「ハーゲン・ポアズイユ流れ」の版間の差分

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'''ハーゲン・ポアズイユ流れ'''({{lang|en|Hagen-Poiseuille flow}})とは、管径が一定の円管を流れる粘性流体の[[層流]]解<ref name="nt_123">禰津・冨永『水理学』、p.123。</ref>、つまり円形の管の中を層流でゆっくり流れる、水等の粘性流体の流れ方に関する厳密解である。このような流れでは粘性流体の運動方程式である[[ナビエ・ストークス方程式]]を解析的に解くことができ、この流れは数少ない厳密解のうち最も有名でかつ重要な流れである<ref name="nt_122">禰津・冨永『水理学』、p.123。</ref>。
'''ポアズイユの法則''' または'''ハーゲン=ポアズイユの法則''' は粘性流体の[[層流]]流れを求める式である。フランスの学者[[ジャン・ポアズイユ]](とドイツの[[ゴットヒルフ・ハーゲン]])によって導かれた。


特に'''ハーゲン・ポアズイユの法則'''または'''[[#ハーゲン・ポアズイユの式|ハーゲン・ポアズイユの式]]'''({{lang|en|Hagen-Poiseuille equation}})と言った場合には、このような流れにおける(体積)流量に関する公式のことを指す<ref name="kdy_81">日下部・檀・湯城『水理学』、p.81。</ref>。
円筒管を通過する粘性流体の層流ながれの[[流量]]は
また、'''ポアズイユ流れ'''とも呼ばれるが、[[#概要|概要]]で説明されるようにこの呼び方は正当な評価とは言えない。
:<math> \Phi_{V} = {dV\over dt} = v_{s}\pi r^{2} = {\pi r^{4}\over 8 \eta} \left( - { d p^{\star} \over dz}\right) = {\pi r^{4}\over 8 \eta} { \Delta p^{\star} \over \ell} \; , </math>


== 概要 ==
ここで
粘性流体が管径が一定の円管を[[層流]]で流れる場合、その流速分布は、厳密に
::''V''  は単位時間に通過する流体の体積
: <math>u(r) = \frac{g I_e}{4 \nu} \left( a^2 - r^2 \right)</math>
::''v''<sub>s</sub> は半径方向の平均流速
となる<ref name="nt_124">禰津・冨永『水理学』、p.124。</ref>。ここに、<math>u</math>は流下方向の流速、<math>r</math>は円管中心からの断面方向の距離、<math>g</math>は[[重力加速度]]、<math>I_e</math>は動水勾配またはエネルギー勾配<ref group="注" name="n1">管径が一定であるため、速度水頭流下方向に一定となり、ゆえに両者は等しくなる(禰津・冨永『水理学』、p.123)</ref>、<math>\nu</math>は[[動粘性係数]]、<math>a</math>は円管の[[半径]]である。この式は、円管内を層流で流れる粘性流体の速度分布が[[放物線]]を描くことを表わす。
::''r''  は管の内径(半径)
::&Delta;''p''<sup>*</sup> は圧力降下
::&eta; は流体の粘度
::''l'' は流れ方向の長さである。


この流速分布は、[[1893年]]にドイツの[[ゴットヒルフ・ハーゲン]]([[土木技術者]]で、下水道などの設計をしていた)が、[[1840年]]にフランスの[[ジャン・ポアズイユ]]([[医師]]で、血流の研究をしていた)がそれぞれ別々に発見した<ref name="nt_123" />。それで、このような流れの解を'''ハーゲン・ポアズイユ流れ'''と呼ぶ。[[ヨーロッパ]]など、特に技術者より医師の方が社会的地位が高いと考えられていた地域などでは、技術者であるハーゲンの名前をあえて省き、単に'''ポアズイユ流れ'''と呼ぶこともあるが、これは正当な評価とは言えない<ref name="nt_124" />。


なお、この方程式は[[ナビエ・ストークス方程式]](レイノルズ方程式)において、
{{DEFAULTSORT:ほあすいゆのほうそく}}
# 乱れ変動がなく[[レイノルズ応力]]がゼロである(層流条件)
# 流れは定常(時間的に変化しない)
# 断面方向に流れない(流下方向のみに流れる)
という条件から導くことが出来る<ref name="nt_124" />。しかし、先に述べたハーゲンとポアズイユは、このナビエ・ストークス方程式を十分に理解してこの流速分布を誘導したのではなく、実験を行なってその観察などからこの法則を発見したと考えられる<ref name="nt_124" />。

== ハーゲン・ポアズイユの式 ==
[[#概要|概要]]で述べた流速分布式を断面で積分することにより、以下の(体積)流量<math>Q</math>に関するハーゲン・ポアズイユの式が得られる。
:<math>Q = \int^a_0 2\pi r u dr = \frac{\pi g I_e}{8 \nu} a^4</math>
ここで、<math>g</math>は[[重力加速度]]、<math>I_e</math>は動水勾配またはエネルギー勾配<ref group="注" name="n1" />、<math>\nu</math>は[[動粘性係数]]、<math>a</math>は円管の[[半径]]である。

