[原生生物]]の一群である。'''略胞子虫'''(Haplosporidia)類と'''パラミクサ'''(Paramyxea)類の2群がありいずれも変わった構造の[[胞子]]を作るが、形態的に特に似ているというわけではないため一つの分類群にまとめることには異論も多い。


==略胞子虫==
==略胞子虫==
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:寄生性の[[吸虫]]類に寄生(超寄生)するものが多い。8種。
:寄生性の[[吸虫]]類に寄生(超寄生)するものが多い。8種。
;''Bonamia''
;''Bonamia''
:カキの寄生虫。''B. ostreae''、''B. exitiosa''などボナミア症の病原体。4種。
:カキの血球に感染する寄生虫。''B. ostreae''、''B. exitiosa''などボナミア症の病原体。4種。


==パラミクサ==
==パラミクサ==
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:貝類の寄生虫。''M. refringens''(Aber病)、''M. sydneyi''(QX病)などカキの病原体。マルテイリア症。5種。
:貝類の寄生虫。''M. refringens''(Aber病)、''M. sydneyi''(QX病)などカキの病原体。マルテイリア症。5種。
;''Marteilioides''
;''Marteilioides''
:貝類の寄生虫。2種。
:貝類の寄生虫。''M. chungmuensis''はマガキ卵巣肥大症の病原体。2種。
;''Paramarteilia''
;''Paramarteilia''
:甲殻類の寄生虫。''Paramarteilia orchestiae'' 1種。
:甲殻類の寄生虫。''Paramarteilia orchestiae'' 1種。

2006年9月4日 (月) 13:57時点における版

アセトスポラ(Ascetosporea、ギリシャ語 asketos 凝った造りの + spora 胞子)は主として海産無脊椎動物寄生する原生生物の一群である。略胞子虫(Haplosporidia)類とパラミクサ(Paramyxea)類の2群がありいずれも変わった構造の胞子を作るが、形態的に特に似ているというわけではないため一つの分類群にまとめることには異論も多い。

略胞子虫

宿主は普通は海産の軟体動物環形動物だが、ホヤ・カニ・ウミユリなどほかの動物や淡水種に感染するものもある。略胞子虫類で生活環が完全に解明された種はまだなく、未発見の中間宿主がいるのではないかと考えられている。おそらく摂食の際に胞子を取り込むことで感染し、上皮や結合組織で胞子からアメーバ状の細胞が放出され、多核の変形体を生じる。胞子形成の途中で2核が融合していると思われ、その直後に減数分裂を行っている。細胞のみが分裂して核を含む細胞の回りを無核の細胞質が包み込み、その内面に壁が発達するという方法で胞子が形成されると考えられている。したがって単核の胞子細胞の周りにはまず間隙があり、次いで壁、最後に細胞質が一番外側に存在するという特殊な構造になっている。胞子の一端には開口部があり蓋でふさがっている。極嚢や極糸、アピカルコンプレックスのような構造は見られない。

少なくとも36種が知られている。胞子の開口部などの構造に注目して3属に分けていたが、分子系統解析によって胞子の知られていないBonamia属が含められるようになった。これ以外にClaustrosporidium属(2種)が近縁ではないかと言われている。

Haplosporidium
宿主は幅広い。H. nelsoni(MSX病)、H. costale(SSO病)がアメリカガキの病原体として著名。ハプロスポリジウム症。20種以上。
Minchinia
貝類の寄生虫。Haplosporidiumとの区別には議論があり、上記2種も以前はMinchinia属に含められていた。4種。
Urosporidium
寄生性の吸虫類に寄生(超寄生)するものが多い。8種。
Bonamia
カキの血球に感染する寄生虫。B. ostreaeB. exitiosaなどボナミア症の病原体。4種。

パラミクサ

パラミクサ類は海産無脊椎動物の消化管や生殖腺の中で発育し、細胞内で出芽を繰り返して入れ子になった多細胞性の胞子を作る。中間宿主が存在すると考えられている。

10種が知られている。細胞内への出芽を何段階繰り返すかなど、胞子の入れ子構造によって5属に分けられている。

Marteilia
貝類の寄生虫。M. refringens(Aber病)、M. sydneyi(QX病)などカキの病原体。マルテイリア症。5種。
Marteilioides
貝類の寄生虫。M. chungmuensisはマガキ卵巣肥大症の病原体。2種。
Paramarteilia
甲殻類の寄生虫。Paramarteilia orchestiae 1種。
Paramyxa
多毛類の寄生虫。Paramyxa paradoxa 1種。
Paramyxoides
多毛類の寄生虫。Paramyxoides nephtys 1種。

単系統性

19世紀末に略胞子虫類が認識されて以来その分類学的位置には議論が多かったが、ともかく1970年代までは胞子虫に含められていた。しかし電子顕微鏡による微細構造観察によって胞子虫の分割が確定的になり、1979年に略胞子虫類とパラミクサ類を合わせてアセトスポラ門(phylum Ascetospora)という独立した門に置くことが提唱された。これは1980年の国際的合意体系(Levine et al.)にも採用されたのだが、その後批判が多く事実上放棄され、それぞれ別の門として取り扱われるようになった。

1990年代以降これらの生物でも分子系統解析が行われるようになったが、安定な結果が得られるには至っていない。まず略胞子虫類については、アルベオラータに入ったり、細胞性粘菌と近縁とされたりしていたが、21世紀に入って得られたケルコゾア門の根元付近という結果が妥当だろうと考えられている。一方パラミクサ類については未だに確定的と言える結果が出ておらず、略胞子虫類とパラミクサ類との単系統性には懐疑的な意見が強い。

参考文献

  • Adl, S. M. et al. (2005). “The New Higher Level Classification of Eukaryotes with Emphasis on the Taxonomy of Protists”. Journal of Eukaryotic Microbiology 52 (5): 399-451.  PDF available
  • Burreson, E. M. and Ford, S. E. (2004). “A review of recent information on the Haplosporidia, with special reference to Haplosporidium nelsoni (MSX disease)”. Aquatic Living Resources 17 (4): 499-517.  PDF available
  • Levine, N. D. et al. (1980). “A newly revised classification of the protozoa”. Journal of Protozoology 27: 37-58.  PMID 6989987
  • Hausmann, K., Hülsmann, N., Radek, R. Protistology, 3rd ed., E. Schweizerbart'sche Verlagsbuchhandlung, Berlin, 2003. ISBN 3-510-65208-8
  • 猪木正三監修 『原生動物図鑑』 講談社、1981年。ISBN 4-06-139404-5