扉の外
『扉の外』(とびらのそと)は、電撃文庫より刊行されている土橋真二郎の小説。第13回電撃小説大賞金賞受賞作(受賞時のタイトルは『もしも人工知能が世界を支配していた場合のシミュレーションケース1』)。挿絵は白身魚。全3巻。
ストーリー
修学旅行に向かっていたはずの千葉紀之は、気がつくとクラスメイトと共に見覚えの無い一室に閉じ込められていた。意識を取り戻した生徒たちが混乱する中、ソフィアと名乗る人工知能が現れ、室内での生活の保証を条件に、ルールへの服従をもちかける。
しかし、つい感情的になった千葉は、説明も聞かないままクラスで唯一ソフィアを拒否、次第にクラスから孤立してゆく。呪縛と庇護の奇妙な共同生活が始まった。
ゲームのルール
庇護を受け続けるためには、各自つけられた腕輪を外さないことと、ソフィアの提示するゲームに勝ち残ることが必要である。基本的に暴力行為は禁止であり、腕輪を付けた人間が暴力を振るった場合には腕輪が締まるようになっている。ゲームに直接参加するためには腕輪の装着が必須条件である。また、シェルターには後述のクラブカードが無くても使える水道とカロリーゼリーの蛇口があり、最低限の生活にはコストがかからない。
第1のゲーム
生徒たちが最初に集められているシェルターで行われる。シェルター中央のモニターに表示されるマス目状のマップとハート、ダイヤ、スペード、クラブの4つのパラメータを駆使して行う戦略シミュレーションである。マップ中央には自国を表す丸が表示されており、丸の色がその国のカラーとなっている。また、各国が配置するスペードもそれぞれのカラーでマップ上に表示される。
- ハート
- ハートはシェルター(国)にいる人の数を表す。腕輪を外すとその人数だけハートの数が減る。
- ダイヤ
- 12時間ごとにハート1ポイントにつき1枚だけもらえる。
- ダイヤはゲーム上の通貨の役割を果たし、これを使ってクラブとスペードを買う事が出来る。
- スペード
- 1つ買うにはダイヤが10ポイント必要。
- スペードの役割は2つ。1つ目はマップ上の索敵機能で、これを中心にして5マスまでの範囲を見ることができる。2つ目は武器としての機能で、スペードを他のスペードに隣接させる事によりそのスペードを攻撃することが出来る。攻撃すると、攻撃した側と攻撃された側の双方のスペードが消滅する。また、他国の丸印の上にスペードを乗せるとその国を支配したことになり、その国に配給されるはずだったダイヤは自国にまわされる。12時間ごとに全てのスペードを1回ずつ3マスまで動かすことが出来る。
- クラブ
- ダイヤ1ポイントから買う事が出来る。1ポイントあたりクラブのマークが描かれたカードがハートのマークの枚数分もらえる。
- クラブは、生徒たちの実生活における通貨の役割を果たす。カードを使うことにより、販売機から食料や生活用品などを購入出来る。また、シートに備え付けの機械を使用して映画を見たりゲームをしたりする事ができる。クラブが必要な装置は全て、腕輪を付けた人間にしか操作できない。
部屋から出る扉があるが、出られるのは腕輪を外した人間だけ。二重扉になっており、片方が開いている時はもう片方は開けられない。また、この扉は通常内側からしか開けない。
シェルターは全部で8つあり、同じ高校の二年生がクラスごとに振り分けられている。したがってゲーム内の国の数も8つとなっており、それぞれシェルターへの供給を保つために国を守る必要がある。
扉の外にはトイレ以外何もなく、それぞれのシェルターに続く扉が並んでいるだけである。
第2のゲーム
シェルターフロアの1つ上の階で行われる。腕輪を付けたままの人は、それぞれ違った特色を持つA~Dエリアの4つの部屋の内、1つの部屋に登録することが出来る。腕輪を付けたままの人は登録した部屋にしか入ることが出来ないが、腕輪を付けていない人はどの部屋にも自由に入ることが出来る(部屋の設備は使用できない)。登録した以外の部屋に入ろうとすると腕輪が締まるようになっている。各部屋には一匹ずつ動物を模したキャラクターがいる。4つのエリアへの扉が集合している空間には大型の鳥篭が1つつるされており、鳥篭の真下だけ床がない。下はシェルターフロアの扉の外で、見上げると鳥篭を発見できる。
