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[[Image:L-selenocysteine-2D-skeletal.png|thumb|セレノシステインの構造式]]
'''セレノシステイン'''('''Selenocysteine''')は[[アミノ酸]]の一種である。3文字表記は'''Sec'''、1文字表記は'''U'''。[[システイン]]に似た構造を持つが、システインの[[硫黄]]が'''[[セレン]]に置き換わっている'''。セレノシステインを含む[[タンパク質]]は'''セレノプロテイン'''と呼ばれる。
'''セレノシステイン''' (selenocysteine) は[[アミノ酸]]の一種である。3文字表記は '''Sec'''、1文字表記は '''U'''。[[システイン]]に似た構造を持つが、システインの[[硫黄]] (S) が[[セレン]] (Se) に置き換わっている。セレノシステインを含む[[タンパク質]]は'''セレノプロテイン'''と呼ばれる。


セレノシステインは、[[酸化]]・[[還元]]に関わるいくつかの[[酵素]](グルタチオンペルオキシダーゼ、テトラヨードチロニン-5'-脱ヨウ素化酵素、チオレドキシン還元酵素、ギ酸デヒドロゲナーゼ、グリシン還元酵素や一部のヒドロゲナーゼなど)に存在する。
セレノシステインは、[[酸化]]・[[還元]]に関わるいくつかの[[酵素]](グルタチオンペルオキシダーゼ、テトラヨードチロニン-5'-脱ヨウ素化酵素、チオレドキシン還元酵素、ギ酸デヒドロゲナーゼ、グリシン還元酵素や一部のヒドロゲナーゼなど)に存在する。


タンパク質に含まれる他のアミノ酸と違い、直接[[コドン|遺伝コード]]されているわけではない。セレノシステインは、普通はストップ[[コドン]]として使われるUGAコドンによって、特別の方法でコードされる。すなわち[[mRNA]]中のUGAコドンはSecIS(SElenoCysteine Insertion Sequence、セレノシステイン挿入配列;[[非コードRNA]]参照)がある場合にのみセレノシステインをコードする。SecISは特徴的なヌクレオチド配列と塩基対パターン(二次構造)で決められる。<br>
タンパク質に含まれる他のアミノ酸と違い、直接[[コドン|遺伝コード]]されているわけではない。セレノシステインは、普通はストップ[[コドン]]として使われるUGAコドンによって、特別の方法でコードされる。すなわち [[伝令RNA|mRNA]] 中の UGAコドンはSecIS(SElenoCysteine Insertion Sequence、セレノシステイン挿入配列;[[非コードRNA]]参照)がある場合にのみセレノシステインをコードする。SecISは特徴的なヌクレオチド配列と塩基対パターン(二次構造)で決められる。
[[真正細菌]]ではSecISは[[mRNA]]の翻訳領域内、目的とするUGAコドンのすぐ次に位置している。[[古細菌]]と[[真核生物]]ではSecISはmRNAの3'側非翻訳領域にあり、複数のUGAコドンにセレノシステインをコードさせることができる。また古細菌では5'側非翻訳領域にSecISがある例が少なくとも1つ知られている。セレンがない場合には、セレノプロテインの翻訳はUGAコドンで終止し、短くて機能のないタンパク質ができる。


[[真正細菌]]では SecIS mRNA の翻訳領域内、目的とする UGAコドンのすぐ次に位置している。[[古細菌]]と[[真核生物]]では SecIS mRNA 3'側非翻訳領域にあり、複数の UGAコドンにセレノシステインをコードさせることができる。また古細菌では 5'側非翻訳領域に SecIS がある例が少なくとも1つ知られている。セレンがない場合には、セレノプロテインの翻訳は UGAコドンで終止し、短くて機能のないタンパク質ができる。
他のアミノ酸と同じくセレノシステインに対しては特有の[[tRNA]]がある。しかしセレノシステインtRNA(tRNA(Sec)の一次・二次構造は標準的なtRNAといくつかの点で異なり、特に8塩基対(細菌)または9塩基対(真核生物)からなるacceptor stem、長いvariable region arm、また他のtRNAではよく保存されているいくつかの塩基における置換がある。<BR>