これを変形すると、
:<math>\nu = \frac{\pi g a^4}{8 Q} I_e</math>
となり、半径<math>a</math>の円管を用意し、そこに粘性流体を[[層流]]で流したときに流れる流量<math>Q</math>、および円管内の2点間のピエゾ水頭をピエゾメータで計測して動水勾配<math>I_e</math>を測定できれば、その流体の[[動粘性係数]]<math>\nu</math>を求めることが出来る。

== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|author=禰津家久、冨永晃宏|year=2006|title=水理学|publisher=朝倉書店|id=ISBN 4-254-26139-X}}
* {{Cite book|和書|author=日下部重幸、檀和幸、湯城豊勝|year=2003|title=水理学|publisher=コロナ社|id=ISBN 4-339-05507-7}}
<references />

== 注釈 ==
<references group="注" />

== 関連項目 ==
* [[オイラー方程式 (流体力学)]] - 粘性を仮定しないこの方程式からはハーゲン・ポアズイユ流れは誘導できない
* [[ナビエ・ストークス方程式]] - ハーゲン・ポアズイユ流れはこの式から厳密に誘導される

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[[Category:流体力学]]
[[Category:流体力学]]
[[Category:水理学]]
[[Category:自然科学の法則]]
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[[bs:Hagen-Poiseuilleova jednačina]]
[[bs:Hagen-Poiseuilleova jednačina]]

2009年7月28日 (火) 18:19時点における版

ハーゲン・ポアズイユ流れ(Hagen-Poiseuille flow)とは、管径が一定の円管を流れる粘性流体の層流[1]、つまり円形の管の中を層流でゆっくり流れる、水等の粘性流体の流れ方に関する厳密解である。このような流れでは粘性流体の運動方程式であるナビエ・ストークス方程式を解析的に解くことができ、この流れは数少ない厳密解のうち最も有名でかつ重要な流れである[2]

特にハーゲン・ポアズイユの法則またはハーゲン・ポアズイユの式(Hagen-Poiseuille equation)と言った場合には、このような流れにおける(体積)流量に関する公式のことを指す[3]。 また、ポアズイユ流れとも呼ばれるが、概要で説明されるようにこの呼び方は正当な評価とは言えない。

概要

粘性流体が管径が一定の円管を層流で流れる場合、その流速分布は、厳密に

となる[4]。ここに、は流下方向の流速、は円管中心からの断面方向の距離、重力加速度は動水勾配またはエネルギー勾配[注 1]動粘性係数は円管の半径である。この式は、円管内を層流で流れる粘性流体の速度分布が放物線を描くことを表わす。

この流速分布は、1893年にドイツのゴットヒルフ・ハーゲン土木技術者で、下水道などの設計をしていた)が、1840年にフランスのジャン・ポアズイユ医師で、血流の研究をしていた)がそれぞれ別々に発見した[1]。それで、このような流れの解をハーゲン・ポアズイユ流れと呼ぶ。ヨーロッパなど、特に技術者より医師の方が社会的地位が高いと考えられていた地域などでは、技術者であるハーゲンの名前をあえて省き、単にポアズイユ流れと呼ぶこともあるが、これは正当な評価とは言えない[4]

なお、この方程式はナビエ・ストークス方程式(レイノルズ方程式)において、

  1. 乱れ変動がなくレイノルズ応力がゼロである(層流条件)
  2. 流れは定常(時間的に変化しない)
  3. 断面方向に流れない(流下方向のみに流れる)

という条件から導くことが出来る[4]。しかし、先に述べたハーゲンとポアズイユは、このナビエ・ストークス方程式を十分に理解してこの流速分布を誘導したのではなく、実験を行なってその観察などからこの法則を発見したと考えられる[4]

ハーゲン・ポアズイユの式

概要で述べた流速分布式を断面で積分することにより、以下の(体積)流量に関するハーゲン・ポアズイユの式が得られる。

ここで、重力加速度は動水勾配またはエネルギー勾配[注 1]動粘性係数は円管の半径である。

これを変形すると、

となり、半径の円管を用意し、そこに粘性流体を層流で流したときに流れる流量、および円管内の2点間のピエゾ水頭をピエゾメータで計測して動水勾配を測定できれば、その流体の動粘性係数を求めることが出来る。

参考文献

  • 禰津家久、冨永晃宏『水理学』朝倉書店、2006年。ISBN 4-254-26139-X 
  • 日下部重幸、檀和幸、湯城豊勝『水理学』コロナ社、2003年。ISBN 4-339-05507-7 
  1. ^ a b 禰津・冨永『水理学』、p.123。
  2. ^ 禰津・冨永『水理学』、p.123。
  3. ^ 日下部・檀・湯城『水理学』、p.81。
  4. ^ a b c d 禰津・冨永『水理学』、p.124。

注釈

  1. ^ a b 管径が一定であるため、速度水頭流下方向に一定となり、ゆえに両者は等しくなる(禰津・冨永『水理学』、p.123)

関連項目