入れ墨
入れ墨(いれずみ)とは、装飾・地位・目印や信仰する宗教上の理由等の目的のために墨を人の皮下に入れること、または施術された文様。イレズミという言葉は、色々な漢字で書かれる。入れ墨、 入墨、文身、 剳青、 黥、 刺青、全部「イレズミ」(文身は「ブンシン」とも)と読む。「彫り物」も入れ墨をさして使われる事がある。入れ墨を日本に古くからあるものとして、特に西洋の影響で施す入れ墨をタトゥー(英: tattoo)と呼びわけることが多い。 系統上の違いはあるが、タトゥーと入れ墨の間に根本的な差はなく、英語との翻訳の際にはしばしば互換される。
入れ墨のデザインは、単純なものから、華麗な彩色と模様をかたどるものまで多様である。成人や成人男子一般が入れ墨を施す社会や、一部だけが施す社会、ほとんど見られない社会がある。一部が入れ墨を施す社会では、入れ墨をした人をその社会の一般の構成員と隔てることを表示する機能を担う場合がある。
日本の入れ墨
古代
縄文時代の土器の人形の縄文式文様は入れ墨のしるしだとする説があるが、確証はない。
3世紀の日本について記した『魏志』倭人伝は、男子がみな黥面文身していたと伝える。文身とは、顔以外の身体に入れ墨をすることであり、黥面とは顔に入れ墨をすることである。
時代が下って、『日本書紀』の記事中にも、入墨についての記事がある。武内宿禰の東国からの帰還報告として、蝦夷の男女が文身していたとある(景行27年2月条)。履中天皇が住吉仲(すみのえなか)皇子の反乱に加担した阿曇野連浜子(あずみのむらじはまこ)に、罰として黥面をさせた。河内飼部(かわちのかいべ)の黥面をやめさせた(履中元年4月条、同5年9月条)。宮廷で飼われていた鳥が犬にかみ殺されたので、犬の飼い主に黥面して鳥飼部(とりかいべ)とした(雄略11年10月条)。阿曇野連は漁民でもある海部(あまべ)を統括する氏族であり、河内飼部は馬の飼育にかかわる河内馬飼部(うまかいべ)のことであり、また鳥の飼育をするのが鳥飼部である。これらは、生き物を飼う職能集団であるという共通性がみられる。飼育している生き物からの危害を避け、威嚇する意味も含めて、こうした呪術的意味を含み黥面をしていたと推側する研究者もいる。
江戸時代の入れ墨
江戸時代中期以降は「いれずみ」は刑罰の一部としてのそれを指し、それ以外のものは「ほりもの」と呼ばれた。
刑罰としての入れ墨は、顔など一見してわかる場所に施される(中国などの例)ことが多いが、日本の江戸時代には左腕の上膊部を一周する形を二、三本墨(単色)で彫り込むものであった。これに対し「ほりもの」は主に漁民が行い、出漁中、遭難死した場合の身元確認用に用いられていたようである。
貨幣経済の発達、町人の発展に伴って、装飾としての彫物の技術も発達し、この時代の他国に例を見ない多色のものが発明された。背から腕に掛けての広い領域に武者絵、中国の物語の登場人物、竜虎などの動物、桜花などの風景といった図柄を彫ることが流行した。
現在の日本での入れ墨
本来、入れ墨は消すことができない模様であるが、現代では数日で消えるスタンプによる入れ墨模様を施す店舗がある。
入れ墨は谷崎潤一郎の作品「刺青」以降、一般的には「刺青」と書くことが多い。
しかしその呼び名は用いる人によって異なる。ただ、皮膚に墨を定着させるという意味あいにおいては、どれも同じものを指し示していることが多い。そこでその行為を肯定的に捉えるか、否定的に捉えるかによって使い分けているのが現状である。
また、タトゥーを洋彫り、刺青を和彫りと区別して呼んでいる。一般的には洋彫りはマシーンを用いて、和彫りは手彫りで彫られるが、彫師によってそれは異なる場合がある。
浅草の彫師 彫長(ほりちょう)は、"いれずみ"と"入図美"という文字をあてることにしている。 その意味は、"皮膚に墨を定着させること"は、"美しい図柄を入れること"をさしている。
日本の刺青は海外では認知度が高く、TATTOOのデザインに、日本の図柄を用いるのが世界的なブームにもなっている。
「入れ墨」の単語リスト
- 手彫り (テボリ)-- 手で入れ墨をすること
- 羽彫り (ハネボリ)-- 手彫りのテクニック。針を皮膚に刺した後、針先を跳ね上げるようにして抜くことで、傷口が広がり色素が多く入るので広い面積を早く彫ることができる。
- 突き彫り (ツキボリ) -- 手彫りのテクニック。
- 隠し彫り (カクシボリ)-- 腋下・内股などの身体の「秘密」なところにいれずみをする。花びらなどで隠れた名前・言葉を彫り込むこと。
- 毛彫り (ケボリ)-- 人物や動物の毛の部分を彫ること。筋彫りよりも細い針で彫ることが多い
- 筋彫り(スジボリ) -- 線を彫ること。
- ツブシ -- 塗りつぶすこと
- シャッキ -- 手彫りの音
- マシーン彫り -- 機械の上下運動により肌に墨を突く事。
- 半端彫り(ハンパボリ) -- 彫りの痛みに耐えられなかったり、費用が続かないなどで、彫りが途中で終わっていること。
関連本
- Donald Baruma and Ian Ritchie, The Japanese Tattoo (英語)
- 中野 長四郎 「刺青の真実―浅草彫長「刺青芸術」のすべて」 / 彩流社