「円偏光二色性」の版間の差分

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'''円偏光二色性'''(えんへんこうにしょくせい)とは、その内部構造が[[キラル]]な物質が[[円偏光]]を吸収する際に左円偏光と右円偏光に対して[[吸光度]]に差が生じる現象のことである。
光学活性化合物は透過した[[偏光]]の偏光面を回転させる[[偏光|旋光性]]を持つとともに、当てる光がどちらの円偏光であるかによってその[[吸光度]]も異なる。このことを'''円偏光二色性'''(えんへんこうにしょくせい、'''C'''ircular '''D'''ichroism CD)と呼び、光学活性化合物の[[鏡像体過剰率|光学純度]]の測定に用いられる。
'''円二色性'''(えんにしょくせい)あるいは'''CD'''(Circular Dichroismの略)とも呼ばれている。
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==円偏光二色性==
直線[[偏光]]は同じ振幅を持つ左円偏光と右円偏光の和と見なすことができる。
そのため、直線偏光が円偏光二色性を持つ物質中を通過すると、その直線偏光を構成していた左円偏光と右円偏光に振幅の差が生じるため楕円偏光に変化する。
また、さらに[[旋光性]]により楕円の軸の回転も起こる。

旋光性が任意の波長で見られるのに対して、円偏光二色性はその物質が吸収する波長でしか見られない。

円偏光二色性の大きさは、左円偏光に対する吸光度A<sub>L</sub>から右円偏光に対する吸光度A<sub>R</sub>を円二色性吸光度&Delta;A = A<sub>L</sub> - A<sub>R</sub>で表される。
もしくは、tan&theta;が楕円偏光の短軸での振幅の長軸での振幅に対する比となるような楕円率&theta;で表される。

1対の鏡像異性の関係にある物質について、旋光度と同様に円偏光二色性は絶対値が等しく逆の符号になる。

左右円偏光の吸光度にはランバート・ベールの法則が成立するから、円二色性吸光度にも[[ランバート・ベールの法則]]が成立する。
すなわち濃度c、光路長lとしたとき&Delta;A = &Delta;&epsilon;clが成り立つ。
濃度cの単位としてmol/dm<sup>3</sup>、光路長lの単位としてcmをとったときの&Delta;&epsilon;をモル円二色性という。

また、楕円率&theta;は濃度c、光路長l(単位としてdm)に比例する。
濃度cの単位としてg/100mL、光路長lの単位としてdmをとったときに[&theta;'] = 100&theta;/clで表される[&theta;']は比楕円率と呼ばれる。
また濃度cの単位をmol/100mL、光路長lの単位としてdmをとったときに[&theta;] = &theta;/clで表される[&theta;]はモル楕円率と呼ばれる。
比楕円率とモル楕円率の間には[&theta;] = [&theta;']・M/100の関係がある。

また、モル円二色性とモル楕円率の間には[&theta;] = 18000/4&pi;log<sub>10</sub>e・&Delta;&epsilon; ≒ 3298&Delta;&epsilon;の関係がある。

ある物質の物性値としてはモル円二色性かモル楕円率が採用されることが多い。

==円偏光二色性スペクトル==
円偏光の波長に対して、円偏光二色性の大きさ(通常はモル吸光係数)をプロットしたものを'''円偏光二色性スペクトル'''(あるいは'''円二色性スペクトル'''、'''CDスペクトル''')という。

円偏光二色性スペクトルが正のピークを持つとき、これを'''正のコットン効果'''(Cotton効果)、負のピークを持つときこれを'''負のコットン効果'''という。

また化合物によってはコットン効果の符号と大きさを理論的に計算することができる。
これにより[[立体配置|絶対立体配置]]を決定することが可能である。

==旋光分散との関係==
'''旋光分散'''は偏光の波長の変化につれて旋光度が変化する現象のことである。
物質の屈折率を複素数で表した場合、旋光性は左右円偏光に対する屈折率の違いによるものであり複素屈折率の実部で表される。
これに対し、左右円偏光の吸収の差である円偏光二色性は複素屈折率の虚部で表すことができる。
このような複素屈折率においては、全波長における実部が分かれば虚部が、逆に全波長における虚部が分かれば実部を計算することができる(クラマース・クローニッヒの関係式)。

