平行移動

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平行移動は図形あるいは空間の各点を決まった方向に同じだけ移動させる。
ある軸に対する鏡映とその軸に平行な別の軸に関する鏡映との合成は全体として平行移動を行ったのと同じになる。

ユークリッド幾何学における平行移動(へいこういどう、: translation)は全ての点を決まった方向に一定の距離だけ動かす写像である。

物理学における平行移動は並進運動 (translational motion) と呼ばれる。

概観[編集]

平行移動は各点に定ベクトルを加える操作として解釈することや、座標系原点をずらす操作として解釈することもできる。定ベクトル v に対して、v に対応する平行移動 Tv は、点 P(p)v だけ動かす写像

Tv(p) = p + v

として働く。

平行移動は二つの図形の間の一対一対応や、ある平面から別の平面への写像とみることもできる[1]T が平行移動であるとき、部分集合 A の写像 T によるを、AT による平行移動と呼ぶ。T が定ベクトル v に対応する平行移動 Tv であるとき、ATv による平行移動はしばしば A + v と書かれる。

平行移動を剛体運動として記述することもできる(平行移動の他には回転鏡映)。n-次元ユークリッド空間において任意の平行移動は等距変換である。平行移動全体の成す集合は平行移動群 T(n) を成す。この群はもとの空間(の加法群)と同型であり、ユークリッド群 E(n)正規部分群である。E(n)T(n) による剰余群直交群 O(n) に同型:

E(n)/T(n) ≅ O(n)

である。

ベクトル変数の写像 f(v) に作用する、定ベクトル δ に対応する平行移動作用素 Tδ

で定義される作用素を言う。

行列表現[編集]

平行移動は不動点を持たないアフィン変換である。一方、行列の積は必ず原点を固定する。 にも拘らず、ベクトル空間の平行移動を行列で表すことが、斉次座標系英語版を用いた回避方法によって一般に行われる。

例えば三次元の場合において、ベクトル w = (wx, wy, wz) は四成分の斉次座標 w = (wx, wy, wz, 1)で表せる[2]

各点を斉次座標で書いた斉次ベクトル p を、定ベクトル v だけ平行移動させるには、平行移動行列

を掛ければよい。実際、以下に見るように掛けた結果

は所期のものであることが確認できる。平行移動行列の逆行列は、ベクトルの向きを逆にすればよいから、

で与えられる。同様に、平行移動行列の積は、ベクトルの和に対する平行移動

になる。ベクトルの和は可換であるから、平行移動行列同士の積もそうである(任意の行列の積が非可換であるのとは異なる)。

物理学における平行移動[編集]

物理学における平行移動は並進運動とも呼ばれ、物体の位置を変える運動である(回転運動に対照する)。例えば Whittaker (1988, p. 1) によれば、

If a body is moved from one position to another, and if the lines joining the initial and final points of each of the points of the body are a set of parallel straight lines of length , so that the orientation of the body in space is unaltered, the displacement is called a translation parallel to the direction of the lines, through a distance . (剛体がある位置から別な位置へ動くとき、剛体の各点の始点と終点を結ぶ直線が平行線集合となり、したがって空間における剛体の向きが変わらないならば、この変位を「その直線方向への距離 だけの平行移動」と呼ぶ。)

平行移動は物体の各点 (x, y, z)

なる形の式に従って変化させる操作である。ただし、x, Δy, Δz) は物体の各点に共通のベクトルとする。この物体の各点に共通の平行移動ベクトル x, Δy, Δz) は、(「角」変位 (angular displacement) と呼ばれる回転を含む変位と区別して)ふつう「線型」変位または「直線」変位 (linear displacement) と呼ばれる特定の種類の変位を記述するものである。

時空を考えるとき、時間座標の変化は平行移動であると考えられる。例えば、ガリレイ変換群やポワンカレ群は時間に関する平行移動を含む。

参考文献[編集]

  • Osgood, William F.; Graustein, William C. (1921). Plane and solid analytic geometry. The Macmillan Company 
  • Paul (1981), Robot manipulators: mathematics, programming, and control : the computer control of robot manipulators, Cambridge, MA: MIT Press, https://books.google.com/books?id=UzZ3LAYqvRkC 
  • Whittaker, Edmund Taylor (1988). A Treatise on the Analytical Dynamics of Particles and Rigid Bodies (Reprint of fourth edition of 1936 with foreword by William McCrea ed.). Cambridge University Press. ISBN 0-521-35883-3 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]