tRNA(Sec)は、まずセリンtRNAリガーゼによって[[セリン]]と結合されるが、これによってできるSer-tRNA(Sec)は普通の翻訳伸長因子(細菌のEF-Tu、真核生物のEF1α)に認識されないため、翻訳に用いられない。その代わりtRNAに結合したセリン残基はセレノシステイン合成酵素([[ピリドキサールリン酸]]を含む酵素)によってセレノシステイン残基に変換される。最後にこうしてできたSec-tRNA(Sec)は特殊型の翻訳伸長因(SelBまたはmSelB)に特異的に結合し、これはセレノプロテインのmRNAを翻訳中の[[リボソーム]]を標的にしてSec-tRNA(Sec)を送り込む。この輸送は、セレノプロテインmRNA内のSecISのつくるRNA二次構造に結合するタンパク質中の特別のドメイン(細菌のSelB)、または、特別のサブユニット(真核生物mSelBのSBP-2)によって行われる。
他のアミノ酸と同じくセレノシステインに対しては特有の [[運搬RNA|tRNA]] がある。しかしセレノシステインtRNA (tRNA(Sec)) の一次・二次構造は標準的な tRNA といくつかの点で異なり、特に8塩基対(細菌)または9塩基対(真核生物)からなる acceptor stem、長い variable region arm、また他の tRNA ではよく保存されているいくつかの塩基における置換がある。

tRNA(Sec) は、まずセリンtRNAリガーゼによって[[セリン]]と結合されるが、これによってできる Ser-tRNA(Sec) は普通の翻訳伸長因子(細菌の EF-Tu、真核生物の EF1α)に認識されないため、翻訳に用いられない。その代わり tRNA に結合したセリン残基はセレノシステイン合成酵素([[ピリドキサールリン酸]]を含む酵素)によってセレノシステイン残基に変換される。最後にこうしてできた Sec-tRNA(Sec) は特殊型の翻訳伸長因(SelB または mSelB)に特異的に結合し、これはセレノプロテインの mRNA を翻訳中の[[リボソーム]]を標的にして Sec-tRNA(Sec) を送り込む。この輸送は、セレノプロテイン mRNA内の SecIS のつくる RNA二次構造に結合するタンパク質中の特別のドメイン(細菌の SelB)、または、特別のサブユニット(真核生物mSelB SBP-2)によって行われる。

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2007年1月17日 (水) 17:46時点における版

セレノシステインの構造式

セレノシステイン (selenocysteine) はアミノ酸の一種である。3文字表記は Sec、1文字表記は Uシステインに似た構造を持つが、システインの硫黄 (S) がセレン (Se) に置き換わっている。セレノシステインを含むタンパク質セレノプロテインと呼ばれる。

セレノシステインは、酸化還元に関わるいくつかの酵素(グルタチオンペルオキシダーゼ、テトラヨードチロニン-5'-脱ヨウ素化酵素、チオレドキシン還元酵素、ギ酸デヒドロゲナーゼ、グリシン還元酵素や一部のヒドロゲナーゼなど)に存在する。

タンパク質に含まれる他のアミノ酸と違い、直接遺伝コードされているわけではない。セレノシステインは、普通はストップコドンとして使われるUGAコドンによって、特別の方法でコードされる。すなわち mRNA 中の UGAコドンはSecIS(SElenoCysteine Insertion Sequence、セレノシステイン挿入配列;非コードRNA参照)がある場合にのみセレノシステインをコードする。SecISは特徴的なヌクレオチド配列と塩基対パターン(二次構造)で決められる。

真正細菌では SecIS は mRNA の翻訳領域内、目的とする UGAコドンのすぐ次に位置している。古細菌真核生物では SecIS は mRNA の 3'側非翻訳領域にあり、複数の UGAコドンにセレノシステインをコードさせることができる。また古細菌では 5'側非翻訳領域に SecIS がある例が少なくとも1つ知られている。セレンがない場合には、セレノプロテインの翻訳は UGAコドンで終止し、短くて機能のないタンパク質ができる。

他のアミノ酸と同じくセレノシステインに対しては特有の tRNA がある。しかしセレノシステインtRNA (tRNA(Sec)) の一次・二次構造は標準的な tRNA といくつかの点で異なり、特に8塩基対(細菌)または9塩基対(真核生物)からなる acceptor stem、長い variable region arm、また他の tRNA ではよく保存されているいくつかの塩基における置換がある。

tRNA(Sec) は、まずセリンtRNAリガーゼによってセリンと結合されるが、これによってできる Ser-tRNA(Sec) は普通の翻訳伸長因子(細菌の EF-Tu、真核生物の EF1α)に認識されないため、翻訳に用いられない。その代わり tRNA に結合したセリン残基はセレノシステイン合成酵素(ピリドキサールリン酸を含む酵素)によってセレノシステイン残基に変換される。最後にこうしてできた Sec-tRNA(Sec) は特殊型の翻訳伸長因(SelB または mSelB)に特異的に結合し、これはセレノプロテインの mRNA を翻訳中のリボソームを標的にして Sec-tRNA(Sec) を送り込む。この輸送は、セレノプロテイン mRNA内の SecIS のつくる RNA二次構造に結合するタンパク質中の特別のドメイン(細菌の SelB)、または、特別のサブユニット(真核生物mSelB の SBP-2)によって行われる。

関連項目