4つのエリアと鳥篭に人間が登録されると、ゲームは開始され、12時間ごとに1ターン行われる。各エリアはそれぞれ1ターンごとに3種類のカードから1枚を選び、これらを比較して優先順位の高いカードを出したほうが勝ちとなる。選べるカードは天使、人間、悪魔。その内、天使と人間のカードは一度使うと無くなる。悪魔のカードはゲーム中に全部で3枚のみ登場し、他の2つと違い使っても戻ってくる。天使はグー、人間はチョキ、悪魔はパーを表しジャンケンのような関係を持つ。
12時間ごとに1人当たり50のダイヤカードが配られ、シェルターと同じようにそれを使って様々なものを買う事が出来る。ここにはクラブカードは無く、生活用品などもダイヤでやり取りされる。他の部屋で売られているものを買うには3倍のダイヤが必要で、その差額はそのアイテムの売られているエリアに入金される。
- Aエリア(通称:マーケット:食料品店)
- キャラクターはネコのミャンコ。シェルターに比べて多くの種類の食べ物が売られている。広さはハッチの3倍ほど。
- Bエリア(通称:パーク:遊園地)
- キャラクターはネズミのミッキー。バーチャルシートが20台ほどあり、様々なゲームに加えエッチな映像なども見ることが出来る。アルコールやドラッグなどの嗜好品も売られている。広さはハッチの二倍ほど。
- Cエリア(通称:レイク:湖)
- キャラクターはカエルのケロリン。ジャグジーなどを備えたバスルームがある。多くの種類の日用品が売られている。広さはハッチの3倍ほど。
- Dエリア(通称:ハッチ:ウサギ小屋)
- キャラクターはウサギのウサッチ。変わったアイテムが売られている。売られているアイテムはネメシスの電光、真実の目、大いなる選択、自由への鍵。
- 鳥篭
- キャラクターは妖精。5つ目のエリア。鳥篭は吊り下げられており、真下には穴が開いている。穴はシェルターの扉の外の空間の中央の真上に位置している。
このゲームを行う事により、各エリアのキャラクターのハートとオーレが増減する。ハートはそのエリアに登録している人数を表し、ハートが減るとその人数だけそのエリアに登録している人の腕輪が外れる。オーレの初期値は12で、0以下になるとハートが減るようになっている。ハートが0になるとそのエリアのキャラクターは死亡、扉は閉鎖される。閉鎖された直後はそのエリアのものは買う事が出来なくなるがある程度たつとまた買えるようになる。
天使で人間に勝った場合と人間で悪魔に勝った場合、負けた側から勝った側へ1オーレずつ移動される。悪魔で天使に勝った場合、負けた側から勝った側へ1オーレずつ移動され、また、負けた側はゲームが開催された回数だけハートが減る。天使で引き分けになった場合、オーレが1つ増える。人間で引き分けになった場合何も起こらない。悪魔で引き分けになった場合全てのキャラクターのハートが0になる。また、1回ごとに参加料として全てのキャラクターのオーレが1減少する。
ゲームは12回行われるが、残ったエリアが2つ以上あった場合鳥篭は下に落ち、ゲームはリセットされる。
実際には鳥篭もエリアの1つであるため、鳥篭の中の人間を救うには他の4エリアが負ける必要がある。したがってこのゲームの実態は、『自由の利かない鳥篭の中の人間がいかにして周りの人間を動かし、自分を救えるか』というものである。
第3のゲーム
各シェルターにある娯楽シートを使用して、バーチャル世界で行なわれる。ヘルメットとシートの操作装置を用いてプレイヤーが全身で操作する、架空の肉体に乗り移っての銃撃戦。シートの機能を使用するので、腕輪がないと参加できない。
戦闘は全て拳銃を用い、基本的にクラスでチームを組んで獲物を狩る。ゲームで挙げた成果はキャラクターごとにオーレとして貯蓄され、その成果で街のショップで弾丸や防具などを購入しゲーム内での装備の充実をはかることもできるし、またクラブカードを購入して現実世界へと持ち出すことも可能。つまり、現実世界でクラブカードの配給がストップしても、このゲーム内で戦果を上げ続ければクラブカードを得ることができる。 ゲームクリアすると「外への脱出」と「豪華特典」が与えられるが、もしゲーム内でキャラクターが死亡すると現実世界で腕輪が自動的に外れてしまうというペナルティがある。
ゲーム内には3つのマップがある。
- テストマップ
- ゲームを開始すると最初はここから始まる。砂漠の中に、打ち捨てられた工事現場のような雰囲気の廃墟がぽつんと存在している。周囲をフェンスで囲まれたこの廃墟は安全地帯であり、街の役割を果たす。