すなわち旋光分散スペクトルと円偏光二色性スペクトルはどちらか一方を測定すればもう一方は計算で求めることができる。
そのため、現在では旋光分散スペクトルはほとんど測定されず、円偏光二色性スペクトルが測定されるようになっている。

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[[en:Circular_dichroism]]

2005年4月17日 (日) 11:52時点における版

円偏光二色性(えんへんこうにしょくせい)とは、その内部構造がキラルな物質が円偏光を吸収する際に左円偏光と右円偏光に対して吸光度に差が生じる現象のことである。 円二色性(えんにしょくせい)あるいはCD(Circular Dichroismの略)とも呼ばれている。

円偏光二色性

直線偏光は同じ振幅を持つ左円偏光と右円偏光の和と見なすことができる。 そのため、直線偏光が円偏光二色性を持つ物質中を通過すると、その直線偏光を構成していた左円偏光と右円偏光に振幅の差が生じるため楕円偏光に変化する。 また、さらに旋光性により楕円の軸の回転も起こる。

旋光性が任意の波長で見られるのに対して、円偏光二色性はその物質が吸収する波長でしか見られない。

円偏光二色性の大きさは、左円偏光に対する吸光度ALから右円偏光に対する吸光度ARを円二色性吸光度ΔA = AL - ARで表される。 もしくは、tanθが楕円偏光の短軸での振幅の長軸での振幅に対する比となるような楕円率θで表される。

1対の鏡像異性の関係にある物質について、旋光度と同様に円偏光二色性は絶対値が等しく逆の符号になる。

左右円偏光の吸光度にはランバート・ベールの法則が成立するから、円二色性吸光度にもランバート・ベールの法則が成立する。 すなわち濃度c、光路長lとしたときΔA = Δεclが成り立つ。 濃度cの単位としてmol/dm3、光路長lの単位としてcmをとったときのΔεをモル円二色性という。

また、楕円率θは濃度c、光路長l(単位としてdm)に比例する。 濃度cの単位としてg/100mL、光路長lの単位としてdmをとったときに[θ'] = 100θ/clで表される[θ']は比楕円率と呼ばれる。 また濃度cの単位をmol/100mL、光路長lの単位としてdmをとったときに[θ] = θ/clで表される[θ]はモル楕円率と呼ばれる。 比楕円率とモル楕円率の間には[θ] = [θ']・M/100の関係がある。

また、モル円二色性とモル楕円率の間には[θ] = 18000/4πlog10e・Δε ≒ 3298Δεの関係がある。

ある物質の物性値としてはモル円二色性かモル楕円率が採用されることが多い。

円偏光二色性スペクトル

円偏光の波長に対して、円偏光二色性の大きさ(通常はモル吸光係数)をプロットしたものを円偏光二色性スペクトル(あるいは円二色性スペクトルCDスペクトル)という。

円偏光二色性スペクトルが正のピークを持つとき、これを正のコットン効果(Cotton効果)、負のピークを持つときこれを負のコットン効果という。

また化合物によってはコットン効果の符号と大きさを理論的に計算することができる。 これにより絶対立体配置を決定することが可能である。

旋光分散との関係

旋光分散は偏光の波長の変化につれて旋光度が変化する現象のことである。 物質の屈折率を複素数で表した場合、旋光性は左右円偏光に対する屈折率の違いによるものであり複素屈折率の実部で表される。 これに対し、左右円偏光の吸収の差である円偏光二色性は複素屈折率の虚部で表すことができる。 このような複素屈折率においては、全波長における実部が分かれば虚部が、逆に全波長における虚部が分かれば実部を計算することができる(クラマース・クローニッヒの関係式)。

すなわち旋光分散スペクトルと円偏光二色性スペクトルはどちらか一方を測定すればもう一方は計算で求めることができる。 そのため、現在では旋光分散スペクトルはほとんど測定されず、円偏光二色性スペクトルが測定されるようになっている。