- 敵は簡単な動きしかしない雑魚敵である動物キャラしか存在しない、練習用マップ。どこかにメインマップへと続く「I」の扉がある。
- メインマップ
- おそらくゲームのメインとして配置されたであろうマップ。草原の中に、石造りの城壁とゲートを持つ街がある。人型の敵「ソルジャー」が存在する。
- またマップ内には他のクラスからログインしてきたプレイヤーも存在する。どこかに東京マップへと続く「II」の扉が現れる。
- 東京マップ
- 現実の東京を精密に再現した、バーチャルリアリティの無人の東京。終わりのない熾烈な敵の攻撃を切り抜け、どこかに現れるゲームクリアへと続く「III」の扉を探さなければならない。
- 弾丸システムとプレイ時間の制約
- 開始時、プレイヤーは拳銃と10発の弾丸を持っている。弾丸は10発以上を携帯することはできず、ショップで弾丸を購入する際も合計10発となるようにまでしか購入することはできない。つまり弾丸の所持上限が初期状態で10発ということであるが、この所持上限は他のプレイヤーキャラクターをゲーム内で殺害(いわゆるプレイヤーキル)することによって、殺されたプレイヤーの所持上限分が殺したプレイヤーの所持上限に加算され、増やすことができる。拳銃以外に武器が存在しないため、弾丸の所持上限の多寡は戦闘力に直結する。
- また、ゲームのプレイ時間が連続して2時間を超えるとログアウトできなくなり永遠に現実世界へ戻れなくなるため、それ以上ゲームを続ける場合でも2時間以内に一旦安全な場所でログアウトし、再度ログインし直す必要がある。
登場人物
◇一組
- 正樹愛美(まさきまなみ)
血液型O型。水泳部。
- 石橋(いしばし)
◇二組
- 中山美鈴(なかやまみすず)
『扉の外III』の主人公。血液型B型。パソコン同好会。
- 神田真央(かんだまお)
血液型O型。
- 沖田宗司(おきたそうじ)
血液型B型。
- 草加(くさか)
- 山本麗奈(やまもとれいな)
◇三組
- 里見幸太郎(さとみこうたろう)
血液型A型。
- 佐藤春香(さとうはるか)
血液型AB型。
- 伊集院誠(いじゅういんまこと)
血液型A型。
- 司馬(しば)
◇四組
- 千葉紀之(ちばのりゆき)
『扉の外』の主人公。
- 和泉玲子(いずみれいこ)
血液型A型。文芸部。
- 大野亜美(おおのあみ)
血液型O型。バスケット部。
- 氷室浩二(ひむろこうじ)
血液型A型。
- 菊池(きくち)
副委員長。
◇六組
- 蒼井典子(あおいのりこ)
血液型AB型。パソコン同好会。
- 黒川雄介(くろかわゆうすけ)
血液型O型。
◇八組
- 高橋進一(たかはししんいち)
『扉の外II』の主人公。血液型A型。
- 上原潤(うえはらじゅん)
- 巻真希(まきまき)
- 水野由香(みずのゆか)
- 三村(みむら)
- 山本(やまもと)
ハンドボール部。
- 伊藤(いとう)
- 中田(なかた)
◇その他
- ソフィア
- ルール進行等を行う人工知能。目と唇だけが大きく描かれているようなデザイン。
- ウサッチ
- ハッチのキャラクター。身長はペットボトルと同じ高さで体重はリンゴ3個分。好きなものはカテキンとタウリン。嫌いなものは猛禽類とにんじん。にんじんが嫌いなのはアレルギーのため。他のエリアのキャラクターに比べて良く喋り、自分から話しかけてくることも多い。
- ミャンコ
- マーケットのキャラクター。
- ミッキー
- パークのキャラクター。
- ケロリン
- レイクのキャラクター。
- 妖精
- 鳥篭のキャラクター。
- イデア
- 『扉の外III』のゲーム内の店員。
- ハギワラマイ
- 『扉の外III』でゲーム内で出会った唯一現在の状況や外の状況を知る引き篭もりで学校も不登校の少女。主人公達とは違う学校で、自宅のパソコンからゲームに参加している。
既刊一覧
- 扉の外(2007年2月25日発行、ISBN 978-4-8402-3717-8)
- 扉の外II(2007年5月25日発行、ISBN 978-4-8402-3849-6)
- 扉の外III(2007年9月10日発行、ISBN 978-4-8402-3980-6 )
第13回電撃小説大賞・金賞受賞作品 | ||
---|---|---|
第12回 | 扉の外 (土橋真二郎) 世界平和は一家団欒のあとに (橋本和也 (作家)) |
第14回 |
哀しみキメラ (来楽零) |
君のための物語 (水鏡希人) |